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6章

夫婦生活は本物となる3~元婚約者視点~

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私は伊集院結愛。私には婚約者がいた。誰もが羨むような素敵な男性。でも一方的に破棄され、新たな婚約者ができたと聞いてから色々とあったけれど、今は素敵な友達が二人もでき、元婚約者だった人は今や素敵だとは思わない。

恋は盲目とはよく言ったものだわ。どれだけ自分が浮かれていたのかがよくわかるだけに、今では黒歴史にもなりそうですの。

今日はその元婚約者の時雨様が私の素敵な友達のひとり、美世を連れて家へとやってきたの。もちろん事前に聞いていたからすぐ客間に通したわ。

「色々迷惑をかけたね」

「もう大丈夫なのね?」

「うん」

最初に話したのは時雨様。聞くまでもないとばかりに幸せそうな笑顔で笑うのだから思わずどきっとしてしまう。見目がいいのは本当に毒でしかない。だけど、もう確かにこの人に恋はしていないと私は断言するわ。

「美世も・・・大丈夫そうね」

「ええ、結愛、ありがとう。」

「また何かあったらいつでも頼りなさい。瑠璃と二人で貴女を匿うわ」

「大丈夫。今は自分の気持ちに気づけたから」

「そうみたいね」

だって美世を祝福したい気持ちの方が大きいもの。瑠璃から幸せそうにしていたと聞いていた通り、雰囲気がとても柔らかい。瑠璃に事前に聞いていないと小さな笑みには気づけなかったと思う。

美世に涙の跡はもうない。泣いた姿が最後だったから、よくよく見ないとわからないとはいえ、美世の幸せを形にした笑顔が見れて私は幸せを分け与えられたかのようにこちらまで気持ちがほんわかとする。

「監視もしていない。でも、まあ、心配だからボディーガードは玄関先につけているけど」

「そのボディーガードが不審者で捕まらないといいわね」

「君のとこの監視こそ不審者なんだけど?」

「大事な友達だもの。当然でしょ?」

「早く結婚相手探しなよ」

「もういっそのこと、瑠璃と結婚しようかしら?」

「私、ヤキモチを妬いてしまいそうだわ」

「冗談よ、美世」

「僕は二人にヤキモチを妬けばいいかな?」

私と普通に会話ができるようになっている時雨様。きっと美世のおかげで多少の女性への嫌悪感は消えたのかもしれない。原因のひとつである私からすれば、よかったという気持ちにもなる。

これが私を認めた上での態度ならなくなった恋心も報われるというもの。

この先二人のためなら、何より美世のためなら私はどんな手でも使おうとするくらいには私が心を許せる大事な人たち。

それを理解してくれる結婚相手は現れるかしら?なんてことを思う。今はただ、幸せな二人を私なりに見守りたいと思った。
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