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5章

夫婦生活の喧嘩大騒動2

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どうせ逃げても監視されているのだから意味はないと気づいて、走るのをやめる。人が通れば裸足のせいか、今だ頬を通る涙があるせいか、視線が痛い。

車のある大通りに出てどうしたものかと立ち止まっていれば、目の前で止まるリムジン。・・・リムジン?

「ごきげんよう、美世。全く女性としてはしたないですわよ。何があったのか聞いてあげますから乗りなさい」

窓から顔を出したのは結愛で、わざわざ運転手が出てきて車の扉を開けてくれ、人の視線から逃げたかったのもあり、乗ることにした。

「なんで、結愛がいるの?」

「・・・その、あくまで友人が心配でしたことを理解いただいてくださる?」

思わず首を傾げた。友人とは私だろう。瑠璃も今はいないし。ただ私が心配でしたことを理解とは?よく意味がわからない。

「ちゃんと話して」

「そうね・・・決して悪気があったわけではないのだけど、監視していたの。貴女を」

「・・・監視?」

まさか時雨以外に監視されているとは思わなかった。一体いつから?

「さすがに家の中まで監視していたわけじゃないわよ?あくまで使いの者に頼んでいただけで、外にいる時だけね」

「なぜ?」

家の中までしているとなれば不法侵入してカメラでも設置されていたのかと疑うところだ。結愛が家に入ったのは初めて会った日以外ないのだから。

「初めに言ったでしょう?心配だったの。美世、あの日以来メールの返事すらくれないのだもの。瑠璃も心配していたわ」

「それは・・・」

あれから時雨とどうなったのか心配する友人たちのメールは読んでいた。読んでいたけど、どう返していいかわからず、会いたい気分にもなれなかった。

「まあ、外からじゃ何もわからなかったけれどね。でも他にも、時雨様の監視もあるから心配はないと思ったのだけど、あの日、互いにいい結果をもたらさなかったなら、その隙をついて何かあるといけないし、こちらからも一応ボディーガードを手配したつもりよ。瑠璃にも外に関しては監視をつけているしね」

随分と過保護な友達を持ったみたいね、私と瑠璃は。まさか影から友人に守られているなんて考えてもいなかった。

「その監視が家をジャージのまま出ていく私を報告したのね?」

「そういうことですわ。しかも、裸足。お節介かもしれませんが、放ってはおけなかったの。時雨様も後から貴女を追いかけるように家を出たものの、オートロックで出るのにでも手間取ったのか、家を出てきた時には美世を見失ったそうよ?」

「監視はひとりじゃないのね」

「三人ほどよ。いつどの人数で襲われたり、誘拐されるかわからないでしょう?でもあまり人数をいれると目立つのもね」

時雨が私を見失ったことに対して、結愛の監視が見失わずにいたことを考えればまさかと思ったけど、そのまさか。瑠璃にも同じくらい監視がつけられているのかしら?

お金持ちの考えることはわからないわね。とはいえ、全員が全員こんなストーカーみたいなことはしないと思うけれど。結愛も一歩間違えれば・・・どうなのかしら。

そんなことを思いながら、監視されていたことに思考がいったせいか、気がつけば涙は止まっていたことに気づく。どうやら気持ちが落ち着いてきたみたいだ。

それだけでも自分をお節介という友人に救われた気がした。
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