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1章

夫婦生活初日の初デート3

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「ロイヤルストレートフラッシュ」

「「「おぉ・・・!」」」

今の私は多くの観客に囲まれている。大人から私と同じくらい、もしくは下の未成年も交えて。やっているのはポーカーという名のカードゲーム。相手はカジノのディーラー・・・ではなく、賭博をしに来ていたお客。その目の前の相手は、冷や汗を掻いて脂ぎった顔をハンカチで何度も拭いている。

ちらりとまるで執事かのように少し後ろに立った時雨を見やれば、にこりと笑みを向けられた。私以外ただひとり動揺ひとつなく、悠然としているのがわかる。

ちなみにこれで勝ち続けて10は越えた。それでいてロイヤルストレートフラッシュまで来るなんて普通ならありえない。かなり運がなければできないこと。それを可能にするということはイカサマをしているってこと。このカジノではイカサマは禁止だが、どうやっているのか指摘されない限りは許される。

基本、イカサマにはイカサマで。ディーラーは相手がイカサマをしていると気づけば指摘できない限りはイカサマで返すらしく、明らかにわかりやすいイカサマであれば指摘することで、イカサマ禁止ルールに乗っ取り、賭け金没収といったのがこのカジノのやり方だそうだ。

なぜ、こんなことになっているのか。それは2時間ほど前のこと。

時雨にエスコートされながらカジノに入り、時雨がカウンターで大量のチップを購入。未成年用は別色チップのようで、そのチップの入った入れ物を時雨に渡された。

成人した人は帰り、チップを換金することで現金としてまた受け取れるらしい。未成年用は一度チップにすると現金には変えられず、残ったチップをカウンター横にある景品交換置き場に並べられている景品と交換できる仕様みたい。

チップ額に応じて交換できるものも違い、ゲームが苦手な未成年はチップをもらうと景品交換を何にしようかと迷いながら買い物感覚で楽しむ子もいるようだ。ちなみにゲームでもらう景品は景品交換置き場では手に入らない若干高価な品らしいので、苦手でもやろうとする子はいるらしい。

景品交換置き場は毎週品替えもするというのだからこのカジノに来たがる子供すらいるとか。お金あってこそ来れる場所ではあるようだけど。

まあ私は普通にカジノを楽しむつもりで選んだのはカードゲーム。瑠璃と二人でよくやっていたのがカード遊び。女子高生で毎日1回は必ずする人は私たち以外見なかったけど、私たちにとってはある意味趣味で、私にとっても楽しいと思えることだった。

ただ普通にトランプをするわけでなく、イカサマを互いに鍛えて、どちらがよりうまくやるかのカードゲームは毎度難易度があがり、普段感情表現豊かな瑠璃も何故かこの時だけは真剣で表情を崩さない。勝負が終われば『負けたー!』と悔しそうな表情でもう一回とねだるのだけど。ちなみに負けたことはないわ。

「ポーカーにする?」

「そうね」

私が一番好きなカードゲームを理解した上でのカジノなら、瑠璃の言っていたゲームセンターよりも断然こちらの方がいい。本当に私を理解しすぎて怖い夫だわ。

なんて思いながらもひそかに雰囲気すら楽しみつつある私がいることを自覚はしている。

「ようこそ、お嬢様。賭け金はいくらになさいますか?」

「ではとりあえずこのくらいで」

今日は純粋に楽しみたいのでイカサマなんてことはしない。少しずつ賭けて見て運に任せてルールに乗っ取って遊ぶ。隣のテーブルでは時雨がやっている。余裕のある笑みの表情から崩さないそれは、時雨なりのポーカーフェイスといったところだろう。

「ツーペアです」

「ワンペアだわ・・・私、運がないわね」

「では、参加賞のこちらを」

初心者と理解してか、勝ちの気分を味わわせようと、逆イカサマで勝てるように手加減してくれた様子なのに申し訳ない。

一度は勝ちを譲るのも商売のひとつなのだろう。ディーラーには悪いけれど、瑠璃の方がイカサマがうまかったわよ?下手ではないけれど。

参加賞はウサギのストラップ。うさぎの胸辺りに気持ち宝石が埋め込まれている。偽物か本物かはわからないけど、参加賞ならそんなものなのだろう。

勝ったり負けたりしながら貯まる景品は用意された袋に詰めながら楽しんでいれば、時雨とは反対隣からうるさい笑い声。

「がっはっはっ弱い、弱い!儲かって仕方ないわ!」

「・・・続けますか?」

「もちろんだ!チップは倍にする!」

機嫌よく笑うのは瑠璃の言葉で表すならデブオヤジだろうか?そちらを見ていれば私の相手をしていたディーラーも気になったのかそちらに視線を向けたようだ。

「フルハウス」

「惜しいなぁ、私はキングのフォアカードだ」

「・・・」

イカサマなのがわかる。ディーラーも理解していてそれでも指摘する場所がわからずイカサマし返すもうまくいっていないようだ。

ちらっと私の相手だったディーラーの方を見れば難しそうな表情。こういう相手は調子に乗せたくないのがカジノ側の意見だろう。でも、私は客の立場、イカサマも理解はできるし、あの程度なら勝てそうだけどでしゃばるのは違う気がする。

「美世、気になるの?君の視線は僕にあってほしいのだけど」

「時雨・・・」

ゲームもせず、時雨以外に視線を向け続けたためか、時雨はゲームを中断してこちらに来たようだ。時雨がいたテーブルを見るとチップを買った時以上に倍のチップになっている。時雨を相手にしていたディーラーが落ち込んでいるように思えるのは気にしない方がいいかな。

そう目を離し、また時雨に向き合おうとしたとたんだった。私がデブオヤジとポーカー勝負をする出来事に至るきっかけとなったのは。
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