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1章
夫婦生活初日の朝食2
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「食べながらになりますが、お話をいたしませんか?」
「はい、美世さんがそうしたいなら」
食パンを食べる姿すら綺麗な人だなと思いながら、まずは会話だと切り出せば、食事中は静かにと思わない人のようで笑顔で返される。まあ、正直時雨さん、私が何をしても嫌がることなさそうだなと思ってはいるけど。
「スルーの方向性でいましたが、時雨さんは私のストーカーですか?」
「そうですね、否定もできないストーカーでしょう。どうやら私は一目惚れした時から、美世さんを誰よりも知り、私が誰より幸せにしたいという欲に囚われまして。美世さんを知らずにしてお付き合いはできないと、ついストーカー行為をしてしまいました。夫婦になってもやめられそうにはありませんね。寧ろ近くで観察できるのは嬉しい限りです」
随分簡単に認められたし、これからもすると宣言までされた。それで困ることがなければ問題はないだろう。私を幸せにしたいなら嫌がることはしなさそうだし。嫌と言う感情すら働かない私からすれば私のすることの邪魔にならなければそれでいいのだけれど。
「そうですか。ちなみに結婚は恋人が仲良くなる過程で決めることだと思っていたんですが、時雨さんの言うお付き合いは最初から結婚を目的としていたんですか?結婚式も随分と早かったですし。」
「最初はゆっくり恋人として気持ちを育んでいくのもいいかとは思ったんです。でも恋人では私の仕事と美世さんの仕事の休日が合わなければ会うのも難しくなります。なら私が養う立場になり、一緒に暮らしてもおかしくない立場、夫婦になればいいと考えてすぐ準備を整え、求婚いたしました。」
「なるほど。時雨さんのご両親も戸惑っていましたが、了承は得ていたんですか?」
「結婚したい女性がいますと言った瞬間は喜んでいました。私はモテる自覚はありますが、それ故自ら近づいてくる女性というものに嫌悪を感じてしまい、それを知る両親は心配してくれていましたから」
「私は貴方から近づいてきましたね」
「これでも仕事上、人を見る目はあります。誰にも興味を示さず、周囲を気にしない堂々さのある美世さんは、私の理想そのものなんです。」
理想。好きな人の理想すら私にはないわね。
「私は恋をしたことがありません。貴方で知れると思い結婚を了承したのですが、恋愛感情を持たれるのは嫌ですか?持つかもわかりませんが」
私中々に酷いことを言っているような気がするけど、まあ本音だし仕方ないわよね。
「理想とはいえ、元が一目惚れです。美世さんならいくら近づかれても嬉しいだけですので、恋愛感情は大歓迎ですよ。」
「それはよかったです。結婚した意味がなくなってしまいますから」
恋するために結婚とはどうかと思われるのはさすがに自覚はしているけど。
「離婚するつもりはありませんから、私以外に恋愛するのは許しませんよ?」
「不倫というものですね。私には恋愛がわかりませんが、時雨さんと結婚したわけですから誰かに恋をしたとしても諦めますよ。失恋もいい経験です」
恋を知らずして、絶対しないとは言えないけれど、諦める努力をするのは結婚した責任として当たり前だろう。
「感情までは縛れませんね。結婚を申し込んで正解でした。恋人だったら簡単に別れられたでしょうから。でも他の男に恋をされないよう私も努力しましょう。失恋させる時点で美世さんを不幸にさせていますし、何より私が我慢なりません。所謂ヤキモチですね」
「ヤキモチですか」
「はい、ヤキモチです。好きな人が他の男に目を奪われるなんて殺意レベルですよ?」
今は笑っているけど、こんな美形に睨まれたら私みたいに動じない人間ならともかく、だいたいの人は怖がりそうね。威圧感とかありそうだわ。
「私の夫ほどかっこいい方を見たことがないので、恋をするなら時雨さんだと思うのですが。結婚しましたし、気持ちにお答えもしたいです」
見た目で決めている時点で最低なのかもしれないけど。夫とはいえ、何も知らないのだから見た目くらいしか語れない。
「美世さんの視線を奪えるなら、中身を見てもらえない要因になる見た目も好きになれますね。美世さんなら見た目で好かれても私は一向に構いません。って話が脱線してきていますね。話を戻しましょうか。とにかく、両親は最初は喜んでいたんです。だから是非連れてきてほしいと、でもまだ会話もしたことがないわけですから、まだ連れてこれないと言えば、今から告白してくるのだと理解してくれたようで応援してくれていたんですが・・・」
ああ、なんとなく理解できたわ。告白して、恋人関係になって、仲を深めたら紹介され、いつしかは結婚して夫婦にとあちらは考えていたんでしょう。でもまさか挨拶なしに帰ってきたら明日には結婚します報告。一週間後に結婚式も用意されていて、あちらからすれば会話もしてなかった他人と何がどうなって状態だっただろう。
「理解いたしました。」
「落ち着いてきたら改めて紹介しますね」
「お願いします。それと、夫婦なら丁寧に話すのもどうかと思うのですが」
「それもそうだね。僕は美世がいいなら普通に素で話させてもらうよ」
「切り換えが早いわね」
「美世こそ。名前とはいえ、時雨さんも他人行儀だと思うけど?」
「そうね。これからよろしく、時雨」
「こちらこそ、じゃあ」
「「ごちそうさま」」
朝食も食べ終わり、食器は時雨が洗ってくれた。朝食の間の短い会話で随分と距離が縮まった気がするのは話し方を素に変えたからだろうか。
恋するためには関係を縮めるのが一番、夫婦関係だけどそういうことじゃない。とりあえず、次は何をするべきかしら?
「はい、美世さんがそうしたいなら」
食パンを食べる姿すら綺麗な人だなと思いながら、まずは会話だと切り出せば、食事中は静かにと思わない人のようで笑顔で返される。まあ、正直時雨さん、私が何をしても嫌がることなさそうだなと思ってはいるけど。
「スルーの方向性でいましたが、時雨さんは私のストーカーですか?」
「そうですね、否定もできないストーカーでしょう。どうやら私は一目惚れした時から、美世さんを誰よりも知り、私が誰より幸せにしたいという欲に囚われまして。美世さんを知らずにしてお付き合いはできないと、ついストーカー行為をしてしまいました。夫婦になってもやめられそうにはありませんね。寧ろ近くで観察できるのは嬉しい限りです」
随分簡単に認められたし、これからもすると宣言までされた。それで困ることがなければ問題はないだろう。私を幸せにしたいなら嫌がることはしなさそうだし。嫌と言う感情すら働かない私からすれば私のすることの邪魔にならなければそれでいいのだけれど。
「そうですか。ちなみに結婚は恋人が仲良くなる過程で決めることだと思っていたんですが、時雨さんの言うお付き合いは最初から結婚を目的としていたんですか?結婚式も随分と早かったですし。」
「最初はゆっくり恋人として気持ちを育んでいくのもいいかとは思ったんです。でも恋人では私の仕事と美世さんの仕事の休日が合わなければ会うのも難しくなります。なら私が養う立場になり、一緒に暮らしてもおかしくない立場、夫婦になればいいと考えてすぐ準備を整え、求婚いたしました。」
「なるほど。時雨さんのご両親も戸惑っていましたが、了承は得ていたんですか?」
「結婚したい女性がいますと言った瞬間は喜んでいました。私はモテる自覚はありますが、それ故自ら近づいてくる女性というものに嫌悪を感じてしまい、それを知る両親は心配してくれていましたから」
「私は貴方から近づいてきましたね」
「これでも仕事上、人を見る目はあります。誰にも興味を示さず、周囲を気にしない堂々さのある美世さんは、私の理想そのものなんです。」
理想。好きな人の理想すら私にはないわね。
「私は恋をしたことがありません。貴方で知れると思い結婚を了承したのですが、恋愛感情を持たれるのは嫌ですか?持つかもわかりませんが」
私中々に酷いことを言っているような気がするけど、まあ本音だし仕方ないわよね。
「理想とはいえ、元が一目惚れです。美世さんならいくら近づかれても嬉しいだけですので、恋愛感情は大歓迎ですよ。」
「それはよかったです。結婚した意味がなくなってしまいますから」
恋するために結婚とはどうかと思われるのはさすがに自覚はしているけど。
「離婚するつもりはありませんから、私以外に恋愛するのは許しませんよ?」
「不倫というものですね。私には恋愛がわかりませんが、時雨さんと結婚したわけですから誰かに恋をしたとしても諦めますよ。失恋もいい経験です」
恋を知らずして、絶対しないとは言えないけれど、諦める努力をするのは結婚した責任として当たり前だろう。
「感情までは縛れませんね。結婚を申し込んで正解でした。恋人だったら簡単に別れられたでしょうから。でも他の男に恋をされないよう私も努力しましょう。失恋させる時点で美世さんを不幸にさせていますし、何より私が我慢なりません。所謂ヤキモチですね」
「ヤキモチですか」
「はい、ヤキモチです。好きな人が他の男に目を奪われるなんて殺意レベルですよ?」
今は笑っているけど、こんな美形に睨まれたら私みたいに動じない人間ならともかく、だいたいの人は怖がりそうね。威圧感とかありそうだわ。
「私の夫ほどかっこいい方を見たことがないので、恋をするなら時雨さんだと思うのですが。結婚しましたし、気持ちにお答えもしたいです」
見た目で決めている時点で最低なのかもしれないけど。夫とはいえ、何も知らないのだから見た目くらいしか語れない。
「美世さんの視線を奪えるなら、中身を見てもらえない要因になる見た目も好きになれますね。美世さんなら見た目で好かれても私は一向に構いません。って話が脱線してきていますね。話を戻しましょうか。とにかく、両親は最初は喜んでいたんです。だから是非連れてきてほしいと、でもまだ会話もしたことがないわけですから、まだ連れてこれないと言えば、今から告白してくるのだと理解してくれたようで応援してくれていたんですが・・・」
ああ、なんとなく理解できたわ。告白して、恋人関係になって、仲を深めたら紹介され、いつしかは結婚して夫婦にとあちらは考えていたんでしょう。でもまさか挨拶なしに帰ってきたら明日には結婚します報告。一週間後に結婚式も用意されていて、あちらからすれば会話もしてなかった他人と何がどうなって状態だっただろう。
「理解いたしました。」
「落ち着いてきたら改めて紹介しますね」
「お願いします。それと、夫婦なら丁寧に話すのもどうかと思うのですが」
「それもそうだね。僕は美世がいいなら普通に素で話させてもらうよ」
「切り換えが早いわね」
「美世こそ。名前とはいえ、時雨さんも他人行儀だと思うけど?」
「そうね。これからよろしく、時雨」
「こちらこそ、じゃあ」
「「ごちそうさま」」
朝食も食べ終わり、食器は時雨が洗ってくれた。朝食の間の短い会話で随分と距離が縮まった気がするのは話し方を素に変えたからだろうか。
恋するためには関係を縮めるのが一番、夫婦関係だけどそういうことじゃない。とりあえず、次は何をするべきかしら?
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