上 下
21 / 39
5章自覚しましょう

4

しおりを挟む
「きゅうに、ごめんにゃさいね?」

「まおうっ!」

「・・・ミーア」

どうやったかはともかく土下座男により天使から大天使の居場所は吐かせ、いざ魔王が向かおうとしたとたん、魔王の前に現れた魔力尽きかけで青ざめる大天使と笑みを絶やさないネコ、そして魔王を見て笑顔で抱きつくミーア。

まるで狙ったかのようなタイミングだ。とりあえずミーアが無事ならと自分を落ち着かせる魔王。今の大天使なら簡単に倒せそうなため、より余裕が出たとも言える。しかし、それより気になるのはネコのメイド姿。最初会った時は平民らしい少女の姿だったはずだからこそ気になった魔王。

「ミーアのせんぞくじじょににゃりにきたわ」

「は?」

魔王の心境は誘拐犯がふざけてるのかの一言に限る。しかし、ネコは真剣だ。上司の望む未来にしないために。何よりミーアの幸せのために。

「じじょにしてくれるにゃら、これをうるわ!」

「ネコ!?」

躊躇いなく魔王に差し出される大天使。誰よりも驚くのは取引の材料に使われた大天使である。ミーアに魔王の説得を頼んでおきながら、いきなり色々頑張ったつもりの大天使を切り捨てるネコは潔い。

「いらないが」

「あらあらあら、いまはいらにゃくても、そのうちひつようににゃるはずよ?まずはミーアのおやにおしおきするためにはね。とことんミーアとおちるにふさわしくつくられたキャラ、ばかじょうしがつくったキャラにめにものをみせるためにね」

「意味がわからない」

ミーアの親に何かしらする分なのは賛成な魔王だが、後半がよくわからなかった。

「いつかわかるわ!ミーアとにゃづけけいやくをしたくにゃるころにね!」

「なづけけいやく?」

ミーアはよくわからない言葉に首を傾げた。

「既にするつもりだが、わからん」

魔王は名付け契約をするつもりの意思を伝えながらも、やはり意味がわからないことを告げた。

「まだわからにゃいかもしれにゃいけど、このさきミーアをたいせつに・・・ん?にゃづけけいやくをするつもりにゃの!?」

「そうだが」

名付け契約を邪魔する気はなさそうだとわかれば、魔王はよくわからないネコに怪訝そうにしながらも答える。

「ミーア、たいへんよ」

「どうしたの?ねこさん」

魔王に触れたことで安心したのか、話しかけられてネコに向き直るミーア。

「もうまおうのこうりゃくはかんりょうしてるわ」

「え」

「にゃづけけいやくというものをまおうからするといわせれば、それがこうりゃくかんりょうのあいずだもの」

「何の話だ」

ネコの協力はもはや無駄に終わっていた。とはいえ、ネコの誘拐もどきが原因とは思っていないネコだが。

「まおう、だいすきっ!」

「み、ミーア?」

攻略完了。即ち、魔王はミーアを裏切るようなことがなくなることを意味する。処刑の未来が確実になくなったことに安心感と嬉しさから再度好意を伝えながらミーアは魔王に向き直って抱きついた。魔王は先程からついていけていない。大天使はネコが自分を売ろうとしたことに壁際で落ち込んでいる。

「てんかいがはやいけれど、さすがミーアだわ。にゃらば、わたしのじょうしふくしゅうけいかくをじっこうするだけね」

「あの、先程から魔王とはルキのことですか?」

「あら」

「しまった・・・」

ぐだぐだな展開に思わぬ一声はあの土下座男。魔王は探知魔法を展開すれば、他にも暗殺部隊が近くに潜んでいることがわかり、顔をしかめた。魔王はミーアがいきなり帰ってきたことで、魔王と呼ばれることを咎めることを忘れていたのだ。

「わ、わたしがしょうかんしたの!さ、さびしくて、その、まおうはわるくないんだよ!だから、だから」

そこで動いたのは意外にもミーアだった。魔王を庇おうと必死だ。魔王とバレて誰より危険なのはミーアだというのに。

「ミーア様、ミーア様は何も悪くありません。私たちの責任です。悪魔召喚をなさったんですね?悪魔じゃなく魔王なのにはかなり驚きましたが」

「うん。だめなこと、わかってたけど・・・」

「だめなことをさせたのは私たちの責任です。それに魔王って案外優しいんだなと感心しましたよ?誰よりもミーア様を大事にしてるのわかりましたから」

「わたし、ころされちゃわない?」

「大丈夫。私たちは誰にも話しません。既にミーア様に忠義を尽くしていこうと決めておりますから。寧ろミーア様を守るためならこの国の王すら暗殺しますよ。私たち、元は王国に支えていた者たちなんで、腕は確かですし」

「え?」

ミーアは思わずネコを見た。ルシアーノ家の使用人は元は王家の使いなのかと。そんな設定があったのかと。

「ミーアのみかたにつくにゃら、すけっとはたのもしいほうがいいかとおもって、やりすぎたかくれせっていがあったわね。さきにはつばいされたゲームではいかせなかったけれど」

開発者ネコ、とんでもない設定をしていた。今ここ現実で頼もしすぎる存在だ。魔王や大天使ほどではなくても。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

とりあえず天使な義弟に癒されることにした。

三谷朱花
恋愛
彼氏が浮気していた。 そして気が付けば、遊んでいた乙女ゲームの世界に悪役のモブ(つまり出番はない)として異世界転生していた。 ついでに、不要なチートな能力を付加されて、楽しむどころじゃなく、気分は最悪。 これは……天使な義弟に癒されるしかないでしょ! ※アルファポリスのみの公開です。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

夫に離縁が切り出せません

えんどう
恋愛
 初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。  妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。

盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹
恋愛
事故で盲目となってしまったローナだったが、その時の衝撃によって自分の前世を思い出した。 思い出してみてわかったのは、自分が転生してしまったここが乙女ゲームの世界だということ。 さらに転生した人物は、"ラスボス令嬢"と呼ばれた性悪な登場人物、ローナ・リーヴェ。 彼女に待ち受けるのは、嫉妬に狂った末に起こる"断罪劇"。 そんなの絶対に嫌! というかそもそも私は、ローナが性悪になる原因の王太子との婚約破棄なんかどうだっていい! 私が好きなのは、幼馴染の彼なのだから。 ということで、どうやら既にローナの事を悪く思ってない幼馴染と甘酸っぱい青春を始めようと思ったのだけどーー あ、あれ?なんでまだ王子様との婚約が破棄されてないの? ゲームじゃ兄との関係って最悪じゃなかったっけ? この年下男子が出てくるのだいぶ先じゃなかった? なんかやけにこの人、私に構ってくるような……というか。 なんか……幼馴染、ヤンデる…………? 「カクヨム」様にて同名義で投稿しております。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

処理中です...