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5章自覚しましょう

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「ミーア、今日はここまででも・・・」

「だ、だめ!まだやしきをでただけだよ!」

今日は天気もいい外出日和。教育をいくら積もうと、外の世界を怖がっていては学園に行けずに教育が無駄に終わる。というわけで、ミーアは前世の記憶を得てから初めての外出だ。

魔王はもちろんミーアを抱き上げようとしたが、今回は自分で歩くとミーアに言われ、手を繋ぐに留めた。

そしていざ屋敷を出てすぐ魔王のこの言葉。過保護が過ぎるだろうと呆れるのは身を隠して着いていくつもりの使用人による暗殺部隊。

しかし、ミーアと手を繋いでいる魔王は、ミーアが既に震えていることに気づいたからこそ言った言葉。とはいえ、ミーアが行くというなら自分が守ればいいとパチンとミーアと繋いだ手とは反対の手の指を鳴らす。

「まおう?なにかしたの?」

「ミーアの髪の色を、黒に見えないよう幻覚の魔法をかけた」

「あ・・・ありがとう!」

「魔法をかけたい気分だっただけだ」

髪の色さえなければ呪い子と見られることはない。それだけでミーアの震えは止まった。

震えを止めて歩き出すミーアに足を合わせて魔王が着いていき、その後ろをこそこそと暗殺部隊が追いかける。

目指すは商店街。公爵家から店が立ち並ぶ商店街まではミーアの幼い足でも近い距離にある。そのため、時間を特にかけることもなく人々が出歩く商店街にミーアたちは足を踏み入れるのだった。

「ひと、いっぱい・・・」

「帰るか?」

「う、ううん。おかいもの、がんばる」

魔王の手をぎゅっと握るミーア。今日の目標は何かをとりあえず買うというもの。難易度の低すぎるおつかいである。

お金は償い中の使用人たちが自ら出し合った結果、幼い子が持つには多い金額になった。そのため、心配なのは商店街はお金の集まる場として、スリが多いということ。

今でこそミーアは魔王によって身なりがよくなっており、魔王自身も身なりがいいため、スリ狙われやすい人物になる。

とはいえ、スリなどまず魔王がさせないし、しようとしたものはもれなく暗殺部隊により命が危うくなること間違いなしだが。

「ミーア、そこのものを適当に買うだけでいいんだぞ?」

「だ、だめ、ちゃんとえらんでかうんだから」

「そうか(これが成長というものか、早いな)」

魔王、心境が親らしくなっていることに気づかず思う。ミーアはミーアで人混みに緊張しながらもほしい品物を探す。こうしてミーアが頑張れるのは単に、魔王が幻覚で黒髪を別色に見えるようにしてくれているだからだろう。

しかし、ついにほしいものをミーアは見つけられなかった。邪魔が入ったからだ。

「みつけたわ、ミーア」

「え?」

「・・・っだれだ?(探知魔法に引っ掛からなかっただと?)」

突如現れたミーアを呼ぶ、ミーアと同じくらいの年の少女。探知魔法で感じられなかった少女に魔王は動揺した。そしてまたミーアも少女を振り返り見て驚き・・・

「うわあぁぁんっ」

泣いた。

「え?え?にゃんでにゃくの?」

「ミーア、どうしたっ」

『な』の発音が危うい少女は戸惑い、魔王は何かされたのかと警戒しつつ心配し、ミーアに目線を合わせるように座る。

「ひろ、いん・・・ふぇえ・・・っ」

「ひろいんだと?」

ミーアの涙は魔王が頭を撫でて、手を離す代わりに抱き締めても収まらない。そんな中、ミーアの言葉に反応したのは魔王。何せ、ミーアが夜泣きする際によく出る言葉だからだ。

ヒロインの意味はわからずとも、ミーアを泣かせている原因がよくわからない少女となれば、魔王は少女相手に殺意がわく。魔王は決して本来幼子に甘いわけではない。あくまでミーアが特別なのだ。本人は認めずにしても。

そしてミーア自身は混乱していた。何故なら、明らかにヒロインの姿であろう少女を目の前にしたために。

ゲームではヒロインに会うのは学園の高等部のはずで、こんな序盤からではない。

「あら、きおくがあるのね。こうつごうだわ」

「娘、ミーアに近づくな」

ヒロイン?少女に殺意を湧かせている魔王は、ミーアを抱き上げ、ヒロイン?少女から離す。

「だめよ、わたし、きょうはミーアにようがあるの。ラフィン」

「かしこまりました」

「貴様は・・・!」

しかし、残念ながら魔王よりもヒロイン?少女の方が上手だった。急にどこからともなく現れた者に魔王を目を見開く。

その者は正しく大天使。周囲は街に現れた大天使の存在に歩みを止め、拝み始めるものもいるほどに神聖な存在。膝をつく人間は、人間に召喚され、人間の姿をした天使。

魔王が知らないはずもなく、ミーアはそれを見て少女がヒロインだと確信した。

「ミーア、だいじょうぶ。あにゃたに、ひどいことはしにゃいわ」

「ミーア!」

相変わらず怪しい『な』の言葉を使う少女、ヒロインがそう言ったとたん、ラフィンと呼ばれた大天使は、祈るように手を組むと、どこからともなく鈴の音が鳴り、ミーアに触れることなく、ミーアとヒロイン、そして大天使の姿さえその場から消した。魔王ができたのは消えるミーアを呼ぶことだけだった。
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