上 下
5 / 28

5

しおりを挟む
「そう………僕がお願いしてもだめなんだ」

「ああ、ごめん」

これも全て未来の龍のためだと思えば龍の辛そうな声に対する心の痛みも耐えられる。

「わかった……」

「そ、うか」

望んでいた言葉なのにその返事を聞いて辛くなる俺はなんて身勝手なのか。せめて俺が女で他人で………なんて夢物語を考えるほど現実逃避はできない。龍が弟だからこそ俺は大切に思えるのだと思うから。

他人であれば出会ってすらいなかったかもしれないし、俺の彼女のようにバイ菌扱いだったかもしれない。

「せめて理由だけ聞いていい?さっき渡っちゃったけど」

「ああ、それぐらいなら」

理由もわからず龍が嫌なことをさせるのだからそれくらいは話すし、さっきも話そうとしていたのだから抵抗はない。それに龍も納得するかしないかは別として。

そういうわけで俺は彼女に振られてきた理由とそれによって龍の未来を案じたことについてそのまま話した。その話に案の定龍はご機嫌ななめだったが。

「兄さん振るとか意味わかんない。兄さんが僕を優先するのは当たり前なのに……いや、振ってくれたのはいいけど、でも兄さんを振るとか何様だし……僕なら絶対大事にするのに」

ぶつぶつと気にくわないとばかりに並べ立てる言葉に思わず吹き出しそうになったが、まあ兄としては嬉しいものでもありつつ最後の言葉には複雑な思いが渦巻く。

その意味は明らかにそういうことなのだと思うと。ブラコンだっただけならまだよかったかもしれないのにと。

何が龍をそうさせてしまったのかと思うと申し訳なく思う。彼女がいたとはいえ、女にモテるのが当たり前と言えるほどの龍が何故俺なんかに兄弟以上の想いを抱いてしまったのかと。

俺が鈍感ならよかったが、さすがにキスされた時点でそう思うには難しすぎた。海外の挨拶を真似たと言われても口にはしないだろうし。わかんねぇけど。

「そういうわけでまずは風呂も寝るのも全部ひとりでな」

「そ、そんな……!せめて寝るのは一年後……いや、十年後にしよう?」

「いや、高校卒業した後も一緒に寝るつもりだったのか?」

可愛い弟がねだるからと狭いベッドで寝てきたが、もういい年齢だしと兄離れさせる以前から一緒に寝ることに関しては思うところがあった俺にとっては驚きである。

それに一緒に寝る気満々だった辺り龍にとっての兄離れと俺にとっての兄離れに食い違いがあるような気がしてならない。一緒に寝てたら兄離れなんてできると思えないだろ?普通。


しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

俺の指をちゅぱちゅぱする癖が治っていない幼馴染

海野
BL
 唯(ゆい)には幼いころから治らない癖がある。それは寝ている間無意識に幼馴染である相馬の指をくわえるというものだ。相馬(そうま)はいつしかそんな唯に自分から指を差し出し、興奮するようになってしまうようになり、起きる直前に慌ててトイレに向かい欲を吐き出していた。  ある日、いつもの様に指を唯の唇に当てると、彼は何故か狸寝入りをしていて…?

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する

知世
BL
大輝は悩んでいた。 完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。 自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは? 自分は聖の邪魔なのでは? ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。 幼なじみ離れをしよう、と。 一方で、聖もまた、悩んでいた。 彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。 自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。 心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。 大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。 だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。 それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。 小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました) 受けと攻め、交互に視点が変わります。 受けは現在、攻めは過去から現在の話です。 拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 宜しくお願い致します。

美形でヤンデレなケモミミ男に求婚されて困ってる話

月夜の晩に
BL
ペットショップで買ったキツネが大人になったら美形ヤンデレケモミミ男になってしまい・・?

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

頭の上に現れた数字が平凡な俺で抜いた数って冗談ですよね?

いぶぷろふぇ
BL
 ある日突然頭の上に謎の数字が見えるようになったごくごく普通の高校生、佐藤栄司。何やら規則性があるらしい数字だが、その意味は分からないまま。  ところが、数字が頭上にある事にも慣れたある日、クラス替えによって隣の席になった学年一のイケメン白田慶は数字に何やら心当たりがあるようで……?   頭上の数字を発端に、普通のはずの高校生がヤンデレ達の愛に巻き込まれていく!? 「白田君!? っていうか、和真も!? 慎吾まで!? ちょ、やめて! そんな目で見つめてこないで!」 美形ヤンデレ攻め×平凡受け ※この作品は以前ぷらいべったーに載せた作品を改題・改稿したものです ※物語は高校生から始まりますが、主人公が成人する後半まで性描写はありません

処理中です...