上 下
1 / 8

1

しおりを挟む
「貴様とは婚約破棄だ!」

卒業式パーティーでそうかっこつけることしか脳のない王子様が隣にピンクの令嬢を抱き寄せながら叫び、空いた指で差したのは私、コリラ・ウッホ。しかし、驚きはしない。私は公爵家の生まれでこうなる日は幼い頃から知っていたから。前世の記憶を生まれながらに持っていたことで。

生まれてすぐ転生とやらをしたのだと不思議と理解していて歩けるようになった頃には、この世界はよくしていた前世の乙女ゲームによく似ているな……から始まり、そのものだと気づいてから私の計画が始まった。本来の悪役令嬢コリラ・ウッホの破滅の未来を変えるために。

とはいえ、派手に動けばヒロインが悪役令嬢に代わるというのはライトノベルの常識とも言える。乙女ゲームだから楽しめただけで現実で痛いラブをする気がなかった私は、目立たずヒロインからヒロインを奪わずに済むようにし、なおかつどうあっても婚約破棄されるイベントをなんとかできるように行動した。

とても単純な方法を用いて。

「殿下、私は殿下の婚約者ではありませんよ?」

あらかじめ私と王子様の間の婚約をなかったことにしたわけだ。いや、正しくは別の方にお譲りしたというべきだろう。陛下たちへの説得は大変でしたけど、この時のためを思えば秘密裏に頑張ったかいがあります。

「何を言っている!私はウッホ家と婚約を交わしているだろう!お前以外に誰がいる!?兄のオサールと婚約していただなんてバカなことは言う気か?」

実際王子様の言うとおり、王子様とウッホ家の娘は私ひとり。でも勉強をおサボりしてそれ以降私に会いにこようとすらしなかった王子様は知らないのだろう。ウッホ家に新しく養女ができたことを。まあ、ヒロインと出会うことで王子様がバカになるのも知っていたので決行したんですけど。

バカがよく私をバカにできるものです。

「そんな殿下みたいなバカな発想はいたしませんわ。寧ろ不思議です。ウッホ家に養女が加わって私に妹ができたことをお知りにならないとは……」

「な……っバカにするな!それくらい知っている!だが、学園で会った試しはない……だろう!」

わざとらしく呆れた様子で言えば顔を真っ赤にして怒る王子様。でも最後自信なさげなせいで知りませんでした感が半端ありません。素直に知らないと言えたらまだ可愛げがありますのに。もしかしたら会っていたのかも?と今記憶を思い返し中ですかね。

「会ってるはずですよ?殿下会話してたじゃありませんか」

だから少しお手伝いをしてあげます。会ったことがあるかないかで記憶も思い返しやすいでしょうから。

「う……っ」

「コリラ様!殿下を困らせるために嘘を言わないでください!」

殿下が記憶にないのか言葉に詰まれば乙女ゲームのヒロインたる令嬢がしゃしゃり出てきました。嘘なんて言ってないのに……困ったヒロインです。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

王太子殿下が欲しいのなら、どうぞどうぞ。

基本二度寝
恋愛
貴族が集まる舞踏会。 王太子の側に侍る妹。 あの子、何をしでかすのかしら。

なにをおっしゃいますやら

基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。 エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。 微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。 エブリシアは苦笑した。 今日までなのだから。 今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

婚約破棄は嘘だった、ですか…?

基本二度寝
恋愛
「君とは婚約破棄をする!」 婚約者ははっきり宣言しました。 「…かしこまりました」 爵位の高い相手から望まれた婚約で、此方には拒否することはできませんでした。 そして、婚約の破棄も拒否はできませんでした。 ※エイプリルフール過ぎてあげるヤツ ※少しだけ続けました

婚約破棄でお願いします

基本二度寝
恋愛
王太子の婚約者、カーリンは男爵令嬢に覚えのない悪行を並べ立てられた。 「君は、そんな人だったのか…」 王太子は男爵令嬢の言葉を鵜呑みにして… ※ギャグかもしれない

眠りから目覚めた王太子は

基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」 ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。 「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」 王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。 しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。 「…?揃いも揃ってどうしたのですか」 王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。 永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。

これは一周目です。二周目はありません。

基本二度寝
恋愛
壇上から王太子と側近子息達、伯爵令嬢がこちらを見下した。 もう必要ないのにイベントは達成したいようだった。 そこまでストーリーに沿わなくてももう結果は出ているのに。

伯爵令嬢は、愛する二人を引き裂く女は悪女だと叫ぶ

基本二度寝
恋愛
「フリージア様、あなたの婚約者のロマンセ様と侯爵令嬢ベルガモ様は愛し合っているのです。 わかりませんか? 貴女は二人を引き裂く悪女なのです!」 伯爵家の令嬢カリーナは、報われぬ恋に嘆く二人をどうにか添い遂げさせてやりたい気持ちで、公爵令嬢フリージアに訴えた。 彼らは互いに家のために結ばれた婚約者を持つ。 だが、気持ちは、心だけは、あなただけだと、周囲の目のある場所で互いの境遇を嘆いていた二人だった。 フリージアは、首を傾げてみせた。 「私にどうしろと」 「愛し合っている二人の為に、身を引いてください」 カリーナの言葉に、フリージアは黙り込み、やがて答えた。 「貴女はそれで構わないの?」 「ええ、結婚は愛し合うもの同士がすべきなのです!」 カリーナにも婚約者は居る。 想い合っている相手が。 だからこそ、悲恋に嘆く彼らに同情したのだった。

瓦礫の上の聖女

基本二度寝
恋愛
聖女イリエーゼは王太子に不貞を咎められ、婚約破棄を宣言された。 もちろんそれは冤罪だが、王太子は偽証まで用意していた。 「イリエーゼ!これで終わりだ」 「…ええ、これで終わりですね」

処理中です...