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5章
知られざる存在
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真っ暗な中、俺を責めるような言葉がたくさん聞こえた。だが、温かいものを感じてそれに飲み込まれずにいる。俺はそれを逃がさないように離さない。
「人間、全の神、目覚めなさい」
知らない声が聞こえた。それに引き寄せられるようにだんだんと責める言葉も消え、目を覚ませば、洞窟とは違い、真っ白な空間で俺は浮いている。逃がさないようにしていたそれは、神様で神様は目の前の者に怪訝な表情を見せている。
「君は・・・誰だ?ここは神界・・・神としたら僕が知らないはずは・・・」
「神様!」
全の神が知らない神よりも、神様が助かったんだと思わず抱き締めていた力を強くする。神様はそれに気づいて俺の頭を撫でながら申し訳なさそうな表情をした。
「ユージン・・・ありがとう。でも君を危ない目に合わせた」
「ううん!神様が無事ならそれでいい!」
「ユージン・・・」
「無事とは限りません」
神様が悲しそうな表情をして、それを知るように目覚める際聞いた声が聞こえ、そちらに視線が行く。それは人と同じ形はせず、ただ虹色に光る玉のようなものが浮いているだけ。
「どういう、こと?」
「ユージンの欲により魂が汚されないよう無意識に身体に蓄積させ、見た目にこそ現れませんが既にボロボロです。全の神は神の力の源が欲に包まれ、弱まりつつあります。今はユージンが引き受けたからこそ理性もあれば、欲を受け止められていますが時間の問題です。」
「そんな・・・」
「やはり・・・身体がボロボロならユージンは死んでしまうんだね。でも魂が無事なら転生はできる。よかった・・・」
「転生?転生したら俺は神様を忘れるんだろ?そんなの・・・そんなの嫌だ!」
「こればかりはどうしようもないんだ・・・」
我が儘なのはわかっている。けど、神様を忘れるくらいなら転生なんてしたくない。
「全の神、私はあなたも人間にし、転生させようと考えています。」
「え?」
「神が人間に?世界へ人間として降りるわけじゃなく、人間になれるというの?」
「はい。弱りきった神の力の源を魂に変換させ、ユージンの魂と一緒に輪廻へ投げ込みます。」
「だけど、神が本当の意味で人間になるなんて僕は聞いたことがない。何より、君みたいな神、僕は知らない」
「知らないのも当然でしょう。神が生まる前から存在した私は輪廻・・・神でもなく人間でもない。ただの輪廻の意識なのですから」
「輪廻・・・ね。僕が人間になるとしても欲は消えない。汚れた魂になるだけで結局転生前に消滅するだけじゃないのか」
「いいえ。本来欲は神が受け持ち続ける者ではないので、溜める形になりました。神はその力により、転生する者に力を与えることで、ユージンが記憶をもったまま転生するなどの芸当はできても、転生させるための輪廻の仕組みを知らないと思います。」
「・・・君は輪廻の意識だからわかると?」
「はい。輪廻は魂の洗い場。だから記憶は消されて、転生いたします。ですが何も洗うのは記憶だけでなく、本人の持つ魂の汚れも洗い流します。ですから、全の神がどんなに欲で汚れた魂を持って輪廻に行こうと輪廻では洗い流され浄化されます」
「なら、僕は無駄なことを・・・していたのか」
「違います。やり方を間違えているのです。悪い欲を放置すればそれこそ人は争うばかりの世界となりましょう。時に争いは必要悪です。ですが、それをある程度制御するために神は悪の欲を受け持つ役割は確かに必要あります。あくまでその者が死ぬ瞬間まで受け持つ、それだけです。死んだ魂が輪廻に入る前に返し、輪廻で洗い流す。それが本来正しい欲の回りであり、全の神の正しいやり方です。」
「そんなやり方が・・・」
「神は輪廻の仕組みを知らないのですから、世界を守るためには仕方ないことです。あなたは頑張りすぎた。私が伝えられるとよかったんですが、たくさんの神、人間、動物が生まれ、輪廻のやるべきことが増えたために、伝えなければと思った時には意識を切り離し、伝えに行く余裕がなかったのです。手遅れになり申し訳ございません。」
「いや、いいよ。元々は後のことを考えることなく、僕たち神が増やした責任もある」
「輪廻、悪い欲を転生前の魂に渡して消化していく方法はだめなの?」
「悪い欲は産み出した本人の記憶ある魂に渡さなければ記憶を混濁させ、何を浄化されているかわからず、自ら魂を消滅させてしまいます。ユージンが魂に悪い欲を溜め込んでいれば転生どころか消滅の道しかありませんでした。全の神は既に理解して悪い欲を取り入れていますし、魂に変換したとしても神としての力が全てなくなるわけではないので、強固な魂となり、浄化はされても消滅することはありません。」
「ユージン、僕はユージンと同じ人間になれるなら喜ばしいことだ。神に未練はないよ」
「神様・・・」
「決まりのようですね。私も輪廻が乱れる前にまた輪廻に意識を戻さねばなりません。ですが、まだ時間はあります。今後このようなことにならぬよう、全の神がいなくなることで新たな統率者、輪廻の仕組みを他の神に伝える必要があります。それとユージンはまだ身体がボロボロでも少しなら持ちますし、全の神もユージンに受け持ってもらった分、同じくらいにあの世界へ一度私の力で戻ることはできます。あなたたちのもうひとりの友達が悲しんでいますから、最後に挨拶くらいはしてもよいと思うのですよ。帰りも私の力でまたこちらに呼び寄せます」
「アーカだ・・・。神様、アーカも神様助けたいって必死だったんだよ」
「そうか。ならお礼も言わないとね。心配かけてごめんねって」
「二度も友を失うのは辛いでしょうが、どうか、二人の言葉で、その者に立ち上がる力になることを祈ります。貴方たちの会いたい人物を言ってください。確実に会うために」
輪廻の言葉で虹色の何かに包まれる。
「「アーカ」」
その瞬間、また意識が遠退いた。
「人間、全の神、目覚めなさい」
知らない声が聞こえた。それに引き寄せられるようにだんだんと責める言葉も消え、目を覚ませば、洞窟とは違い、真っ白な空間で俺は浮いている。逃がさないようにしていたそれは、神様で神様は目の前の者に怪訝な表情を見せている。
「君は・・・誰だ?ここは神界・・・神としたら僕が知らないはずは・・・」
「神様!」
全の神が知らない神よりも、神様が助かったんだと思わず抱き締めていた力を強くする。神様はそれに気づいて俺の頭を撫でながら申し訳なさそうな表情をした。
「ユージン・・・ありがとう。でも君を危ない目に合わせた」
「ううん!神様が無事ならそれでいい!」
「ユージン・・・」
「無事とは限りません」
神様が悲しそうな表情をして、それを知るように目覚める際聞いた声が聞こえ、そちらに視線が行く。それは人と同じ形はせず、ただ虹色に光る玉のようなものが浮いているだけ。
「どういう、こと?」
「ユージンの欲により魂が汚されないよう無意識に身体に蓄積させ、見た目にこそ現れませんが既にボロボロです。全の神は神の力の源が欲に包まれ、弱まりつつあります。今はユージンが引き受けたからこそ理性もあれば、欲を受け止められていますが時間の問題です。」
「そんな・・・」
「やはり・・・身体がボロボロならユージンは死んでしまうんだね。でも魂が無事なら転生はできる。よかった・・・」
「転生?転生したら俺は神様を忘れるんだろ?そんなの・・・そんなの嫌だ!」
「こればかりはどうしようもないんだ・・・」
我が儘なのはわかっている。けど、神様を忘れるくらいなら転生なんてしたくない。
「全の神、私はあなたも人間にし、転生させようと考えています。」
「え?」
「神が人間に?世界へ人間として降りるわけじゃなく、人間になれるというの?」
「はい。弱りきった神の力の源を魂に変換させ、ユージンの魂と一緒に輪廻へ投げ込みます。」
「だけど、神が本当の意味で人間になるなんて僕は聞いたことがない。何より、君みたいな神、僕は知らない」
「知らないのも当然でしょう。神が生まる前から存在した私は輪廻・・・神でもなく人間でもない。ただの輪廻の意識なのですから」
「輪廻・・・ね。僕が人間になるとしても欲は消えない。汚れた魂になるだけで結局転生前に消滅するだけじゃないのか」
「いいえ。本来欲は神が受け持ち続ける者ではないので、溜める形になりました。神はその力により、転生する者に力を与えることで、ユージンが記憶をもったまま転生するなどの芸当はできても、転生させるための輪廻の仕組みを知らないと思います。」
「・・・君は輪廻の意識だからわかると?」
「はい。輪廻は魂の洗い場。だから記憶は消されて、転生いたします。ですが何も洗うのは記憶だけでなく、本人の持つ魂の汚れも洗い流します。ですから、全の神がどんなに欲で汚れた魂を持って輪廻に行こうと輪廻では洗い流され浄化されます」
「なら、僕は無駄なことを・・・していたのか」
「違います。やり方を間違えているのです。悪い欲を放置すればそれこそ人は争うばかりの世界となりましょう。時に争いは必要悪です。ですが、それをある程度制御するために神は悪の欲を受け持つ役割は確かに必要あります。あくまでその者が死ぬ瞬間まで受け持つ、それだけです。死んだ魂が輪廻に入る前に返し、輪廻で洗い流す。それが本来正しい欲の回りであり、全の神の正しいやり方です。」
「そんなやり方が・・・」
「神は輪廻の仕組みを知らないのですから、世界を守るためには仕方ないことです。あなたは頑張りすぎた。私が伝えられるとよかったんですが、たくさんの神、人間、動物が生まれ、輪廻のやるべきことが増えたために、伝えなければと思った時には意識を切り離し、伝えに行く余裕がなかったのです。手遅れになり申し訳ございません。」
「いや、いいよ。元々は後のことを考えることなく、僕たち神が増やした責任もある」
「輪廻、悪い欲を転生前の魂に渡して消化していく方法はだめなの?」
「悪い欲は産み出した本人の記憶ある魂に渡さなければ記憶を混濁させ、何を浄化されているかわからず、自ら魂を消滅させてしまいます。ユージンが魂に悪い欲を溜め込んでいれば転生どころか消滅の道しかありませんでした。全の神は既に理解して悪い欲を取り入れていますし、魂に変換したとしても神としての力が全てなくなるわけではないので、強固な魂となり、浄化はされても消滅することはありません。」
「ユージン、僕はユージンと同じ人間になれるなら喜ばしいことだ。神に未練はないよ」
「神様・・・」
「決まりのようですね。私も輪廻が乱れる前にまた輪廻に意識を戻さねばなりません。ですが、まだ時間はあります。今後このようなことにならぬよう、全の神がいなくなることで新たな統率者、輪廻の仕組みを他の神に伝える必要があります。それとユージンはまだ身体がボロボロでも少しなら持ちますし、全の神もユージンに受け持ってもらった分、同じくらいにあの世界へ一度私の力で戻ることはできます。あなたたちのもうひとりの友達が悲しんでいますから、最後に挨拶くらいはしてもよいと思うのですよ。帰りも私の力でまたこちらに呼び寄せます」
「アーカだ・・・。神様、アーカも神様助けたいって必死だったんだよ」
「そうか。ならお礼も言わないとね。心配かけてごめんねって」
「二度も友を失うのは辛いでしょうが、どうか、二人の言葉で、その者に立ち上がる力になることを祈ります。貴方たちの会いたい人物を言ってください。確実に会うために」
輪廻の言葉で虹色の何かに包まれる。
「「アーカ」」
その瞬間、また意識が遠退いた。
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