上 下
6 / 13

6

しおりを挟む
「すまなかった」

大泣きした私に謝罪したのはダメンズでもリの人でもなくて第二王子殿下だった。しかも人前で私の泣き顔を隠すかのように前から抱き締めて。

「な……に」

いきなりのことに驚きを隠せない。でも涙も止まらないし、どうしていいかわからないしで私は混乱した。

「私は君と婚約したいがために君の婚約者を脅すか、殺すかとそういうことばかり考えていた」

「ひぃ……っ」

急に何やら語り始めた第二王子殿下の言葉にダメンズの小さな悲鳴が聞こえたが、私は第二王子殿下の言葉に耳を傾ける。

「しかし、私が本当にすべきだったことは……私の欲よりも君の心の支えになるべきだったと今ならわかる。ずっと我慢させてきてすまない」

「……っで、んかは……おかし、い……です……っへん、です………っ」

「お、おかしくて、へ、変か……」

別に今回のことにおいて第二王子殿下に非はないし、私なんかに想いを寄せる第二王子殿下はおかしいと思う。なんなら、想いがあるからと見守る行為は普通ならしない。

ショックを受けてるみたいですが、こればかりは不敬罪になったとしても訂正する気にはなれなかった。もう私は我慢したくないし、素直になれない自分が嫌で嫌で仕方なかったから。

本音をぶつけるなんて今までで初めてのこと。嫌な婚約も、嫌な婚約者のことも、嫌な陰口も全部嫌だとも、否定もしてこなかったのだから。

仕方がない……仕方ないんだ。これが貴族に生まれた運命だから……って。

「いやー、雰囲気壊すようで悪いけど、この男、私にくれないかなぁ?」

「兄上……」

そんな中突如私の思考どころか場の雰囲気も気にしない声が響き渡る。それに呆れたような声を出したのは第二王子殿下で、兄上という言葉から相手の正体が第二王子殿下の胸板で顔は見えないものの、第一王子殿下であることがわかった。

「第一王子殿下、私……っ!」

「あ、よく見たら君にも用があったよ……誰かわかんなくて調べて探すところだったからちょうどいいや。弟よ、この男と、この女……私にくれるよね?」

「え?そんな……私」

女の声はリの人。もしかしなくても男とはダメンズのことだろうか?先程から声が聞こえないけれど。リの人の何か期待するかのような声が煩わしい。思わずその苛立った気持ちを第二王子殿下の服を掴むことで無意識に抑えようとした自分に気づき、はっとして離すも気づかれないわけもなく第二王子殿下がこちらを見下げて大丈夫というように微笑まれ、とたんに苛立ちがすっと消え落ち着く自分がいる。

そしてそんな私を見た後、第二王子殿下は私を抱き締めたまま後ろに振り向く。恐らく第一王子殿下の問いに答えるべくそちらに目を向けているのだろう。

「私としては然るべき対応をしていただけるなら構いません。後、ユリの傷がつかないよう婚約も解消していただければ」

「可愛い弟の妻になる女性に傷なんかつけないさ。ただね、私のエミリーをね、この男は口説いたあげく、振られるとエミリーに対して暴言を吐き、暴力を行ったと聞いてね。おかげでエミリーの手首は真っ赤。さらにはその女にもあらぬことを言われ、エミリーの頬に傷をつけたんだ……許せない、許せないよねぇ?特徴がエミリーの言ってた女と似ているから絶対間違いないよ……ははっ本当私が外交に行って見守れない間によくもエミリーを傷つけてくれたものだよね。怖がるエミリーも可愛いけど私以外を忘れられず怖がるエミリーじゃだめなんだよ……。私だけを、私だけを見てくれないと……!ねぇ!そうだよねぇ!?」

「ひ……っわ、わた、私、私じゃ……!」

「……?」

さっきからリの人からしか声が聞こえず不思議に思っていればそっと第二王子殿下から頭を撫でられた。

「あれは気絶している。私が殺気を放ちすぎたかもしれない」

どうやら私の気持ちを察してダメンズの状態を教えてくれたようだ。気絶してたのか……というより、私はいつまで抱き締められているんだろう?だんだん落ち着いてきてから恥ずかしくなってきたのだけど……。

「君じゃなくても私の義理の妹になる人を貶めようとした罪は償わないと……ねえ?」

「私、私は、私は……っ!悪くないわよー!」

「衛兵、罪人を逃がすな。兄上も落ち着け」

「いやあっ!離して!離してよー!」

さっきからスルーしていたけど、第一王子殿下の言う弟の妻とか、義理の妹って私じゃないよね?なんて考えていればリの人が叫び、逃げようとしたのだろう。第二王子殿下がすぐさま衛兵を呼び、リの人があっという間に捕まったのが言葉からしてわかる。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

皇太女の暇つぶし

Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。 「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」 *よくある婚約破棄ものです *初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~

桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」 ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言? ◆本編◆ 婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。 物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。 そして攻略者達の後日談の三部作です。 ◆番外編◆ 番外編を随時更新しています。 全てタイトルの人物が主役となっています。 ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。 なろう様にも掲載中です。

伯爵令嬢が婚約破棄され、兄の騎士団長が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

貴方と私では格が違うのよ~魅了VS魅了~

callas
恋愛
彼女が噂の伯爵令嬢ね…… 魅了魔法を使って高位貴族を虜にしていく彼女。 ついには自分の婚約者までも…… でもね…相手が悪かったわね

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

【完結】「幼馴染が皇子様になって迎えに来てくれた」

まほりろ
恋愛
腹違いの妹を長年に渡りいじめていた罪に問われた私は、第一王子に婚約破棄され、侯爵令嬢の身分を剥奪され、塔の最上階に閉じ込められていた。 私が腹違いの妹のマダリンをいじめたという事実はない。  私が断罪され兵士に取り押さえられたときマダリンは、第一王子のワルデマー殿下に抱きしめられにやにやと笑っていた。 私は妹にはめられたのだ。 牢屋の中で絶望していた私の前に現れたのは、幼い頃私に使えていた執事見習いのレイだった。 「迎えに来ましたよ、メリセントお嬢様」 そう言って、彼はニッコリとほほ笑んだ ※他のサイトにも投稿してます。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

処理中です...