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「ああっ!気味が悪い!」

ヒステリックに叫ぶ女性は僕の母。僕はそれをじっと眺めているだけ。隣にお兄さんと。

何故かお兄さんは僕だけにしか見えていない。

「おにいさん、なんでママはおこってるの?」

『人間のことはわからない。殺してほしいなら殺すが?』

「べつにどっちでもいい」

お兄さんは最初こそ驚いていたけど、話しかければ必ず応じてくれ、必ず殺してほしいならと僕に聞く。お兄さんは死神であり、神様だから人を殺すのが許されるからと。

でも母は毎日僕を見ては気持ち悪いと叫ぶだけなので実害はないと僕はただじっと母を見るだけ。今思えば僕はこの時から既におかしかったのかもしれない。

そんな僕が『死神』と呼ばれるきっかけとなる最初の死は突然現れた。

「こんな子生まなければよかった!」

「………っ」

初めて感じる頬の痛み。ついに叫ぶだけじゃ足りずに母は僕に手を出したのだ。一度で終わるはずもなく二度目に振り上げられた手に目を瞑れば、痛みは来ず、不思議に思って目を開ければ目の前には吐血する母の姿。

「ごほ……っ」

「え?」

そしてついには白目で後ろに倒れた。何が起こったのかと驚きこそしたが、隣に浮くお兄さんを見ればお兄さんも同じように驚いていた顔をしていた。

『……?気がつけば殺していた』

お兄さんがやったのか。あまりのタイミングのよさにやっぱりと思う気持ちと、殺したことよりも何故殺したのかという疑問を抱く辺り、やはり死神なのだなと思う。首をかしげる死神に僕も同じように首を傾げて聞く。

「ママ、しんだの?」

『ああ、それは俺が自ら魂ごと殺したからな。生き返るのは無理だ』

平然と言ってのける死神に僕は特に何も感じなかった。それよりもあったのはこの状況をどう対処すればという考えだけ。僕にとって母が初めての人間の死だったから。

「ママ、どうしよう?」

『もうすぐお前の父が帰ってくる。それからでいいだろう。どうせ死んでいる』

「そっか」

お兄さんの言葉に従って僕はその日父が帰るまで死んだ母を眺めながら待った。特に大した意味もなく。

母は最後までお兄さんと話す僕を気味が悪い、やめろ、そんな目で見るなとうるさい人だったから、その日は久々にお兄さんと二人。静かに過ごせたように思う。

それから帰ってきた父は帰るや否や母が倒れていることに慌てた様子でどこかへ電話していた。

「何があったんだ?」

「しにがみのおにいさんがやっちゃったんだって」

僕は素直に言ったのに。父にはふざけないでちゃんと話すように言われた。だから同じことを繰り返し言えば母と同じように殴られて僕の体は地面に叩きつけられる。

「ぐ……っあっ」

しかし、母の時とはまた違い苦しそうに首をかきむしり息を荒くする父。それはまるで首を締められて苦しいとでもいうように。

また死神のお兄さんが?と思い、見ればお兄さんは眉をつり上げ、怒った様子だった。そして父が母の上にゴミのように積まれるが如く倒れてはっとした様子のお兄さん。

『また、やってしまった……何故?』

「………」

本人は何も気づいていない様子だったが、僕にはわかった。僕を守るために無意識にお兄さんが怒りで両親を殺したのだと。

そしてこの時から僕の死神生活は始まった。
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