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結局熱が下がったのは二日経った頃。とはいえ、体を好きに動かせるわけもない。腕も動かせず、これでは熱が下がっても尚、前世とそう変わらない。熱のときも思ったけど首もまともに動けないだけに悪化してるとも言える。

「あぅぁ?」

いや、声が出せるだけいいのだろうか。それはともかく、僕自身よくわからない言葉で疑問文を声に出した理由は、先程まで僕を抱いていた青年が僕をベビーベットに戻したから。

「仕事をしてくる。寝ていろ」

確かに抱かれていた時に見えた窓の外は暗かったし、夜は寝る時間。こんな時間の仕事も気になるが、赤ん坊を寝かせるようなことすらせず一人にしようとする辺り大事にされている気がしない。

我が儘なのはわかっている。大事にされているなんてのも自惚れだと。まだ1週間も経っていないのに。でも熱の間、ずっと傍にいて僕を気にかけてくれる言葉や態度にどうしても夢を見てしまう。

「ふえぇぇんっ」

赤ん坊だからか、不安な気持ちは外に出してしまった。扉を開ける音が一瞬聞こえただけに、本当に仕事に出ようとしたのだろう。

「何故、泣いている」

心底意味がわからないとばかりに戻ってきた青年、大声で泣いたせいとはいえ、戻ってきてくれたことが嬉しく感じ、僕はすぐ涙を止めた。決してわざと泣けたわけではないけど。

「あーあー」

僕も連れてってなんて伝えられるはずもないし、伝えられても子供が、しかも赤ん坊が行ってもいい仕事なのかもわからない。

でも生きているならひとりは嫌だ。心からそう思った。

「………支障はないか」

青年が何か呟いたかと思えば毛布を巻いてから僕を抱き上げる。そしてそのまま玄関へ向かい、外へ。

(あれ?仕事に連れてってもらえる?)

どこよりも安心する青年の腕の中。夜は冷える。顔は冷たくても毛布のおかげで体までは冷えない。青年の気遣いがわかる瞬間だ。

また森から街へでも行くのかと思えば、青年が外に出た瞬間止まり、片手で僕を抱き直してベビーベットを出現させた時のように何もない空間に腕を伸ばして手のひらを広げた。

現れたのは青年より少し大きい黒いもやのようなもの。青年は手を下ろしてその黒いもやの中へ突き進んだ。

そしてその先は既に街の中。これができるなら初めて出会った日もしてくれればとは思いもしたが、寧ろできていたなら、出会いはなかったかもしれない。今思えば何故路地裏にいたのかすら疑問だ。あの時は何かできない事情でもあったのだろうか?

それに街の中だが、仕事場的な場所はない。どこも電気が消されていてお店というわけでもなさそうな普通の家に見える。

なんて思っていれば青年は歩き出して普通の家というより屋敷が立ち並ぶ場所へと移動した。護衛か何かの仕事だろうか?と考えていれば、ひとつ趣味の悪い金に輝く屋敷で青年が進行方向を変え、その屋敷へ進む。

門前には既に二人、鎧を着た誰かがいた。門番というやつだろうか。

「こんな時間に誰だ………いや、貴様!アオガネか!」

「な、何のようだ」

青年に向かって叫ばれた警戒の言葉とアオガネという名。この時初めて僕は青年の名をアオガネと知った。そして、護衛の仕事ではないのもすぐわかった。

(アオガネ……この人、有名なんだ)

「お前らに用はない」

そうアオガネが声に出したとたん、門番二人の首が落ちた。アオガネが何かしたのだろう。自分の死はともかく、人の死、しかも故意的なもので見たのはこの時が初めてで崩れ落ちる門番の体と流れ出る血が怖くて目を閉じた。

「眠いなら寝ろ」

アオガネはそれを勘違いした様子で、返り血ひとつ浴びることなく平然とした口調だ。慣れた様子から人を殺すのを生業にした仕事なのだと理解はした。

(この人、アオガネといたいなら僕も慣れないと………でも、気持ち悪い……)

結局僕は初めての人の死のショックで気絶でもするように意識が途絶えた。
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