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その翌日から僕はなんだか不安が掻き立てられて兄に甘え、自ら兄から離れることが自分でも異常と自覚するほどに怖くなった。

「兄上、まだ僕を好き?」

「愛している………ずっとな」

何度も何度も好意を確認するようになったのに、兄は面倒そうにもせず答えてくれて安堵する日々。

好意を返さない僕に呆れることもなく、ただただ僕の傍で好意を伝え続けてくれる兄だが、それでもやっぱり不安は何度も繰り返し生まれた。

生まれることすら望まれなかった僕という事実が思ったよりも辛かったのかもしれない。だから、兄を変えかねない女性が現れることが怖くて仕方なかった。

全てが変わっている今、いつ現れるかもわからない。兄が離れていけば、調僕にはもう何も残らない事実だけがそこにある。

兄が離れれば死ねばいいなんてもう無理だ。だって兄に大事にされることを知ってしまった。もしかしたらと離れていってもまた期待してしまう自信がある。

そうしたらきっとまた僕は同じ歴史を繰り返してしまうはずだ。

「兄上、離れないで」

「離れない。何が怖い?フィーネを怖がらせるものは消してしまえばいい」

「……っ言うのが、怖い」

「何故怖いんだ?」

「だって………」

その名を出して兄とあの人が出会う機会を得てしまったら?それで今のこの瞬間が夢物語に終わってしまったら?

僕は狂ってしまう。自分が生んだその展開に。自分の行動にもう後悔なんてしたくないのに。

「………言いたくなればいつでも言えばいい」

「ごめんなさい、兄上」

「謝るな。楽しいことを考えよう」

優しい兄上は僕を問い詰めない。僕を幸せにしようと、楽しませようとしてくれる。これはやり直しではなく、僕が望んだ世界なんじゃないかと錯覚してしまいそうにすらなった。

でもこれは現実で、だからこそ絶対ではない。

しかし、そんな不安な日々も、ある日、新聞から得た情報で消えることとなる。

「………リベージ国王女エネミー姫が行方不明?」

エネミー姫……その名こそ一度目の兄を笑顔にし、兄が想っただろう女性だった。まさか、こうして新聞で知ることになるとは………。それに行方不明とは一体何があったのか。

いや……それよりも、兄が見てしまった。新聞に大きく載ったエネミーの絵姿を。

「エネミー姫か」

「兄上、あの、この絵姿を見て何か………」

「こんな醜い女が存在したんだなと驚いたな」

「み、醜い………?」

「腹立たしい顔だ」

勇気を持って聞いた返答がまさかの醜い女。さらには腹立たしいとまで。あまりな返答に、僕はもしかして考えすぎていたのかもしれないと考えを改めることができた。

エネミーは世界一の美女と言われているからこそ、こうして別の国の新聞にまで大きく掲載されているのに、兄は憎々しげにエネミーの絵姿を見ていたのだから。

何か恨みでもあるのか?と聞きたくなるほどに。

あまりにそれが顔に出ているから、演技とも思えないし、ここまで表情が歪められるならエネミーに兄からの愛をとられるとは到底思えなかった。

行方不明なのが気になるけれど、今の兄はあの女性……エネミーと会っても僕を見捨てはしないだろうとこの時になってようやく僕は安心することができたのだった。

この行方不明が兄によってもたらされ、後々事件に巻き込まれることも知らずに。
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