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21~シリウス視点~

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あんな親を想うことのできるフィーネは心が成長していない純粋な子供のようだ。

ぽろぽろと涙を流す姿に、俺は情けなくも何も言えなかった。俺はそこまで親に対して期待などしてはいなかったから。

フィーネと父は一緒だから比べるまでもなかったが、互いの母は子供に対して同じように無関心とはいえ、関わり方は断然違ったせいかもしれない。

フィーネの母は無関心そのままを突き進むように、フィーネをいないものとして見ているんじゃないかというほどに関わろうとはしなかったのに対して、俺の母は必要以上に関わろうとした。

しかし、それは子供への関心というよりも自分のための道具にするためと言えただろう。父みたいに必要最低限ならばまだよかったかもしれないと思うほどに、必要以上に関わろうとした人だ。

全ては俺を皇帝にすることで、俺を操り立場を、そしてその立場を利用した上で父を我が物にするために。

愛のためにならまるで何をしても許される、許されなければならないと言いながら狂ったように父の愛を求めた俺の母は、皇族の血筋でもないのに、誰よりも皇族に近い何かを持っていた。

【貴方は皇帝となるの。あの女の息子に皇太子の座を奪われるなど許されないわ】

俺の母は愛に対して貪欲で狂っている部分を除けば、天才と言われる存在であったが、あの母にとってそれはできて当たり前のことで、自分と同じくらいできない道具を許しはしなかった。

【何故こんなこともできないのかしら。あの方と私の子供でしょう?やる気がないのかしら?私を怒らせたいの?貴方まで私をバカにするの?】

勝手に被害妄想を膨らませては鞭で容赦なく叩かれたことは数えきれない。うまくできてもそれは当たり前として、ならば次と課題を出されるだけ。

しかし、俺もまた母の才能を受け継いでいたのだろう。母の進めたいところまでできるようになった辺りから休憩を入れてもらえるようになり、自由を得た。母が同じ年にできていたこと以上の課題をこなせば自由ができると知れば後は簡単なことだった。

そしてそんな自由の中で出会ったのが異母兄弟のフィーネ。ひとり花を摘んでいるまだ5歳の子供だった。出会ったというのは語弊かもしれない。母に敵意を抱けとばかりに何度か見ることも、軽く会う程度はあったから。

しかし、母のいない場所で会うのはその時が初めてだった。

「何をしている」

「あ、おにいしゃま」

まだこの時は舌足らずで兄上ではなく、お兄様と俺を呼んでいた。お父様、お母様は変わらないのに何故俺だけは兄上に変わってしまったのか。それだけは残念でならない。

おにいしゃま、可愛かったのに。いつか改めて呼ぶようにするのも悪くない。

「おはなね、ちゅんでるの。おかあしゃまにあげりゅんだよ。おはなきれいだから、おかあしゃまよろこんでくれりゅよね?」

「………わからない。俺は……いいと思うが」

この時、幼く、母の愛を純粋に求めるフィーネの姿に、俺は嘘を吐いた。皇妃がどんな人かは母を通じてこの時のフィーネ以上によく知っていたから。

嘘を吐いたのは、なんとなくまだ母の期待に応えようとしていた時の自分と重ねたからだろう。この時には既に母から自由を得るくらいにしか考えていなかったが。

しかし、その辺りからフィーネが個人的に気になり始めて自由な休憩時間には探すのが癖になった。
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