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お墓を後にしてそのまま城へ戻るのかと思えば、そんなことはなく、何故か森の中へ。

「兄上、どちらに向かって……?」

「ついでだからな。見せたい場所がある」

「護衛もいないのに……大丈夫なの?」

「護衛など見た目だけだ。フィーネを抱えたままでも俺の方が強い」

お墓に行くまでも護衛がいないことがなんとなく不思議ではあったけど、すぐ着いたのもあり、まあいいのかなと思っていたけれど、ここまで寄り道をするとなるとやっぱり疑問で聞いてみればこの解答。

想像がつかないけれど、世界を滅ぼしたという兄なら嘘はないのかもしれない。でも、皇帝の力を使ってなら、兄個人がいくら強くても、人数が多い悪党に狙われたとしたらそんなことも言ってられないように思う。

本当に護衛がいなくていいのか不安だけれど、兄がいらないというなら僕は何も言う気はない。兄が死ぬときは僕も死ぬときなのだから。

一緒に生きるか、死ぬか、どちらかが叶うならそれでいいと僕は思う。

「……?止まった?まだ森の中……」

そう考えていると、まだ森の中で馬車が止まり何かあったのかと不安になる。しかし、兄は僕を抱えて迷わずそのまま馬車を出たので、ここに何かあるのだろうか?と考え直すも、兄はそのまま歩き出し、途中から見え出した坂を軽い足取りで登っていく。

「兄上、僕、ちょっとなら歩けるよ?」

「大丈夫だ。この坂はしばらく続く。道が整っているわけでもないからフィーネには危ないだろう」

そんな道だからこそ僕を抱えたまま歩くのは危ないんじゃとは思ったものの、兄はよほど体力があるのか疲れひとつ見せないのだから驚きだ。

決して兄を見くびっているわけではない。ただ、人を抱えながらの山登りは中々体力を消耗するだろうことは僕にだってわかるから。

なのにこの兄はまだ続く坂を平気そうに登っていくのだから、普段どういう過ごし方をしたらそれほどの力や体力をつけれるのか知りたくなるというもの。

知ったところで僕にそこまでの力がつけられるかは疑問だけど。兄を僕が抱える日なんて想像できないし……うん。

「ここだ」

しばらくして、短いようで長い坂道は終わりを告げて、見えた光景は色とりどりの花に囲まれたハート型の湖だった。

「ハート……?花もたくさん……」

「夜に見る方が月が水面に映って綺麗なんだが、明るい内でも太陽の光で水面が光っているようで綺麗だろう?」

「うん……すごく」

まるで湖全体が光輝いて僕らを祝福でもしてくれているかのようだ。それにこんな色とりどりの花を一斉に見たのは初めてかもしれない。

「ここはどういうわけか、この湖の周りではどんな花も枯れることがないみたいでな。皇家に新たな命が誕生したら植えられてない花を一輪植える決まりで、それが繰り返されることでこの色とりどりの花畑ができたらしい」

「僕や兄上も生まれたとき植えられたの?」

「ああ、そうだな」

こんな場所があることも、そんな歴史があったことも僕は初めて知った。兄は誰から聞いたんだろう?

「兄上、ここのことは……」

「これだ、フィーネの花は」

「これは……?」

「アンモビウム」

「アンモビウム……」

これが……僕の花。
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