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「名前の話もいいが、せっかくの墓前だ。親に何か言うことはないのか?」

「思い付かないんだ……何も」

墓に来れば不思議と言いたいことが出てくるんじゃないかと思ってたのに、何も思い付かないからお墓について話をしてみたけど、それ以外何も思い浮かばなかった。

これが兄だったなら、違っただろうか?でも、きっと兄が死んでいるとわかったら、僕は今生きてすらいないだろう。生きる理由がなくなるから。

「俺たちの父は自分が愛されて当然だと自分に酔い、自分への愛が他に向くことを嫌がるような愚か者だった。だからこそ同じ血を引く子供は道具だという認識で、俺たちに必要最低限関わることすらしなかったんだ。自分は愛されて当然だと思えたのが皇家の血を持つからこそだとわかってはいたんだろうな。だから同じ血を持つ子供を遠ざけた。自分への愛が盗られると感じて。馬鹿馬鹿しいと思うか?」

愛が盗られる………か。

「………馬鹿馬鹿しいとは思わないけど、哀れな人だとは思うよ。この血がなければ愛されないと思って生きてきたんだったら」

皇家の血がなければ愛されないなんて、もはやそれは愛ではない。愛が盗られると恐怖する気持ちはわかるけどね。

一度目で兄があの女性に見せた笑顔は今でも消えないから。あの時の兄は僕に愛のかけらもなかったかもしれないけど、ない愛だからこそ、羨ましかったし、彼女だけが特別な愛を与えられたのだと思うと、本当の意味で自分の兄を盗られたような気がした。

うん……そう思うとしっくり来る。兄を笑顔にさせたのが自分じゃない悔しさもあったけど、大部分はそれだったのかもしれない。

皇帝としての兄と家族としての兄を、僕はどこかで分けて考えていたのだろう。どちらも手に入れられないとわかれば絶望してもおかしくはない。

自分のことなのにまるで他人事のように考えているな。それもこれも、今は兄が傍にいてくれるからこそ気持ちに余裕が出てきたのだろう。

最初はやり直したい気持ちなんてなかったけれど、今はやり直せてよかったと思っている。兄とこんなにも穏やかな気持ちで一緒にいられるのだから。

まだたった2日なのに、それだけで満足してしまう自分は本当に単純だと思う。

ああ、お父様、ひとつだけ言葉を言うならば、僕はお父様みたいにたくさんの愛よりも、兄からどんな形でもいいから愛を与えてもらえるならそれだけで満足です。

だから貴方の、親の愛を求めた時はないとは言えないからこそ、今はっきり申します。もう親である貴方の愛はいりませんと。お母様も同様です。

お母様はきっとお父様を愛していたんですよね?だから同じように僕を愛そうとはしなかった。それでいいと思います。どうか二人で愛に包まれてお幸せに。

兄の母には悪いけれど………二人を殺したのが兄の母なら、それくらいの罰はいいよね。兄の母が父を愛したかはわからないけれど。

「兄上、もういいよ。多分二度とは来ないかな。親不孝者だと思う?」

「子供に興味を示さず道具と見ていた親に親不孝という言葉は存在しないだろう。それに俺の母は犯罪者として墓すらないが、皇帝である俺なら小さい墓くらい作ることはできなくもない。なのに作る気さえ起きないのだから、その言葉が存在するなら俺の方がよっぽどだろう?」

「立場を利用して無理に作れば反感を生みかねないから仕方がないと思うし、それは兄上の母君の自業自得……じゃないかな」

「自業自得……か。そうかもな」

結局僕も兄も親に対して情がないみたいだ。親という認識があるだけいいのか悪いのか。少しでもこちらに家族として目を向けてくれていたなら……また違った想いがあっただろうか。
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