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2章睡眠の偉大さを知りました

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ネムリンの母親の誘いを無下にするわけもなくルーベルトは了承したし、ようやく解放されると思っていたネムリンは信じられない気持ちでマートモを見た。

そんな娘にマートモはただ微笑むのみで………まるで最初からそのつもりでしたとばかりにお茶会の場は設けられていた。

「ラヴィン公爵様、改めまして娘を婚約者と認めていただきありがとうございます。ラヴィン公爵様が娘を婚約者に選んでくださったお陰で娘を厄介な嫁ぎ先へ行かせずに済みました」

「厄介な嫁ぎ先?」

「娘は地味ですが男性にも匹敵する有り余る力があるために、それを好むへんた………殿方が、娘を妻にとうるさかったのです。それも夫と同じ年頃の男性ばかりでさすがに親として断ってきましたが、最近侯爵家の子息のひとりが娘と年が近いからと何度もしつこかったのです。あちらが身分としては上なため下手な対応もできず………」

「地味だなんて………ネムリンは可愛く、綺麗ですよ、どこの誰よりも。にしてもそれは捨て置けないですね」

やれやれとばかりに話すマートモの内容にルーベルトは内心穏やかではなくなっている。何せネムリンに関したことなのだからルーベルトからすれば当たり前だ。ちゃっかりネムリンが地味ではないと否定する辺り、ルーベルトが見るネムリンの姿は女神フィルターがかかっているのがわかる。

そんな女神フィルターで見るネムリンはルーベルトからすればどこの令嬢にも劣らないどころか大きな差をつけて可愛くもあり、綺麗でもある存在だ。

女神フィルターに恋は盲目も加わり、色々酷くなっているかもしれない。ネムリンは決して不細工ではないが、一般的に周囲や身内から見ても地味さが拭えない。

きらびやかな衣装を身に付ければ服の方が明らかに主役となるだろうことを誰もルーベルト以外が想像できるくらいには地味だ。

なので、人間見た目から入る人がほとんどとして地味なネムリンはどちらかと言えば身分なしにモテないタイプだ。

しかし、世の中にへんた………変わった性癖を持つ人物はいるわけで、ネムリンはネムリンの怪力を知った変わった性癖持ちの人物には好かれるタイプだった。

「あらあらベタ惚れなんですね。なら、タイ侯爵家の御方がネムリンへ接触しないようなんとかできますでしょうか?タイ侯爵夫人はまともな方なので、できればタイ侯爵の当主様と子息のドーヘン・タイ様をなんとかしていただければありがたいのですけど」

「お母様、私たちの問題でラヴィン公爵様に頼るのは………」

直球で公爵を頼り始めたマートモにネムリンはさすがにと止めに入るが……

「まかせてください。妻を不安にさせる輩を野放しにはできませんから」

「まあまあ!これで安心ね、ネムリン」

「そ、そうですけど、まだ妻じゃ………」

ルーベルトの妻発言にマートモは嬉しそうに、ネムリンは戸惑う様子を見せる。ちなみにルーベルトの妻発言は結婚することは決めているという意思を明確にするためにわざと言ったに過ぎない。

「あ、そうそう!ネムリンが城に出向く前に作ったお菓子があるのですけど食べられますか?」

「お、お母様!?あれはっ」

「是非!」

急なマートモの提案に、ネムリンが止めに入ろうとするがルーベルトはその言葉にテンションがあがり、思わず立ち上がりそうになりながらも食い気味に食べたい意思を伝えた。

もう既に想像がついたかもしれないが、これがルーベルトを眠りにもたらすものになるとは誰も思わなかった………。

「おおお奥様、お、お、お持ちしました!」

「スベル、落ち着きなさい。すみません、ラヴィン公爵様。この子はまだ新人でして一人仕事が見つからずとぼとぼ歩いては平坦な道でさえすべり転ける姿が放っておけずに雇ったのです」

「構いません。それよりも生傷が耐えない新人ですね」

「靴を代えても、すべりにくい絨毯を引いてもすべり転ける子なんです。最近、ようやくすべらず固形物を運べるようになったんですよ?お茶はまだ危ないので他にやらせてますが」

「そう、ですか」

マートモの言葉にまるで子供教育みたいだと思ったルーベルト。それを聞けばトワーニ家に雇われるまで仕事がなかったのも頷けた。

「うぎゃっ」

「「スベル!」」

そんな思考をルーベルトがしている最中原因その3となるスベルがすべり転けて原因その2と4となる宙へ舞うネムリン手作りの大量のクッキーがルーベルトの頭に降り注いだ。

「ぐ………うっ」

「「ラヴィン公爵様ー!」」

クッキーは鈍器のように固く、それも大量となればルーベルトでもなく眠らせる気絶させることが可能だっただろう。寧ろ血を流していたかもしれない。

それで眠った気絶したルーベルトは幸せな夢を見ている間に慌てたトワーニ伯爵家によって城へ送り届けられ、トワーニ伯爵家でなく城の一室にいたわけである。

「君を気絶させるクッキーって毒でも入っていたの?」

「いや、食べてはないが毒なんてネムリンが入れるわけないだろう」

「でもトワーニ家の使用人はクッキーに当たって倒れてしまったと」

「それは間違いじゃない」

「クッキーの毒に当たったとしても、君が倒れるほどの毒が存在するならと危惧したんだけれど………食中毒ごときじゃ君は倒れないだろうし」

「だから食べてない」

「クッキーに当たったんだよね?」

「ああ、少しの間だがクッキーが当たってくれたおかげでよく眠れた」

「どうしよう、意味がわからない」

正にクッキーが頭に当たり気絶したなんて思わないルドルクは意味を理解できていない。果たして鈍器となるクッキーは食べられるものだったのか。怪しいところだが、ネムリンの手作りとなればルーベルトは何が何でも食べる日が来るだろう。

ルーベルトは(ネムリンが編み出す)睡眠(の方法)の偉大さを知りました。が、決してネムリンはルーベルトにクッキーをぶつけて眠らせようとしたわけではありません。

またひとつ偉大なクッキー(物理)効果により、ネムリンに惚れ直したルーベルトであった。
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