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2章睡眠の偉大さを知りました

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急だが手紙の話も出たところで、時間を戻してネムリンの元に手紙が来た時の話をしよう。手紙が届いた日、ネムリンの父ユールシーテはネムリンを書斎へ呼び出した。

「ネムリン、ついに届いた」

「届いてしまったんですね……。きっとお怒りになっているに違いありません」

「これだけの量の手紙だ。怒りは相当だろう」

まだ開くことすらしてない手紙、それはそれは普通にしてはにトワーニ親子の表情が暗くなる。この親子はユールシーテの妻であり、ネムリンの母でもあるマートモも認めるほどに似ており、どんな小さい悪いことを悪気なくでもしてしまえばそれを理解したとたん反省して、それによりされた本人が許してもその罪悪感に駆られてしばらく謝罪が挨拶になるくらい気にしてしまう性格だ。

反省できるのはいいことだが、反省し過ぎるのも却ってよくない場合もあるためにマートモは何度といい加減に反省し過ぎるそれをなんとかなさいと呆れながら言うも、それさえも反省する姿勢を見せて本末転倒となるのだからどうしようもない。

反省することを反省するとはなんと意味のないことか。

ちなみに今回のことはユールシーテも反省する姿勢だ。娘にそうさせてしまったルーベルトを殴って気絶させたのは自分の教育がなっていないため………ではなく、娘を怪力にさせてしまった自分の祖先の遺伝子のせいだと思ったからだ。

それはどうしようもないし、反省のしようもないがユールシーテは本気だ。

「あ、開けるぞ」

「は、はい」

二人はかなり緊張をしたご様子だが誰も見ぬ秘密の扉を開けるでもなく、死を覚悟せねばならない世界へ旅立つわけでもない。ただ手紙を開けるだけの行為にこの二人は顔を強張らせている。

読む前からこれで大丈夫なのかとルドルクが見ていれば思っていたことだろう。

「あ、開けたぞ」

「お、お父様、私もう………もう倒れそうです」

「ま、まだ文字を見てもいない!紙を取り出しただけだ!頑張るんだネムリンよ!」

周囲がこの様子を見ていたなら漫才をしているのかと思われる光景だろう。しかし、二人は漫才のつもりはなく真剣に手紙ひとつに緊張しているのである。

「お、お父様、私、私………頑張ります!」

「その意気だ!」

日々トワーニ流の過酷な訓練を受けている親子らしいやり取りではあるが、それはこれが訓練中であればの話。この二人はただ手紙ひとつでこの有り様である。

決して手紙は読んだ瞬間に人を食べるようなものではないし、読んだところで攻撃を仕掛けるような手紙などあるはずもない。手紙の文章次第で人を追い詰める何かがある可能性はあるが、ルーベルトの名が記入されている時点で婚約者にされるかされないかの有無だけのはずの手紙にそんなことが書かれているはずもない。

だが、これに関してはルーベルトが悪いと言えよう。婚約者と正式にするかしないかのはずの返事に分厚い手紙など出すから二人が余計こうなるのだ。

「よ、読むぞ………拝啓」

「は、拝啓!」

「どどどうした?ネムリン」

「すみません………読み始めたと思うと緊張してしまいつい反応を」

「そ、そうか、なら仕方がないな」

何が仕方ないのかと誰かがいれば突っ込んでいたことだろう。なんとかそれ以外にネムリンが反応することはなく、挨拶の文を読んで一息つくトワーニ親子。

一応伝えるが決して挨拶の文、前文が長いわけではないことは理解してほしい。

ついに主文へ入るのだ。緊張するのはこの二人なら仕方がない。何より末文にいくまで何枚読む必要があるのか疑問になるくらいあるのだ。

当然この二人はネムリン自分に対して怒りによる言葉とそれに対してこうしろという抗議文でもあるのではないかと疑っていた。王子であるルドルクは婚約者にと言ってはいたし、ルーベルトを悪いように言ってはいなかったものの二人はルーベルトという人物を本当の意味では知らない。

だからこそこの国の王子を信じたいとは思えど、殴るだけでなく人前で気絶させるという醜態を晒させてしまったことがそう簡単に許されるはずがないと思う心がやはりあるのだ。

厚みがありすぎて余計にそう思う二人。寧ろ本来のルーベルトが代筆を頼んでの了承であれば一枚で終わり、ルドルクの言う通り噂とは違う優しい人物だったのかもしれないと安心しただろう。

それはそれでそんな優しい人物に醜態を晒させてしまうなんてと自分を責めるのがネムリンであり、娘の遺伝子のせいでと気に病むのはユールシーテである。

結局、どちらにしろルーベルトに申し訳ない気持ちがこの親子から消えることはないわけだ。

そんなわけで主文の最初は婚約者と正式に認めることが書かれていた。本来なら用件はそれで終わりのはずである。ルドルク自身ルーベルトに『結婚は一年後に決めるとして、今は婚約者にするかしないかの手紙を代筆させてもいいから送って』と言っただけだ。

だからこそ本当に最初の一文でこの手紙は終わりであるはずだった。ちなみに最初のその一文だけで親子は固まった。

「婚約者として、認める………?」

「ならばこの厚みある手紙は驚いたでしょ?これで許すよという優しさ溢れるフェイクでしょうか?」

思わずネムリンが珍しくポジティブ思考になった瞬間すら見られたほどに、正式に婚約者となった現実を親子二人は信じられずにいた。

もしこれがお茶目なフェイクならばネムリンの稀に見るポジティブ思考でいいように終われただろう。だが実際、ルーベルト直筆の厚みある手紙には文字が書かれていた。手紙なのだから当たり前と言えばそれまでだが、全ての紙には文字が書かれていたのだ。その内容は………。
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