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2章睡眠の偉大さを知りました

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「早く会いたい。俺の女神に」

「さっき手紙寄越したばかりだよね?」

ルーベルトが目を覚まし、薄らいだクマから眠気がないのかいつもより開かれた目、そして起きたルーベルトがしたことはルドルクからの現状報告を聞くこと。

さらに現状報告を聞いてしたことがネムリンを婚約者にするという手紙を書き送ること。

それはともかくとしてルドルクはルーベルトの変わりように正直ついていけていない。心底ネムリンを崇拝するような言葉を何度と繰り返し、睨み付けるようないつもの目付きは薄らいだクマに比例するように和らいでおり、頭痛もまだあるようだが、それでも我慢するほどではなく、少し痛みがある程度で大分とスッキリしている様子だ。

完全にクマを消し去るほどではなくとも、これほど身体が楽で、我慢が辛いほどの頭痛に悩まされることのないのは、ルーベルトにとって不眠症が始まる20年近く前以来。幼い頃から悩まされたそれを気絶させることで眠らせてくれたネムリンはもはやルーベルトにとって神に等しい。

それほどに不眠症という長年の悩みはルーベルトを苦しめていたことがわかる。わかるのだが、それでも笑みを見せ、ひとりの令嬢に恋と言ってもいいものかわからなくとも重くなりそうな想いを寄せるルーベルトは異常だ。そうルドルクは感じ、どうしたものかと頭をひそかに悩ませた。

それ以外にも笑みが止まないルーベルトに周囲もついていけていない。身体の軽さに笑みを浮かべて歩くルーベルトに誰もがえ?と振り向いて唖然とする姿をルーベルトが目覚め、手紙を書き出すまで何度も見たルドルク。

物凄く共感はしたが。

「ルドルク、お前には感謝している。婚約者探しの婚活パーティーなど面倒でしかないと思ったが、女神に会うためだったとわかった今、本当によいものだったと思う」

「それはよかったよ。というかルーベルトって意外に話すね」

「前までは話す度頭が余計に痛んだからな。別に話すのが嫌いなわけではない」

「初めて知ったよ」

「わざわざ頭痛を耐えてまで話すことでもないだろう?」

「まあ、そう、だね?」

意外に話すことが好きなのか?と思うくらいには明るく話すルーベルト。

(僕の大切な友人だ。ルーベルトがネムリン嬢に会えたのは本当によかった)

「ネムリン嬢、いや、婚約者なのだからネムリンと呼んでもいいのか。俺の女神は何が好きだろう?次に会う時までに婚約指輪を用意しなければ。それだけでは足りない。贈り物も与えたいな。ああ、絵姿を納めてもいいだろうか、いつでもその姿を拝めるように」

(よかった………のだろうか。どうしよう、友人が危ない方向へいく気がしてならない)

婚約者を蔑ろにするより、婚約者を想える方がいいことだ。だが、これは果たして友人として見守っていいものかルドルクは頭が痛くなった気がした。

「あまりやり過ぎるとネムリン嬢が戸惑うんじゃないかな?」

「それもそうか………なら、取りあえずはとびきりの婚約指輪を用意するだけに留めよう」

「ほどほどにね」

王家以上に経済力を持つルーベルトに用意できない価値の婚約指輪はない。自重が普段からできないルーベルトが、自重できるはずもないと思いながら、吐く言葉のなんと軽いことか。

「プラチナリングの40カラットでは安すぎるだろうか?」

「ねえ、本当に自重して」

王家で王妃になる者ですらそんな高価な婚約指輪は贈らなかった。絶対ひとりで婚約指輪を選ばせないとルドルクが誓った瞬間だ。

「ああ、やはり婚約指輪だけじゃ足りないな。そうだ………ドレスくらいなら婚約者としてプレゼントしても構わないだろう」

「ああ、うん、いいんじゃないかな。その代わり婚約指輪はもう少し価値は下げるように。もう、なんでもいいけど、頬は大丈夫なの?」

贈り物の話ばかりしていれば、より自重のない贈り物ばかりルーベルトが用意しようと仕出しそうなため、話を逸らすために、少し治まったとはいえ、今だ赤く腫れる頬に話を移すルドルク。

「ああ、女神から承った一撃か。またその一撃で眠れるならお願いしたいな。痛みなど日々の頭痛に比べれば大したことはない」

「その発言あらぬ疑いを招くから、誰にも言わないように」

普通の男ならば、意識不明、その衝撃で歯が折れるほどの怪力たる一撃は、ルーベルトにとって大したことはないらしい。それに呆れるルドルクだが、とりあえず寝るためなら手段を選ばないルーベルトなりの言葉とは理解するものの、下手すればドM発言ともとれ、ラヴィン公爵が変態になったと変な噂が流されかねいため、これに関しては釘をすぐ刺した。

ネムリンに言ったものならドン引きしてもおかしくないだろう。ネムリンじゃなくともドン引きものだ。それでも不眠症に悩まされ続けた友人の幸せを願うルドルク。どうせなら婚約期間中に互いを想い合い結婚までいければとは思っている。だからこそ、ルーベルトの下手な発言で一方的な想いによる結婚にならないようしたい。

でなければ、あまりにもネムリンが可哀想だ。それくらいの慈悲はあるルドルクだが、そんな心配は杞憂で、二度目のルーベルトとネムリンの逢瀬により、別の意味で心配になるはめになるとはこの時思いもしなかった。
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