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1章選ばれたのは令嬢らしからぬ令嬢でした

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「な、なるほど。まあその時はやり過ぎとはいえ相手にも非があり、子息が娘をバカにしていたのを見ている者の証言もあったため、子息の自業自得だと親側がバカにしたあげく令嬢にしてやられるのは恥だからと、大きなことにはならなかったのですが」

「まあ、そうだろうな」

ルドルクの言葉に納得の言葉を出していいものかユールシーテは難しい表情をしながらも、その後どうなったかを話せばそうなるだろうことは予測していたルドルクは納得したように頷く。

「今の話を聞いてわかると思うのですが、私の娘は先祖返りの怪力持ちでして」

「怪力持ち、か」

ひと殴りで意識不明にさせる子息の話以前に規格外とも言えるルーベルトを気絶させたことから、怪力持ちと聞いてルドルクは物凄く納得した。

「トワーニ家は元々先祖が怪力持ちから始まって武勲をあげたことにより爵位を授かった家系です。それだけに日々娘、息子関係なくトワーニ家の武を衰えさせないため、独自の訓練もあるのですが、その、ネムリンは、怪力持ちならず、武力を扱う天才と言いますか、訓練で誰よりも成果をあげるほどに強いのです。寧ろ難点は力加減が苦手なくらいで」

「それがドアノブを意図もせず壊してしまう力というわけか」

訓練以前に、先に力加減を教えたらよかっただろうにと思うルドルクだが、トワーニ家にはトワーニ家なりの理由があるのかもしれないとそこはあえて言わずにおいた。

また、訓練までされていてネムリンにその才もあるというなら尚更ルーベルトが避けられず、拳を受けたことにも頷ける。怪力なだけであれば反射神経もよいルーベルトが避ければ済む話だからだ。

「最近は修理代請求が来ませんがね!」

「………そう」

ドアノブを壊してないことに対して力加減が多少できてきていることに喜ぶのはともかく、自慢げに言うことではないことにユールシーテは気づいているのか、いないのか、少しばかり呆れた視線を向けるルドルク。

「とりあえずそんなわけでして、誘拐などの心配はない娘なのですが、令嬢としては少しばかり問題がありまして………」

自分より強い嫁どころか、怪我すらしてもおかしくない令嬢は確かに貰い手が限られるだろう。それこそ特殊な性癖持ちの変態にしか歓迎されない可能性が高いことはルドルクにもわかる。

ユールシーテは娘ネムリンを大事にしていることも見ていてわかるためそんな変態貴族に嫁がさせる気もなく、行き遅れていってしまうのだろう。これがせめて自分の身を守れる程度に強いだけならばよかったものの過ぎた力の持ち主となれば断るものが多くてもおかしくない。

何より容姿も平凡で地味となれば選ぶ価値が下がるというもの。人の第一印象は大抵容姿から入るため、こればかりは仕方ない。

「うーん、ならちょうどいいし、ルーベルトの意見も聞かないとだけど、ネムリン嬢、ルーベルトの婚約者にならない?」

「え?え?ええ!?」

「しょ、正気ですか!殿下!私の娘はルーベルトに手を出したのですよ!?」

軽く言ってのけたルドルクに驚きの声をあげる親子二人。今提案してみたとばかりのルドルクだが、実は呼ぶ前からネムリンをルーベルトの婚約者にしようかと考えてはいた。

「それはそうだけど、結果的にルーベルトを寝かせたわけだし」

「き、気絶、させちゃったんです!」

寝かせたわけではないと慌てふためくネムリン。

「目を閉じる分には一緒でしょう?」

気絶だろうが寝て目を瞑るのと変わりないと返すはルドルク。

「け、怪我させたんですよ!?」

こんな寝かせ方があっていいはずがないと反論するネムリン。

「頬が腫れただけでしょう?ルーベルトは気にしないよ」

大したことはないとばかりに返すルドルク。本人のいない場でルドルクはネムリンをルーベルトの婚約者にする気満々である。

親、子どちらを見ても悪さを企めるような性格ではなく、暴力とはいえルーベルトを気絶させてでも眠らせれる怪力は、ある意味不眠症を治す薬でもないかとルドルクは考えていた。

それに護身を越えた力はルーベルトをよく思ってない人物への対抗手段にもなる。時に公爵家の妻という身分は弱味にもなるため、誘拐や犯罪に巻き込まれる心配が一気に減る分にはいい。

そう思えば寧ろこれはルーベルトにとって運命の出会いなのでは?というのがルドルクの意見である。ルーベルトが反対しようと納得させられる自信すらあるルドルクだ。

「うむ………私としては、殿下がそこまで言うなら、娘によい結婚相手を与えられる分には大歓迎ですが」

ネムリンとは別に父はそれ以上の反対はない様子にルドルクは笑みを深める。

「ルーベルトは誤解されやすいけれど、実際は優しい人物だよ。王家がルーベルト用に定めた婚約期間1年もあればそれがわかるさ。まあ決定権はルーベルトにあるし、ルーベルトを寝かせる挑戦をした時点でそちらから断ることはできないよ?ルーベルトの目が覚めたら判断を仰ぐから、公爵家から返事が届くそれまで、今はとりあえず仮婚約者としてルーベルトをよろしくね」

「え、ええ………!?」

ならばさっきの言い合いの意味はとばかりに強制的に仮とはいえ、咎められるどころか婚約者にされたネムリンは混乱した。その間にある程度の話がユールシーテとルドルクによって進められ、最後まで落ち着くことなくネムリンは父と共に城を後にした。

それから仮婚約者から仮が消え、ネムリンがルーベルトの婚約者と正式になるのは、ルーベルトがルドルクとトワーニ伯爵親子が謁見した翌日からさらに次の日に目を覚まして一週間も経たない間に書かれたルーベルトによる直筆がトワーニ伯爵家に届いた直後だった。

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