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1章選ばれたのは令嬢らしからぬ令嬢でした
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それから三番、四番と続き、つまらない話をひたすらする、貴方は眠くなるといった催眠もどきの挑戦、子を寝かせるのによく使われる有名な童話を話すなど令嬢たちなりに考えた寝かせる方法が実践された。
進めば進むほどにルーベルトはそう怒る人物でないと認識してか、恐怖心はあまり和らがないものの最初ほどの緊張感は和らぎつつあった。どれも失敗に終わるがどの令嬢も同じ方法をとらない辺り、意外に寝かせる方法というものは多いのだとルーベルトは内心感心でいっぱいだったし、少しばかり期待もしつつある。
ルドルクも眺めつつ、ルーベルト同様令嬢たちに感心していた。今回ルーベルトの婚約者が見つからずとも、次回は事前にそう知らせることでよりよい方法が編み出せ、いつかルーベルトの不眠症を治せる時が来るのではないかと少し思うほどには。
ルーベルトもルドルクも決してルーベルトの不眠症を治すため何もしていなかったわけではない。それ故に単純なことばかりとはいえ、ルーベルトを寝かせる方法はまだ無限にあると思えば希望が持てるというものだ。
それでも今回は事前に言わなかったばかりにその希望が持てるだけで、うたた寝すら叶えられそうな婚約者は難しそうだとルーベルト、ルドルクどちらもそう考えていた時に現れた。ルーベルトに希望をもたらす光が。
「ら、ラヴィン公爵様、ごご、ごきげんよう………っ。わわ、私、は、伯爵家、次女、ね、ね………ネムリン・トワーニ、でしゅっ」
それはエントリーナンバー三十三番と最後に差し掛かった伯爵令嬢年齢20歳である。特に美人、可愛いというわけもなく、どちらかというと地味めで細身。眼鏡をかけ真面目そうな、それでもって鈍臭そうで弱気な印象が全面的に出ている。
ぎこちなさはあれど挨拶はスムーズにいっていた終盤差し掛かる辺りで最初に戻ったのかばかりに緊張し、言葉を噛み真っ赤になるネムリン。足から肩までわかりやすいぐらいに震える姿に周囲は大丈夫かとばかりに視線を向ける。
どの令嬢よりも緊張と恐怖心を態度に出すネムリンにルーベルトでさえ心配になった。それほどにネムリンは震えていた。ガタガタと震えが音に聞こえてくるなと思えるほどに。
言葉を噛んだ故に緊張はより高まったのだろう。ネムリンは涙目になり、このままでは一番目同様泣きそうである。
「落ち着け」
「あ………う………」
それに気づいて声に出したのはルーベルトで、ネムリンのみならずその言葉に周囲も驚きを見せる。何故ならこの時ルーベルトは令嬢たちに一列に並ばれてから今の今まで三文字以上『あ』以外の言葉を口にしなかったのだから。
(あ以外の言葉を、四文字の言葉で話した………!)
周囲の気持ちはルドルク、王家の者を除いて一致した。令嬢、子息共にルドルクは『ああ』しか話せないと思ってでもいたのだろうか。あくまで内心のためその心の声にツッコむ者はいない。
四文字の言葉を引き出せたネムリンは何故か周囲から尊敬の眼差しが浴びせられる。普段からそれ以上の文字数ある言葉をルドルクが出しているわけだが、それは唯一の友人で王家の者だから当然と思われている故に別物のようだ。
あくまで、初対面で『ああ』以外を話させたことが何故だか周囲には凄いことのように感じたのだった。
「大丈夫か」
(六文字………!)
「ふぁ、ふぁい!きゃあっ」
周囲が言葉の文字数が増える度出る反応が心の中ではなく、声に出されていたなら煩わしいだろう言葉。そのとたんに意を決したように一歩前に出ようとしたネムリンは何もないところにつまずいた。
「………無事か」
「き………」
「き?」
それにさっと反応して立ち上がり転けないようネムリンを支えたのはルーベルトで、ネムリンは一瞬固まった。
「きゃあぁぁぁっ」
「ぐぁ………っ」
そして、支えてくれたルーベルトに対してお礼でも慌てて離れるでもなく、男性に耐性が無さすぎるネムリンは思わず悲鳴をあげてパーではなくグーでルーベルトを殴った。そう、殴ったのだ。
「ルーベルト!?」
そう驚きの声を出したのはルドルクで、まさかのネムリンの一撃で情けなく倒れたのはルーベルト。決してルーベルトは非力ではない。騎士団長レベルなぐらいに剣術は優れているし、剣がない場合の武術も優れている。
予想外の一撃とはいえ、本来なら避けられるし止められる。そういった嗜みがある令嬢がいないとは言わないが、それでも子息たちよりかは弱きものだろう令嬢相手なら尚更拳が当たったとしてもルーベルトが倒れる衝撃はないに等しい。
では何故ネムリンの拳はルーベルトに見えずルーベルトが吹き飛ばされたのか。見えないぐらい素早い重い拳だったから他ならない。
「ご、ごめんなさあぁぁい!」
「…………」
「え、気絶、してる?」
中々立ち上がらないルーベルトに駆け寄ったルドルクは意識のないルーベルトに思わずネムリンとルーベルトに視線が行き来した。ネムリンは淑女あるまじき土下座の謝罪を繰り返し、周囲はぽかんとして今だ倒れて目を閉じたルーベルトに視線がいった。
ルーベルトを拳ひとつで撃沈させたネムリン・トワーニ。実は家族と一部のみが知る怪力持ちだった。地味なだけでなく怪力持ちのために行き遅れているネムリンの一番の悩みの種、コンプレックスである。
そんな思わぬ出来事にルーベルトが婚約者を探すための婚活パーティーは、気絶と共に終わり告げた。
進めば進むほどにルーベルトはそう怒る人物でないと認識してか、恐怖心はあまり和らがないものの最初ほどの緊張感は和らぎつつあった。どれも失敗に終わるがどの令嬢も同じ方法をとらない辺り、意外に寝かせる方法というものは多いのだとルーベルトは内心感心でいっぱいだったし、少しばかり期待もしつつある。
ルドルクも眺めつつ、ルーベルト同様令嬢たちに感心していた。今回ルーベルトの婚約者が見つからずとも、次回は事前にそう知らせることでよりよい方法が編み出せ、いつかルーベルトの不眠症を治せる時が来るのではないかと少し思うほどには。
ルーベルトもルドルクも決してルーベルトの不眠症を治すため何もしていなかったわけではない。それ故に単純なことばかりとはいえ、ルーベルトを寝かせる方法はまだ無限にあると思えば希望が持てるというものだ。
それでも今回は事前に言わなかったばかりにその希望が持てるだけで、うたた寝すら叶えられそうな婚約者は難しそうだとルーベルト、ルドルクどちらもそう考えていた時に現れた。ルーベルトに希望をもたらす光が。
「ら、ラヴィン公爵様、ごご、ごきげんよう………っ。わわ、私、は、伯爵家、次女、ね、ね………ネムリン・トワーニ、でしゅっ」
それはエントリーナンバー三十三番と最後に差し掛かった伯爵令嬢年齢20歳である。特に美人、可愛いというわけもなく、どちらかというと地味めで細身。眼鏡をかけ真面目そうな、それでもって鈍臭そうで弱気な印象が全面的に出ている。
ぎこちなさはあれど挨拶はスムーズにいっていた終盤差し掛かる辺りで最初に戻ったのかばかりに緊張し、言葉を噛み真っ赤になるネムリン。足から肩までわかりやすいぐらいに震える姿に周囲は大丈夫かとばかりに視線を向ける。
どの令嬢よりも緊張と恐怖心を態度に出すネムリンにルーベルトでさえ心配になった。それほどにネムリンは震えていた。ガタガタと震えが音に聞こえてくるなと思えるほどに。
言葉を噛んだ故に緊張はより高まったのだろう。ネムリンは涙目になり、このままでは一番目同様泣きそうである。
「落ち着け」
「あ………う………」
それに気づいて声に出したのはルーベルトで、ネムリンのみならずその言葉に周囲も驚きを見せる。何故ならこの時ルーベルトは令嬢たちに一列に並ばれてから今の今まで三文字以上『あ』以外の言葉を口にしなかったのだから。
(あ以外の言葉を、四文字の言葉で話した………!)
周囲の気持ちはルドルク、王家の者を除いて一致した。令嬢、子息共にルドルクは『ああ』しか話せないと思ってでもいたのだろうか。あくまで内心のためその心の声にツッコむ者はいない。
四文字の言葉を引き出せたネムリンは何故か周囲から尊敬の眼差しが浴びせられる。普段からそれ以上の文字数ある言葉をルドルクが出しているわけだが、それは唯一の友人で王家の者だから当然と思われている故に別物のようだ。
あくまで、初対面で『ああ』以外を話させたことが何故だか周囲には凄いことのように感じたのだった。
「大丈夫か」
(六文字………!)
「ふぁ、ふぁい!きゃあっ」
周囲が言葉の文字数が増える度出る反応が心の中ではなく、声に出されていたなら煩わしいだろう言葉。そのとたんに意を決したように一歩前に出ようとしたネムリンは何もないところにつまずいた。
「………無事か」
「き………」
「き?」
それにさっと反応して立ち上がり転けないようネムリンを支えたのはルーベルトで、ネムリンは一瞬固まった。
「きゃあぁぁぁっ」
「ぐぁ………っ」
そして、支えてくれたルーベルトに対してお礼でも慌てて離れるでもなく、男性に耐性が無さすぎるネムリンは思わず悲鳴をあげてパーではなくグーでルーベルトを殴った。そう、殴ったのだ。
「ルーベルト!?」
そう驚きの声を出したのはルドルクで、まさかのネムリンの一撃で情けなく倒れたのはルーベルト。決してルーベルトは非力ではない。騎士団長レベルなぐらいに剣術は優れているし、剣がない場合の武術も優れている。
予想外の一撃とはいえ、本来なら避けられるし止められる。そういった嗜みがある令嬢がいないとは言わないが、それでも子息たちよりかは弱きものだろう令嬢相手なら尚更拳が当たったとしてもルーベルトが倒れる衝撃はないに等しい。
では何故ネムリンの拳はルーベルトに見えずルーベルトが吹き飛ばされたのか。見えないぐらい素早い重い拳だったから他ならない。
「ご、ごめんなさあぁぁい!」
「…………」
「え、気絶、してる?」
中々立ち上がらないルーベルトに駆け寄ったルドルクは意識のないルーベルトに思わずネムリンとルーベルトに視線が行き来した。ネムリンは淑女あるまじき土下座の謝罪を繰り返し、周囲はぽかんとして今だ倒れて目を閉じたルーベルトに視線がいった。
ルーベルトを拳ひとつで撃沈させたネムリン・トワーニ。実は家族と一部のみが知る怪力持ちだった。地味なだけでなく怪力持ちのために行き遅れているネムリンの一番の悩みの種、コンプレックスである。
そんな思わぬ出来事にルーベルトが婚約者を探すための婚活パーティーは、気絶と共に終わり告げた。
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