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1章選ばれたのは令嬢らしからぬ令嬢でした
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「うたた寝させるために、まず、その、座っていただけますか?」
「ああ」
婚約者候補エントリーナンバー1番というべきか。あまりの緊張故に名乗ることすら忘れた令嬢は、立ったままではうたた寝ひとつ難しいと不躾にも座るようにお願いする。
ルーベルトは基本それほど短気でもないためそれを理解し、近くの用意された椅子へと座ってカチコチに固まる令嬢を見た。
鋭い目付きを向けられた令嬢は青ざめつつもはっとしたようにぴしっと背筋を伸ばし一言。
「挨拶もなしに申し訳ございませんっ!」
謝罪の時の淑女の礼儀、マナーすらどこかへいってしまったようだ。しかし、咎める者は誰もいない。寧ろ、これは仕方ないとばかりに二番より後ろに並ぶ令嬢たちはエントリーナンバー一番を温かく見守っている。
これがルーベルトと同じように位が高い貴族であり、声もかけやすく狙い目であれば令嬢たちはここぞとばかりにその令嬢を遠回しに責め、相手に相応しくないと貶める発言をひとつくらいしただろう。
しかし、ルーベルトの場合は別だ。決してルーベルトが狙い目でないわけではない。公爵家という立場のみならず、王家に近い存在となればラヴィン家の妻というステータスになりゆるチャンスは誰にだってほしい。
しかし、怖いものは怖い。それでも来る令嬢たちはもしかしたら理想に叶って公爵家の妻になれるかもしれないという希望を捨てきれなかったか、家族が身分の高いものの結婚相手を望むが故か、もしくは貴族として没落寸前なためにすがる気持ちでなど理由はそれぞれあれど、ルーベルトは子息どころか自分より年上すらも怯える存在のため、令嬢たちはただそこにルーベルトがいるだけだというのにその不機嫌そうな顔つきにを見て恐怖に震え、普段のようにできない。
よって、婚約者になれるならそれはそれ。なれないならなれないで恐怖しなくて済むのだからそれでもいいじゃないかと言う存在なのだ。公爵家の妻という立場の可能性なる第一歩か、恐怖からの解放か。令嬢たちは自分が婚約者にすら選ばれなくても後悔はないわけだ。
寧ろ婚約者に選ばれた人物に頑張れと令嬢たちは応援してしまいそうなくらいにはルーベルトは恐れられる存在なのだ。
そういう意味で一番がルーベルトへ勇敢にも話しかけたことはエントリーナンバー一番以外の令嬢にとって尊敬すらするところである。
ちなみにルーベルトは面倒とは思っているが決して不機嫌なわけではない。頭が痛く解放されることのない眠たさ故に目付きが睨むようになり、不機嫌そうに見えるだけである。
「…………」
「ふ、ぅ………ずびまぜえぇぇんっ!」
ここでルーベルトが挨拶もなかったことについて気にしてないの一言のフォローでもあればよかったが、謝ってそのまま挨拶でもするのかと思っていたルーベルトは無言で一番の令嬢を見るだけだったため、耐えきれなくなった令嬢はついにははたしなくも泣き出して逃げた。
彼女は18歳と今回婚活パーティーに集う行き遅れの令嬢の中でも比較的若い部類。ルーベルトを座らせただけでも頑張ったと一気に他の令嬢から一目置かれた瞬間だった。もし彼女を責める令嬢がいたならその令嬢こそ多くの令嬢、下手すればそれを気にして見ていた子息たちすら敵に回すことだろう。
それぐらいに逃げ出した令嬢はひそかな時間、エントリーナンバー一番としてルーベルトに話しかけ、座らせ、挨拶を忘れても謝罪を忘れずしたその姿は誰よりも勇敢に写った。
「…………」
ただひとりルーベルトは何故泣かせたのか訳もわからず離れた位置で笑いを堪えるルドルクを見つけて睨んでいたが。
「ら、ラヴィン公爵様、ごきげんよう。私、ランデム侯爵家の長女、ミスリー・ランデムと申します。ど、どうか先程の令嬢をお許しくださいませ」
「ああ」
エントリーナンバー二番というべき令嬢は泣いて消えた令嬢に同情し、ぎこちない動きで、それでも侯爵家の娘の淑女としての姿勢と動きを見せ、一番の無礼を許してもらうよう願った。
笑いを堪えるルドルクには苛立ったルーベルトだが、決して一番の令嬢には何故泣かれたのかわからないだけで怒るつもりもないため、それに対して簡単な返事をした。その二文字と少ない返事にほっとしたのはミスリーだけではないだろう。
「ラヴィン公爵様の寛大なお心に感謝いたします。で、では、婚約者となるべく、本題として、子守唄を歌わせていただきます」
「…………」
まさかの子守唄にルーベルトは唖然としたが、睨むような不機嫌そうな表情が変わることはない。そして無言のルーベルトに緊張か恐怖か顔を少しばかり強ばらせながら歌い始めるミスリー。
声は震えているがその子守唄は中々によい歌声で、それに合わせた婚活パーティーで本来男女の親しみを深めるためのダンスのために奏でられる楽器がミスリーの歌う子守唄に合わせられている。さすがに子守唄では誰もダンスをせず、歌うミスリーに注目した。
結果的にはそれでルーベルトが眠ることはなかったが、ミスリーには多くの拍手が送られた。
「弟、妹を寝かせる時によく歌っていたのです。急な婚約者になるための課題だったため、思い付くのが子守唄だけで申し訳ありません」
拍手のおかげで励まされたのか歌い終わった後の言葉にミスリーが詰まることはなかった。婚活パーティー始まってすぐルーベルトを寝かせたものが婚約者と言われれば確かに寝かせるための準備などあるはずもなく、子守唄になっても仕方ないと納得したルーベルト。
寧ろアカペラでの子守唄ではなく、婚活パーティーでダンスのための楽器を利用しただけ頑張ったと言えるだろう。眠れなかったが感心はしたルーベルトだった。
「ああ」
婚約者候補エントリーナンバー1番というべきか。あまりの緊張故に名乗ることすら忘れた令嬢は、立ったままではうたた寝ひとつ難しいと不躾にも座るようにお願いする。
ルーベルトは基本それほど短気でもないためそれを理解し、近くの用意された椅子へと座ってカチコチに固まる令嬢を見た。
鋭い目付きを向けられた令嬢は青ざめつつもはっとしたようにぴしっと背筋を伸ばし一言。
「挨拶もなしに申し訳ございませんっ!」
謝罪の時の淑女の礼儀、マナーすらどこかへいってしまったようだ。しかし、咎める者は誰もいない。寧ろ、これは仕方ないとばかりに二番より後ろに並ぶ令嬢たちはエントリーナンバー一番を温かく見守っている。
これがルーベルトと同じように位が高い貴族であり、声もかけやすく狙い目であれば令嬢たちはここぞとばかりにその令嬢を遠回しに責め、相手に相応しくないと貶める発言をひとつくらいしただろう。
しかし、ルーベルトの場合は別だ。決してルーベルトが狙い目でないわけではない。公爵家という立場のみならず、王家に近い存在となればラヴィン家の妻というステータスになりゆるチャンスは誰にだってほしい。
しかし、怖いものは怖い。それでも来る令嬢たちはもしかしたら理想に叶って公爵家の妻になれるかもしれないという希望を捨てきれなかったか、家族が身分の高いものの結婚相手を望むが故か、もしくは貴族として没落寸前なためにすがる気持ちでなど理由はそれぞれあれど、ルーベルトは子息どころか自分より年上すらも怯える存在のため、令嬢たちはただそこにルーベルトがいるだけだというのにその不機嫌そうな顔つきにを見て恐怖に震え、普段のようにできない。
よって、婚約者になれるならそれはそれ。なれないならなれないで恐怖しなくて済むのだからそれでもいいじゃないかと言う存在なのだ。公爵家の妻という立場の可能性なる第一歩か、恐怖からの解放か。令嬢たちは自分が婚約者にすら選ばれなくても後悔はないわけだ。
寧ろ婚約者に選ばれた人物に頑張れと令嬢たちは応援してしまいそうなくらいにはルーベルトは恐れられる存在なのだ。
そういう意味で一番がルーベルトへ勇敢にも話しかけたことはエントリーナンバー一番以外の令嬢にとって尊敬すらするところである。
ちなみにルーベルトは面倒とは思っているが決して不機嫌なわけではない。頭が痛く解放されることのない眠たさ故に目付きが睨むようになり、不機嫌そうに見えるだけである。
「…………」
「ふ、ぅ………ずびまぜえぇぇんっ!」
ここでルーベルトが挨拶もなかったことについて気にしてないの一言のフォローでもあればよかったが、謝ってそのまま挨拶でもするのかと思っていたルーベルトは無言で一番の令嬢を見るだけだったため、耐えきれなくなった令嬢はついにははたしなくも泣き出して逃げた。
彼女は18歳と今回婚活パーティーに集う行き遅れの令嬢の中でも比較的若い部類。ルーベルトを座らせただけでも頑張ったと一気に他の令嬢から一目置かれた瞬間だった。もし彼女を責める令嬢がいたならその令嬢こそ多くの令嬢、下手すればそれを気にして見ていた子息たちすら敵に回すことだろう。
それぐらいに逃げ出した令嬢はひそかな時間、エントリーナンバー一番としてルーベルトに話しかけ、座らせ、挨拶を忘れても謝罪を忘れずしたその姿は誰よりも勇敢に写った。
「…………」
ただひとりルーベルトは何故泣かせたのか訳もわからず離れた位置で笑いを堪えるルドルクを見つけて睨んでいたが。
「ら、ラヴィン公爵様、ごきげんよう。私、ランデム侯爵家の長女、ミスリー・ランデムと申します。ど、どうか先程の令嬢をお許しくださいませ」
「ああ」
エントリーナンバー二番というべき令嬢は泣いて消えた令嬢に同情し、ぎこちない動きで、それでも侯爵家の娘の淑女としての姿勢と動きを見せ、一番の無礼を許してもらうよう願った。
笑いを堪えるルドルクには苛立ったルーベルトだが、決して一番の令嬢には何故泣かれたのかわからないだけで怒るつもりもないため、それに対して簡単な返事をした。その二文字と少ない返事にほっとしたのはミスリーだけではないだろう。
「ラヴィン公爵様の寛大なお心に感謝いたします。で、では、婚約者となるべく、本題として、子守唄を歌わせていただきます」
「…………」
まさかの子守唄にルーベルトは唖然としたが、睨むような不機嫌そうな表情が変わることはない。そして無言のルーベルトに緊張か恐怖か顔を少しばかり強ばらせながら歌い始めるミスリー。
声は震えているがその子守唄は中々によい歌声で、それに合わせた婚活パーティーで本来男女の親しみを深めるためのダンスのために奏でられる楽器がミスリーの歌う子守唄に合わせられている。さすがに子守唄では誰もダンスをせず、歌うミスリーに注目した。
結果的にはそれでルーベルトが眠ることはなかったが、ミスリーには多くの拍手が送られた。
「弟、妹を寝かせる時によく歌っていたのです。急な婚約者になるための課題だったため、思い付くのが子守唄だけで申し訳ありません」
拍手のおかげで励まされたのか歌い終わった後の言葉にミスリーが詰まることはなかった。婚活パーティー始まってすぐルーベルトを寝かせたものが婚約者と言われれば確かに寝かせるための準備などあるはずもなく、子守唄になっても仕方ないと納得したルーベルト。
寧ろアカペラでの子守唄ではなく、婚活パーティーでダンスのための楽器を利用しただけ頑張ったと言えるだろう。眠れなかったが感心はしたルーベルトだった。
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