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1章選ばれたのは令嬢らしからぬ令嬢でした

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「今回婚活パーティーに集まっていただき感謝する。もちろん名の通り、婚約者すらおらず独り身の者ばかりを集めている。残念ながら私の一番の友人もその一人だ。色々噂はあるが、公爵家当主であり、出来すぎる故にルーベルト・ラヴィンに関しては貴族であれば身分を問わない結婚を王家は認めている!」

婚活パーティーが始まり、最初の挨拶とばかりに長々と話し出すのはルドルク王子で婚活パーティーに呼ばれた者たちはルドルクの発言にざわついた。下手をすれば下位の男爵家すら公爵家の妻として上の立場になれるチャンスがあるからである。

ちなみに範囲を広げるため平民すらも視野に入れるか迷ったルドルクだが、さすがに一から貴族としての教養をするとなれば相手側に負担も半端なく、平民から男爵程度ならともかく功績すらなく公爵の妻と王家に近い存在になれば、反感くらいならなんとかできても妻になる人物がラヴィン家の力を知って貴族社会を崩壊させる危険性を考慮してやめた。

力なき人間が急に持て余す力を持てばどうなるかわからないのは、国さえも揺るがす可能性がありよくないためだ。

「しかし、私は友人の幸せを願っているので、婚約者が決まった際には1年間の婚約期間を設け、1年後ルーベルト公爵の判断で結婚が決まることになる。申し訳ないが一度婚約者に決まれば、いかなる令嬢も結婚を断ることはできない。私の友人はもうすぐ23を迎えるというのに今だ女性を見る影はない。不馴れ故に婚約者になれども1年では婚約破棄は当然と見て彼の婚約者になるためのアプローチに挑戦してほしい」

婚約破棄をされる立場というのは、次いざ結婚相手を探そうとなると足枷になる。婚約破棄を申し出た人物がいくら位の高い貴族であろうと悪い噂ばかり流れる人物ならともかく、そういったこともなくされるとなれば婚約破棄されるような何かがあるのだと勘繰られ、立場が一気に悪くなるからだ。

しかし、ルドルクは婚約破棄されるのがあえて当然とした。令嬢良し悪しなしに婚約破棄する人物だとあえて言うことでルーベルトが結婚判断時、婚約破棄という形をとってもそれはルーベルトの選り好みというだけで、令嬢の立場は守られるということだ。

言ってしまえば婚約者になれてもルーベルトの理想は高いから結婚するのは難しいよと言っているようなもの。理想を求めるルーベルトが悪いとあくまでルーベルトが悪い立場になる。

とはいえ、既に普段の頭痛と不眠による寝不足を耐えての睨むような目付きと頭に響くからと少ない口数故に優秀さは認められどよいイメージは既になく、プライベートの友人もルドルクぐらいなため、今更人を理想で選ぶ人間と見られるくらいルーベルトにとってどうということはない。

「とはいえ、私の友人は愛想がなくアプローチをしたところで無言を貫いてもおかしくはない」

さすがに返事ぐらいはするとルドルクを睨むルーベルト。しかし、普段から睨むような目付きのため隣に立つルーベルトがルドルクを睨んでいるとは周囲も気づかない。

「なので、今回婚活パーティーでルーベルト公爵をうたた寝でもいい。寝かせることができたものをルーベルト公爵の婚約者とする!ちなみに殺せと言っているわけではないよ?どんな手を使ってもいいから2分ほどでも眠りにつけばよしとする!彼は不眠症だからね、彼を寝かせられる婚約者を与えてあげたいんだ」

難易度が高いのか、低いのか。最後はまるで赤子でも寝かせてくれとばかりの言い様。ため息をつくのは言わずもがなルーベルトで、訳がわからないと困った表情を浮かべるのは令嬢たち。

「まあ、これは私の勝手な思いだ。他の子息たちもいるのにすまないね。必ずしもルーベルト公爵ばかりに構えとは言わないよ。今回は私たち王家に挨拶も不要だ。今回開催したこの場が、君たちにとってよい出会いの場となることを祈る!それでは各自楽しんでくれ!」

その響きと共にルーベルトがための名ばかりとも言える婚活パーティーは開始された。しかし、怖いと噂もあるというか、既に顔つきからして不機嫌で怒っていそうなルーベルトにすぐに近づいてくるものはいない。

これぐらいはルーベルトもルドルクも予想はしていたため、少しの間二人で移動して軽く料理に手をつけながら雑談を始めた。

「本気だったのか」

「本気も本気。僕は君の不眠症を治せるなら治してあげたいし、普段お世話になっているし、友人としても恋愛結婚をさせてあげたい。まあ王家としてラヴィン公爵家の血筋を途絶えさせたくないのもあるけれど。最悪あまりに決まらないようなら、政略結婚も考えるよ?気長には待つけどね」

「面倒がないならいい」

「まあ政略結婚せざるを得ない場合は、君と僕たち王家に迷惑をかけない立場の令嬢を吟味するよ。でもやっぱり君には幸せな家庭を持ってほしいと友人として思うかな」

「……自分のことは後回しか」

「ははっ僕は今口説き中でね」

「お前がか?」

身分は元より容姿もよく、次期王と疑われない器量のよさから仕事ぶりまで悪い噂ひとつないルドルクに落ちない令嬢がいるのかと少しばかり頭痛を忘れ、驚いた様子をみせるルーベルト。

「またそれについては話すよ。ほら、そろそろ覚悟を決めた令嬢たちがこちらに来るタイミングを見計らっているしね」

「はぁ………」

笑みを浮かべて去るルドルクに、ついにこの時が来たかとばかりにため息をつくルーベルトは緊張と恐怖心でいっぱいの様子の令嬢たちに瞬く間に囲まれる……なんてことはなく、きっちり何故か一列に並ばれた。
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