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誘拐と決断
事実と覚悟
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海野組が慌ただしい最中、拐われた皇子は海野組とほぼ変わらぬ大きさの屋敷に連れられ、椅子に座らされていた。
「急に怖かったよね、皇子」
「あ、えっと・・・っ」
皇子が人慣れし始めていたとはいえ、初対面。しかも急に拐ってきた人に心を開くなどできるはずもない。どうしていいかわからず下を向き、驚きで何も感じてはいなかったものの、落ち着くことで出てきた震えを止めようと自身を抱くようにして頭を混乱させた。
なぜ、名前を知っているのか。
なぜ、自分をここへ連れてきたのか。
なぜ、ぼくはぱぱに捨てられたのか。
今思う疑問でもないものさえ浮かび皇子は混乱に混乱を重ねていくところで、体が浮くのを感じる。
「皇子、落ち着こう。僕は君に危害は加えない。痛いこともしないし、ご飯だってお腹空いてるなら用意させるよ。今でかけるのは無理だけど、ほしいものがあればいくらでも用意する。どんな望みもできる限り叶える。だから、安心してほしい。」
「ぱぱがほしい・・・ぱぱがいい・・・っ」
ほしいもの。それは皇子にとって何より安心できる場所。覚悟はしていたけれど、やはり離れるのは悲しいし、離れたくなかった。いってきますはいつか帰ることを許されたいという希望でもあったから。
寂しさに耐えるように涙を流す皇子に、皇子を持ち上げている男は悲しげな表情を見せながら問いかける。
「お兄ちゃんじゃだめかな?皇子」
「おにい、ちゃん?」
「混乱させるかもしれないけど、僕はね、皇子の兄なんだ。あんな親の元に置き去りにしてごめん。もっと早く助けたかった!今がその時だと思ってる!だから、泣かないで笑って・・・僕はそのために努力してきたのだから」
「ぼくに、おにいちゃん?」
「まだ3歳だったから覚えてないよね。僕は皇子が生まれたときから救われていたんだ。唯一の家族ができたから。あんな親ばかり見てたら頭狂いそうでさ。なのに二人目生むとか何考えてんだかわからなかったけど、それでも救われたよ。守るものができた。だから耐えられるって。でも、気づいたら逃げてた。殺されそうになったから。」
「・・・ころされそうに・・・?」
「うん、刃物でね、お腹を刺されたよ。急所は免れてたみたいだけど、血は出るし、痛いしで混乱して、怖くて逃げた。逃げて意識失ってこの家の持ち主に拾われて、養子にしてもらったんだ。あの親を説得したのか、何かしら違法な手口でしたのかまではわからないけど。でもね、生きていたと実感して思った。皇子が助けてくれたんだって」
「ぼくが・・・?」
「お腹刺された子供が大人から逃げられるはずもないから。皇子が足止めしてくれたんだって思った。だから次は皇子が心配で調べてもらったりして無事と知って戻ろうとした。でも、止められたんだ。今のお前が行って何になる。助けたければ力をつけろってね」
「でも、たすけてくれたのは・・・」
「うん、ごめん。遅すぎたよね。あいつらが死ぬとは思わなかったんだ。あの2人からあの日皇子を引き取るつもりだった。多額のお金で。なのに死んだって聞いて慌てて向かったんだ。だけど、運命のいたずらか、間に合わなかった。それからは海野組に潜ませてたやつに急いで皇子の監視をできるよう用意させたんだ。何かあればすぐかけつけられるように。でも大丈夫なうちは誘拐するためのチャンスを待った。まあ皇子を気にしすぎてバレちゃったけどね」
「ぼく、おにいちゃんわからない」
「わからなくていい。生きてくれていたことが何より嬉しいから。それに僕には大切な舎弟たちもいてね、皇子を助けたいって僕をたくさん助けてくれたんだ。でも、それに甘えすぎたのかもね、僕は。だから、皇子もあの帝王に奪われてしまったのかな。」
「・・・?」
「ぱぱ、か。そりゃ新しい家族を求めたくなるよね。僕だってここにそれを求めたんだから。ねえ、皇子、これを受け取って。」
「これ、なに?」
「通帳とカードと印鑑。皇子のためにお金を貯めてきてたんだ。それで借金も返せるだろうし、自由にもなれるよ」
「自由・・・」
「僕はもう十分幸せをもらったから。次は皇子に幸せになってもらいたい」
「おにいちゃん?」
「そう呼んでくれるのか。ありがとう。」
「だってなまえ、わからないから」
「そうだね。でも教えない。お兄ちゃんと呼んでもらいたいからね。皇子の家族であることの証明みたいでしょ?」
「あ・・・」
いつの間にか消えている恐怖感。それはお兄ちゃんと言われるその男が皇子をとても優しい表情で見るからだろう。皇子を想う気持ちがひしひしと伝わってくるのが皇子にもわかる。
立ち上がる兄、まるで何か覚悟を決めたような背中に思わず皇子が呼び止めようとする。行かせてはいけない。そう皇子の頭の中が警告するから。
「皇子、次は逃げない。命に代えても君を守るよ」
「まって・・・!」
「いい覚悟だな」
「出向くつもりだったのだけど・・・早いね、さすが帝王」
襖を開いたのは兄ではなく、帝王。銃を兄に向けるが、兄は腕を組み、覚悟を決めていた。
「急に怖かったよね、皇子」
「あ、えっと・・・っ」
皇子が人慣れし始めていたとはいえ、初対面。しかも急に拐ってきた人に心を開くなどできるはずもない。どうしていいかわからず下を向き、驚きで何も感じてはいなかったものの、落ち着くことで出てきた震えを止めようと自身を抱くようにして頭を混乱させた。
なぜ、名前を知っているのか。
なぜ、自分をここへ連れてきたのか。
なぜ、ぼくはぱぱに捨てられたのか。
今思う疑問でもないものさえ浮かび皇子は混乱に混乱を重ねていくところで、体が浮くのを感じる。
「皇子、落ち着こう。僕は君に危害は加えない。痛いこともしないし、ご飯だってお腹空いてるなら用意させるよ。今でかけるのは無理だけど、ほしいものがあればいくらでも用意する。どんな望みもできる限り叶える。だから、安心してほしい。」
「ぱぱがほしい・・・ぱぱがいい・・・っ」
ほしいもの。それは皇子にとって何より安心できる場所。覚悟はしていたけれど、やはり離れるのは悲しいし、離れたくなかった。いってきますはいつか帰ることを許されたいという希望でもあったから。
寂しさに耐えるように涙を流す皇子に、皇子を持ち上げている男は悲しげな表情を見せながら問いかける。
「お兄ちゃんじゃだめかな?皇子」
「おにい、ちゃん?」
「混乱させるかもしれないけど、僕はね、皇子の兄なんだ。あんな親の元に置き去りにしてごめん。もっと早く助けたかった!今がその時だと思ってる!だから、泣かないで笑って・・・僕はそのために努力してきたのだから」
「ぼくに、おにいちゃん?」
「まだ3歳だったから覚えてないよね。僕は皇子が生まれたときから救われていたんだ。唯一の家族ができたから。あんな親ばかり見てたら頭狂いそうでさ。なのに二人目生むとか何考えてんだかわからなかったけど、それでも救われたよ。守るものができた。だから耐えられるって。でも、気づいたら逃げてた。殺されそうになったから。」
「・・・ころされそうに・・・?」
「うん、刃物でね、お腹を刺されたよ。急所は免れてたみたいだけど、血は出るし、痛いしで混乱して、怖くて逃げた。逃げて意識失ってこの家の持ち主に拾われて、養子にしてもらったんだ。あの親を説得したのか、何かしら違法な手口でしたのかまではわからないけど。でもね、生きていたと実感して思った。皇子が助けてくれたんだって」
「ぼくが・・・?」
「お腹刺された子供が大人から逃げられるはずもないから。皇子が足止めしてくれたんだって思った。だから次は皇子が心配で調べてもらったりして無事と知って戻ろうとした。でも、止められたんだ。今のお前が行って何になる。助けたければ力をつけろってね」
「でも、たすけてくれたのは・・・」
「うん、ごめん。遅すぎたよね。あいつらが死ぬとは思わなかったんだ。あの2人からあの日皇子を引き取るつもりだった。多額のお金で。なのに死んだって聞いて慌てて向かったんだ。だけど、運命のいたずらか、間に合わなかった。それからは海野組に潜ませてたやつに急いで皇子の監視をできるよう用意させたんだ。何かあればすぐかけつけられるように。でも大丈夫なうちは誘拐するためのチャンスを待った。まあ皇子を気にしすぎてバレちゃったけどね」
「ぼく、おにいちゃんわからない」
「わからなくていい。生きてくれていたことが何より嬉しいから。それに僕には大切な舎弟たちもいてね、皇子を助けたいって僕をたくさん助けてくれたんだ。でも、それに甘えすぎたのかもね、僕は。だから、皇子もあの帝王に奪われてしまったのかな。」
「・・・?」
「ぱぱ、か。そりゃ新しい家族を求めたくなるよね。僕だってここにそれを求めたんだから。ねえ、皇子、これを受け取って。」
「これ、なに?」
「通帳とカードと印鑑。皇子のためにお金を貯めてきてたんだ。それで借金も返せるだろうし、自由にもなれるよ」
「自由・・・」
「僕はもう十分幸せをもらったから。次は皇子に幸せになってもらいたい」
「おにいちゃん?」
「そう呼んでくれるのか。ありがとう。」
「だってなまえ、わからないから」
「そうだね。でも教えない。お兄ちゃんと呼んでもらいたいからね。皇子の家族であることの証明みたいでしょ?」
「あ・・・」
いつの間にか消えている恐怖感。それはお兄ちゃんと言われるその男が皇子をとても優しい表情で見るからだろう。皇子を想う気持ちがひしひしと伝わってくるのが皇子にもわかる。
立ち上がる兄、まるで何か覚悟を決めたような背中に思わず皇子が呼び止めようとする。行かせてはいけない。そう皇子の頭の中が警告するから。
「皇子、次は逃げない。命に代えても君を守るよ」
「まって・・・!」
「いい覚悟だな」
「出向くつもりだったのだけど・・・早いね、さすが帝王」
襖を開いたのは兄ではなく、帝王。銃を兄に向けるが、兄は腕を組み、覚悟を決めていた。
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