上 下
3 / 24
出会いは幸か不幸か運命か

誕生と始まり

しおりを挟む
命令を下された帝王がまず用意したのは皇子の部屋。連れられた部屋は布団の一式がひとつ。それだけであった。

「とりあえずここがお前の部屋だ。家具や家は借金の糧にさせてもらう。まあ必要なものくらいは・・・」

「ぱぱ」

「なんだ、拒否権はないからな」

「ぱぱは、ここにいる?」

「あ?俺には俺の部屋がある。一緒なわけ・・・」

「いっしょがいい!」

「ふざけるなっ!寝るまでくっつく気か!」

「い、いっしょがいい!まもる、いった!」

「俺に寝るなとでも言う気か!?」

「ち、ちが・・・ひとり、いや」

「我が儘にまで付き合う気はない。俺のいないここで寝ろ。」

「いや!」

「・・・俺はお前のぱぱでもなければ、そこまで付き合う気はない。」

「・・・いやだっ」

「仮にも成人してんだ、ひとりで寝るくらいしろ。それと嫌でも部屋の場所忘れるな。次はこの家の者に顔を覚えてもらう。ちびなのはお前くらいだからな、これに関してはすぐ終わるだろ」

「・・・・っ・・・」

固くなに許しはしない帝王に皇子はぐっと手を握りながらも、冷たくも部屋を出ていく帝王に慌てて追いかける皇子。

虐待やうつ病の両親にわがままどころか甘えられさえできなかった皇子が初めて人に反抗した言葉であったことを帝王は知るはずもない。なぜここまで反抗したのか、皇子自身も自身の抑えきれない気持ちが、知らぬ場所や知らぬ人々のいることの不安の叫びによるものとはわからず胸を押さえながらただただ帝王についていくのだった。

「集まってるか」

「うっす」

「あ・・・あ・・・!」

ついていって着いた場所、そこには移動中に帝王が電話で集まるよう伝え、大広間に集められた大勢の舎弟たちがおり、一気に真っ青になる皇子。

全員が帝王たちに気づき視線がそちらにいけば、汗すら出し始め、呼吸が辛くなるのを感じる。

「おい、どうした」

「あが・・・っはあっ」

人が、息が、と頭が混乱していく。座り込む皇子に舎弟のひとりと話していた帝王がようやく気づく。

「過呼吸っすね・・・!誰か袋もってねーか!」

「これでいいですか!町野さん!」

「おう」

「ふっはぁっ」

袋の口を皇子の口に持っていき二酸化炭素を体に取り入れさせる作業をする町野と呼ばれた帝王の舎弟。この舎弟こそ幹部にもあたる兄貴分町野正義まちのせいぎ、ヤクザになんとも合わない名前である。実は皇子の家に向かった際の運転手でもある。

「落ち着いてきましたね~」

「なら部屋に連れていく。顔を覚えさす目的は達成できただろ。」

「あ、若が抱っこしてやります?きっと緊張しすぎたんですよ。落ち着きはしましたが、気を失っちゃったみたいっす。」

「・・・面倒だな」

「組長から聞いてますよ。事情については俺から話しときますから」

「もう伝わってんのか」

「すぐ全員にも伝わりますよ。若、この子年齢は成人していてもあきらかに精神的にも大人とは思えません。成人してるからと否定ばかりせずわがままを聞いてあげてくださいっす。」

「・・・俺に命令か?珍しいな。殺されたくなったか」

「いいえ。ただこの子はどうも人が怖いようですから。信頼できるのが若だけなら、あまりにも危ういです。断ち切られたとき、この子は壊れてしまうのではないでしょうか。」

「俺には関係ない」

「借金返済させるんでしょう?」

「そのときは命を張って払ってもらうまでだ。連れていく。貸せ」

「・・・はい」

どことない正義感を発揮する正義に軽く睨んでは、気を失った皇子を受け取り、いわゆるお姫様抱っこをしながら部屋へ連れていく帝王。

「はぁ・・・調子が狂う」

「ぱ・・・ぱ・・・」

「皺になるだろうが」

無意識に、帝王を逃がすまいと帝王の服を掴む皇子。文句を言いつつも、それでも無理に外そうとしないのは・・・・。

「今日は仕方なくだ」

そう一言呟けば方向転換をし、自分の部屋へ招き入れ、一緒の布団で寝る。それはただの気まぐれか、帝王にしかわからない。

帝王の普段にない行動、皇子の帝王だけに対する態度、それは不幸となりえる道へと繋がるのか否か。知る者はいない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに【魔法学園編 突入☆】

はぴねこ
BL
魔法学園編突入! 学園モノは読みたいけど、そこに辿り着くまでの長い話を読むのは大変という方は、魔法学園編の000話をお読みください。これまでのあらすじをまとめてあります。 美幼児&美幼児(ブロマンス期)からの美青年×美青年(BL期)への成長を辿る長編BLです。 金髪碧眼美幼児のリヒトの前世は、隠れゲイでBL好きのおじさんだった。 享年52歳までプレイしていた乙女ゲーム『星鏡のレイラ』の攻略対象であるリヒトに転生したため、彼は推しだった不憫な攻略対象:カルロを不運な運命から救い、幸せにすることに全振りする。 見た目は美しい王子のリヒトだが、中身は52歳で、両親も乳母も護衛騎士もみんな年下。 気軽に話せるのは年上の帝国の皇帝や魔塔主だけ。 幼い推しへの高まる父性でカルロを溺愛しつつ、頑張る若者たち(両親etc)を温かく見守りながら、リヒトはヒロインとカルロが結ばれるように奮闘する! リヒト… エトワール王国の第一王子。カルロへの父性が暴走気味。 カルロ… リヒトの従者。リヒトは神様で唯一の居場所。リヒトへの想いが暴走気味。 魔塔主… 一人で国を滅ぼせるほどの魔法が使える自由人。ある意味厄災。リヒトを研究対象としている。 オーロ皇帝… 大帝国の皇帝。エトワールの悍ましい慣習を嫌っていたが、リヒトの利発さに興味を持つ。 ナタリア… 乙女ゲーム『星鏡のレイラ』のヒロイン。オーロ皇帝の孫娘。カルロとは恋のライバル。

友人とその恋人の浮気現場に遭遇した話

蜂蜜
BL
主人公は浮気される受の『友人』です。 終始彼の視点で話が進みます。 浮気攻×健気受(ただし、何回浮気されても好きだから離れられないと言う種類の『健気』では ありません)→受の友人である主人公総受になります。 ※誰とも関係はほぼ進展しません。 ※pixivにて公開している物と同内容です。

愛する彼には美しい愛人が居た…私と我が家を侮辱したからには、無事では済みませんよ?

coco
恋愛
私たちは仲の良い恋人同士。 そう思っていたのに、愛する彼には美しい愛人が…。 私と我が家を侮辱したからには、あなたは無事では済みませんよ─?

お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

やってしまいましたわね、あの方たち

玲羅
恋愛
グランディエネ・フラントールはかつてないほど怒っていた。理由は目の前で繰り広げられている、この国の第3王女による従兄への婚約破棄。 蒼氷の魔女と噂されるグランディエネの足元からピキピキと音を立てて豪奢な王宮の夜会会場が凍りついていく。 王家の夜会で繰り広げられた、婚約破棄の傍観者のカップルの会話です。主人公が婚約破棄に関わることはありません。

妹の妊娠と未来への絆

アソビのココロ
恋愛
「私のお腹の中にはフレディ様の赤ちゃんがいるんです!」 オードリー・グリーンスパン侯爵令嬢は、美貌の貴公子として知られる侯爵令息フレディ・ヴァンデグリフトと婚約寸前だった。しかしオードリーの妹ビヴァリーがフレディと一夜をともにし、妊娠してしまう。よくできた令嬢と評価されているオードリーの下した裁定とは?

悪妻と噂の彼女は、前世を思い出したら吹っ切れた

下菊みこと
恋愛
自分のために生きると決めたら早かった。 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約破棄ですか? では、最後に一言申しあげます。

にのまえ
恋愛
今宵の舞踏会で婚約破棄を言い渡されました。

処理中です...