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「お手をどうぞ」

「あ、ありがとうございます」

公爵様のエスコートで馬車から降りた先に待っていたのは宝石店。初デートで最初に行く店として合っているのだろうか?とは思うものの、デート経験のない僕は何も言えないし、公爵様の機嫌よさげな雰囲気を見ると言えるはずもなかった。

まあしがない男爵家なので、宝石をゆっくり眺める機会なんて今までなかったから嫌とは思わないからいいんだけど……。綺麗なものって見てるだけで楽しいと思うし……うん。

と自分を落ち着かせようとするも、宝石店と理解した瞬間から緊張して仕方がない。公爵様相手だから、デート基準は豪華そうなイメージが若干あったけど、初っ端から予想を超えてきたのだから緊張するなという方が無理だ。

最近は王城暮らしとはいえ、高級なものに耐性がまだまだついてないのだから。

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました、公爵閣下」

「急な連絡で悪かった。今回は私の婚約者にプレゼントをしたいんだ」

「そうでございましたか、かしこまりました。では奥に案内しますね」

宝石店に入った途端待ってましたとばかりにお出迎えの店員さんが。公爵様がその相手の方に慣れた風に今回来た理由を述べれば特に疑問をもった様子もなく受け入れてくれたことに少し不思議に思う。

公爵様がいう婚約者という言葉に何も思わなかったのかなと。実際僕と公爵様は夫婦で離婚をしていないから、まだ周りでは夫婦なのが事実で回っていると思っていたんだけど……。公爵様の行きつけの場所ならより疑問に思いそうだし、慣れ親しんだ二人の感じから聞けない雰囲気は見られなかったように思う。でも、こういういいところではあえて詮索をしないのが正しいのかな?

男爵家の周りの店は普通に客と店員で世間話とかあったけど、そこと比べるのがそもそも違うか。

そう思いながらも、既に周りに宝石は見られるのに、さらに部屋の奥の扉の中へ案内されて表にあるのと奥との宝石の輝きの違いに目を見張る。

「すごい……」

思わず見た瞬間に声が出てしまったほどだ。

「初めて見られる方は皆様に感動を与えるVIP専用の部屋になります。売り物ではありますが、この部屋は見るだけでもVIPに認められた中でも同伴可能とさらに認められた信用のある一部の方との同伴でなければ拝見も難しい場所となります」

「そうなんですね……見れてとても光栄です」

見るのすらかなり限定的にするのもわかるくらい、その部屋の宝石にはどれも目が惹かれる美しさだ。手ぐせの悪い方なら盗らずにはいれないだろうことが簡単に予想できる。

「こちらの手袋をしていただければお手にとっても大丈夫ですよ」

「そ、そんな……傷をつけてしまいそうですし」

「大丈夫だ。もしものことがあっても私が買うから問題はない」

「み、見れただけでも十分なのに買っていただくわけには……」

正直一つ一つ値段が書いてないものの値段は僕が考える以上に高いだろうことは見るだけでわかるのに、公爵様は簡単に購入を口にするのだからさすがだ。でも流石にこれを買ってもらうのは恐れ多すぎる。

「元々ここにはここの宝石で婚約指輪を作ろうと思ってたんだ」

「婚約指輪!?で、でもここには宝石だけでアクセサリーなどの見本はないですよね?」

何故宝石店と思ったらまさかの婚約指輪。でも、店頭にもこの部屋にもあるのは輝くばかりの宝石だけだ。

「実はアクセサリーは隣の店に別で店を構えてまして共同でやっています」

「何故一緒にしてないんですか?」

宝石を宝石だけで持たずに加工する人の方がほとんどなのは僕でも予想はつく。だからほとんどは宝石と見本のアクセサリー類を一緒に見て考えるのが普通だと思っていたんだけど……。

「私たちは互いの得意分野を発揮して仕事をしておりまして、宝石の専門は宝石だけをアクセサリー専用はアクセサリーだけをと分けることでよりお客様に寄り添って思い出の品を作ることに尽力しようとした結果こうなったんですよ」

「どちらも専門職の方から話を聞いてよりいいものを自分で選び作っていただくってことですね」

「そういうことでございます」

値段が気にはかかるけどその話を聞くと一気に興味が湧いた。

「旦那様、宝石選んでもいいですか……?」

「ああ、もちろんだ」

それからしばらく気になる宝石を旦那様と選びつつ宝石の意味を店員さんに聞いたりして時間は過ぎていった。
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