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そう……で終わってしまったという。タイミングが掴めなかったのもあるけど、中々勇気とは簡単に出ないものなんだと実感したところだ。

だから僕は翌日早起きをして公爵様のところへ向かった。今逃せばそれこそずっとできないままもやもやしそうだから。

「こ……旦那様入ってもよろしいですか」

「その声は……シャロン?もちろんだ!まさか朝から来てくれるとは!」

朝早くなのに既に起きていたようで安心しつつ、声だけで歓迎してくれているのがわかるとほっとする。それでもなんとなくこれからしようとすることを考えると緊張して中に入るのが恐る恐るとなってしまう。

「あの、おはようございます。朝からもう仕事に行くんですか?」

「ああ、それでもまだ時間に余裕はあるが……まさか朝からシャロンに会えるとは、今日はいつも以上に仕事に励めそうだ」

「そ、そんな……」

本気で言ってそうな公爵様に僕はどう返していいかわからないものの、見るからに公爵様の元気な様子が伺えるのでよかったと思う。無理をしているようなら心配になっていたところだった。僕じゃ仕事を止められないし……。

「それで何か用事があったのか?もちろんなくても嬉しいが」

思考を動かして自分がこれからしようとすることでできるだけ冷静になろうと思っていたが、当然公爵様からすれば朝からどうしたとなるわけで、切り出されることは予想がついていたはず。

「あああああの……!だ、旦那様に昨日忘れてたことがあって……その……」

「忘れてた……こと?」

なんのことかと首を傾げる公爵様。当然急に言われては思いつくはずもないだろう。言い出しっぺは公爵様ではあるけれど。

「少ししゃがんでもらえますか?」

「それは構わないが……?」

公爵様は身長が高いので実行するにはしゃがんでもらう必要があった。僕が何をしようとしているのか、まだ公爵様はわかっていない様子。これはある意味救いなのかそうじゃないのか今の僕には判断できない。

だが、ここまで来たら僕だって男なんだからやらなくては!

「仕事頑張ったご褒美……です!」

「!?」

覚悟を決めた僕は素早く公爵様の頬にキスをした。本当に一瞬だったと思うが、今の僕には情けなくもこれが限界である。目を見開いてこちらを向こうとした公爵様だが、これだけのことで僕は耐えきれず逃げた。

「し、仕事頑張ってください!倒れない程度に!では!」

その言葉だけを残して。

逃げる間公爵様の声は何も聞こえなかった。パニクった僕が聞き漏らしたか、公爵様の声が小さかったのか、そもそも何も言ってないのかはわからないけれど……反応を見る余裕まではさすがになかった。

それでも僕は約束通りやりきったのは確かだ。最初に提案して約束させたのは公爵様だから嫌がったりはないはず……だよね?
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