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そうして後は公爵様からサインを貰えば離婚成立ということでまだ三年には少し早いけど食事の時間に切り出した僕は、見たこともない公爵様の姿に混乱中。

「何故離婚の手続きをした?何か不満でもあるのなら直す。だから離れていかないでくれ」

「え?」

まるでこちらに縋るような目と表情に混乱するなという方が無理だ。というかもしかしなくても公爵様は契約のことを忘れてる??確かに契約した日から契約の話を出すことはなかったけど……。

とはいえ、食事の時間を一緒に取り続けてくれたから言わずとも契約を気にしてくれているんだと思っていた。でも契約を忘れていたとしたら今までなんで……?

「私はお前との時間を悪くない……と思っている。結婚生活に何か不満があるなら改善したいと思うくらいには……」

理由を知って思わず感動してしまう。最近会話が多くなったとは思っていたけど、契約とか関係なく僕と食事をしてもいいと思われていたなんて……それも契約のことを忘れるくらいには。

少しばかり片想いが報われた気がした瞬間だった。これがこれまでのことに耐えてきたご褒美と思えば無駄ではなかったと自分の慰めにもなるなあなんて。

このチャンスをものにして契約のことを言わないまま離婚の撤回も今ならありなんだろうけど、それはあまりにも自分が惨めに思えて嫌だと思うから公爵様には思い出させてあげるつもりだ。どちらにしても今の現状が永遠に続くとしたらさすがに僕が耐えられないと思うから。

この離婚が原因で男爵家から勘当されて平民になってもいい。それくらいの覚悟であの日僕は離婚という契約を持ちかけたのだから。公爵様とのことは好きな人と過ごした思い出としてできるだけ僕は幸せなのだ。最後に公爵様から嬉しい言葉を貰えたのだから尚更に。

「公爵様、お忘れみたいですがもう三年経つんですよ。細かく言えばまだ数週間残ってはいますが……」

「三年……?あ……」

「僕の我儘を三年間聞いてくれてありがとうございます。忙しい公爵様とほぼ毎日食事できる時間があっただけで僕は幸せでした。何より好意を聞き入れてくれたことが、まだ同性愛が厳しい世の中で僕にとって嬉しい毎日で……いい思い出になります」

「契約は確かに忘れていた。お前と過ごす毎日が俺にとっても……いや、それよりも本当に離婚するつもりなのか」

「契約ですから」

何度も聞く公爵様が愛しいと思う。少しでも僕との離婚を残念に思ってくれているようで。この三年間知らず知らずのうちに公爵様との関係がいい方にいっていたのだと思うとこれからの自分の希望にもなるというものだ。

新しい恋をして、両想いでの同性婚ができるかもしれないなんて夢見がちかもしれないけれど。

ちなみに食事の場だから使用人も聞いてる中で僕はこの話をしたから、離婚までの残りの数週間くらいは今までで1番マシな生活も期待できるんじゃないだろうかと狙っていたりもする。

新しい恋とか言いつつも、最後の最後は周りを気にせず公爵様との思い出を噛み締めたいと思っていたから。まあ公爵様に時間をとってもらわない限りは結局食事時間でしか会話すらできないのだけど。でも最後だから会話も増えた今なら、仕方なく過ごす時間が少しくらい増えたりとか……なんて期待しちゃってる僕はやっぱり夢見がちすぎるかな……?

「確か契約は白い結婚……そうか、白くなければいいのか」

なんて都合のいいことを考えている僕に聞こえてきたのはぶつぶつと今までにない黒いオーラを放つ公爵様の言葉。契約を思い出したようだけどなんとなく不穏な言葉が聞こえたのは気のせい?

「公爵様……?」

「契約の離婚理由がなければ離婚しないということだな?」

「え、契約ではそうですね……?」

「それは契約がなくとも離婚する気は変わらないということか」

何故か公爵様の機嫌が悪くなっているような気がするのは僕だけだろうか?それとまるで僕と離婚したくないと言外に言われているような都合のいい解釈をしてしまっている自分がいるのだが……さすがに夢見すぎ、だよね?

相手はあの人嫌いの公爵様なのだから。

「えっと……さすがに今の生活のままでは僕が耐えられないというか……」

「どういうことだ?欲しいものでもあるのか」

「いや、そうではなくて……」

すんなり契約の離婚成立で終わると思っていただけに、僕は言う気がなかったこれまでのことも正直に言うことを決めた。今の公爵様なら僕の言うことを信じてくれるかもと思ってしまったから。

……これが最後のチャンスかもと無意識に好きな人が僕をどれくらいに想ってくれているのか試したくなったのかもしれない。

そうして僕が今まで耐えてきたことを告白したことでとんでもない事態を巻き起こすとは、誰もが思いもしなかった。
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