弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~

荷居人(にいと)

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元王妃の武勇伝物語

番外編~え、誰ですか?親子の再開~

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「肉ぅうぅぅ!逃がさねぇぞ!」

「ま、待ってくれ!シャル」

いや、お前ら誰だよ。珍しくトアが固まっちゃっただろ。

トアと二人で山の中、目の前を横切るのは恐らく俺たちの親だった人たち。しかし、その面影はない。なさすぎるぐらいにない。

なぜ、親を追いやった山に来たかというと、その付近にある村から助けてくれと、近くの都へ要請があり、親を追いやった山の中の獣たちの姿が減り、狩りをしようにも獲物が見付からない日々が増えたとのこと。

小さな安全な場で作られた村は、作物を作るには狭く、狩りや採集した木の実などで食いつないで来た。最近では冬が近いにしても木の実も少なすぎるくらい減っており、冬が来る前に狩った獲物で蓄えたくても今日を生きるだけで精一杯になってしまったとか。

それを聞いて親の様子見ついでに行くのもいいかと思い、嫌そうにするトアも誘って遠くから遙々来た。村までは護衛もいたが、煩わしいとトアが言うので、目を盗んで二人で山を歩いていれば、先ほどの出来事。

いい年した男女共にどこかの原始人のように布一枚を着て、逃げるように走る獣を、枝から枝に跳び移って口悪く叫びながら、引き離されない速さで追いかけるのは女性で、なんとか女性から離れまいと走る男性のなんとも情けないこと。

しかし、やっぱり母親と父親の顔立ちで、あの喋らない沈黙の母と、いつも人を睨みつけるような厳しい王面はどこへ行ったのかと言いたい。

「なあ、別人かな。トア」

「兄上、僕は知らぬ間に親を死刑にでもしたような気がします」

「いや、普通に国外追放に近い山奥に追いやっただけなの俺知ってるから」

トアが現実逃避し始めた。うん、あれが親とは思いたくないよな。前とは全く意味は違うが。

取り合えず去った先を追っていけば、血だらけの手作りナイフか、少しいびつなナイフを持った母・・・女性と、見てられないとばかりに手で顔を隠す男性の姿。どうやら獣は負けたようだ。

「獲物っ!」

思わず後ずさる。近づくこちらの足音で気づいたのか、睨むような目で獲物認定で顔を向けられれば仕方ないと思うんだ。

「ち、違うって、人間です。」

間違えた。人間ですってなんだ。

「あら、リーアベルに、セトア!まあまあまあ!大きくなって!」

やっぱり母親らしい。でも、最後会った時既に俺は成人越えてたし、成長しているはずもないんだけど。セトアも18から身長は伸びてない。

「お、お久しぶりです。」

「ちょっと、いつまで顔隠してるの!このウジ虫が!」

「ぐふっ」

容赦なく殴られ、2、3メートル吹っ飛んだ父親らしき人物。

「この子たちの父親なんだからいつまでも顔隠してんじゃないわよ!今だに血ひとつ見れないんだから、情けない!」

父親だった。いや、父なら仮にも王だったし、普通に血くらい大丈夫だろうけど、多分母が血だらけになって嬉しそうに獣を捌く姿が見てられないだけだと思う。

獲物を見る目を向けられた俺も怖かったし。だからもう追い討ちかけて蹴るのやめてあげて。最初の一撃でもう気絶してるからさ。

「今まで見た母上は人形だったんでしょうか・・・」

「生きてたように思うけど・・・自信なくなってきた」

父を黙って見ていた母とは思えない。今まで見てきた母上は人形ですって言われたらやっぱりと信じる自信はある。

しばらくして生き返った父はボロボロで、父上に恨みがあると言っていたトアも、さすがに恨み言を口にする気にはならないようだ。ひとつでも口にすれば、なら私がその分の恨みを、とでも言って、母が父をボロ雑巾にしてしまいそうである。

「いばばでずまながっだ」

「「あ、いえ、お気になさらず」」

思わず被った言い分。もうまともにすら話せず、言う前から涙する父を責める気どころか、なんかいっそ憐れである。一体この会わない年月何があったのか、聞きたいような、聞きたくないような。

「ふふっ優しい子たちね!今日はご馳走よ!ついてきて!」

「「「え」」」

捌ききった肉を担いで物凄いスピードで走り出す母に、慌ててついていく。トアは余裕そうだが、何あれ早すぎ!俺は全力疾走だ。父は・・・姿が見えないが、ご馳走と言っていたし普段の拠点かどこか、場所はわかるだろう。

下手に気にかければはぐれそうだ。岩をなんなく、ジャンプで飛び乗って小さな崖を登り、明らかに普通の脚力では無理な川をその足で飛び越える母は人間やめたのかと言いたい。

俺は普通の人間なので、トアにおんぶしてもらい・・・トアくんは、母親と同じことをやってのけてくれました。俺と言う重荷を持って。トアは人間・・・だよな?

ようやく着いた洞窟、待っててねと洞窟の奥へ行く母を見届けて、遅れてやって来た父は、どこかを登ったのか、手は傷だらけで、川を渡ったのか、全身ずぶ濡れ。あ、人間だ。増したボロボロ加減に何故か安堵した瞬間だった。

「どりゃあぁっ」

「え、何?」

奥から響くどすの聞いた低い声。

「ごばん、づぐっでゆ」

「兄上、料理のときあんな声出さないです」

出すようなこともないし、そりゃ出さない。え、洞窟の奥でどんな料理をお作りですか?

「覚悟しやがれぇっ!」

「兄上、料理に覚悟はいるんでしょうか」

「・・・うーん、兄上わかんないわ」

ここまで聞こえる母の声。母は本当にどうしてしまったのだろう。

「ふふっおまたせ」

幾度とどすの低い声がようやく聞こえなくなり、ご馳走が完成したのだろう。母がにこにこと笑いながら真っ赤になって奥から迎えに来る。

ちなみに真っ赤って母が照れた様子でとかそんな可愛らしいものではない?照れたとしてその様子がわからないくらいに母は真っ赤に“濡れている”。

やっぱりあのトアに似たような冷めた表情をしていた母は人形だったのかもしれないと改めて思った。トアにも通じたのか目が合うとこくりと軽く頷く。正直奥行くの怖くないか。

「ごい」

「あ、はい」

なんか父が行けるなら大丈夫な気がした。

「原因は・・・」

「確実にこいつらですね」

奥に行けば、もうたっぷりと山積みになった獲物たちとその隣にある木の実やキノコたち。どう見ても村を危機にした原因はこの二人というか母だろう。トアは冷めた表情で親をこいつら呼ばわりをする始末である。

とりあえず、食べながらその獲物や木の実などを見てどうしたものかと考えながら口にした食べ物についての疑問。

「ちなみにこれどう作ったんですか、母上」

「乙女の秘密よ?」

乙女は血だらけを気にしない精神はないと思います。

何がどう料理されたのか、調味料を使わなくちゃこんな味出るはずがないと思う上手い料理。肉しかない時点で料理か微妙だが。

あ、母上は肉の乙女なのか!いや、そんな乙女やっぱいない。

「父上、母上、獲物狩りすぎです。この近くの獲物が減り、村が困っております」

「あら、そうなの?」

肉と乙女について思考がとんだ俺と違い、トアは村についての考えを忘れず、考えた末、直球で言うことにしたようだ。面倒になったに違いない。

「私は貴方たちをもっと山奥に追いやったつもりでしたが」

「獲物を追いかけている内に村に近すぎてしまったようね。この第二五拠点は、広くて気に入ってたのだけど仕方ないわね。この獲物と木の実は、村の人たちにあげましょう。第一拠点に戻れば狩り尽くすはめにはならないわね。ここの獣弱いからつまらなかったの、ちょうどいいわ」

解決、したのだろうか?獣が弱い。母はバトルを求めておられるのだろうか?ってか第二五拠点って、なんだ?

「ありがとうございます。」

まあ、せっかく狩った獲物をくれると言うのはありがたい。これだけあれば村も蓄えになることだろう。

「お腹も膨れたし、また狩り直しよ!第一拠点まで二日で行くわよ!」

「ぶ、ぶづがっ!?」

父の驚き用から遠いことがわかる。走り出す母、今だに濡れたままのボロボロな父はへろへろになりながらついていく。本当随分変わったものだ。

「たくましいですね、母上は」

「たくましいで済ませていいのか、あれは」

その後、俺たちを探しに来た護衛と合流、もらった獲物を村まで運び、村人たちは大喜びで一件落着。

余談だが、拠点までの道のり、王宮で鍛えられた護衛たちも小さい崖とはいえ、登るのに苦戦していたし、川なんて普通にじゃぶじゃぶと川に入って渡っていた。

トアは特別優秀な子だと、前世のゲームのこともあり、そう思っていたが、今ならわかる。その優秀な遺伝子、絶対母のものだと。

後に母を見て逃げ出す大型の獣を、身軽な身体で追いかける姿が多数人に目撃され、母が『森の支配者』と呼ばれることを聞いた俺とトアが心を無にし、遠くを見る目になったのは決して現実逃避したくなったわけじゃない。
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