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元王妃の武勇伝物語

番外編~元王と元王妃のその後は始まりの合図(元王様視点)~

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「父上、貴方はもういりません。兄上を私からとろうとした恨みです」

にこりと、冷え冷えとした初めて見た冷めた無表情以外の笑みで、末の息子に告げられたその日、抵抗も意味をなさず、身ぐるみひとつで妻と二人で辺境の地へ追いやられた。

追いやられた場所は店ひとつない山。山しか見えない、もしくは森。どう考えても飢え死にでもさせる気にしか思えない。

ちなみに我が妻は、抵抗どころか黙りで、妻がこうなったのはいつからだったろうとテントすらない場所でふと思う。初めて会った時は笑っていた。何がおかしいのか、愛想笑いすら知らない私には不思議でしかなかった。

相手にしても『王妃らしくしろ、へらへらとするな』とぐらいしか言わず、何度も言っている内に、気がつけば笑いもせず、泣きもせず、ただどこを見ているかわからない黙りな王妃に。ただ私の言う通りにするだけの人形になっていた。

「いい加減頭は冷えましたか?ハゲ」

「わ、私はハゲてなど!い、いや、話せるのか!?お前!」

久々に話す妻の声は枯れることなく、私の耳に届く。思わぬ真正面からの悪口につい言い返して、話したことに驚けば、もう怒ればいいのか、このまま驚けばいいのかわからない。

仕方ないだろう、妻の表情はあの末の息子が普段から見せていた冷え冷えとした冷めた表情と同じなのだから。

「落ち着きなさい。頑固じじい」

「が・・・っじ・・・!?お、お前こそ、ば、ばばあだろう!」

「妻の名も言えない老いぼれじじいと一緒にしないでくださいまし。まぬけ」

妻はこんなに口が悪かっただろうか?私に話しかける度に、語尾に悪口をつけなければ話せないのか?もう呆然と口を開けるしかない私は、確かにまぬけかもしれないが。

「さて、こんなドレス、邪魔でしかないわね。」

「なっおまっ」

誰もいない山の中とはいえ、ドレスを脱ぎだし、見ること30分、女性は随分ドレスとやらに時間をかけて着る理由がわかった。しかし、なぜ、全裸で平然としている?私は妻がわからない。

「クズ。私の裸見る暇あるなら食料でも探しなさいな、どあほ」

ついに会話の頭にまで悪口が追加された。

「しかし、お金どころか店もないではないか」

「バカなの、あなた。ここは山よ?とてもいい山!セトアのせめての慈悲がわからないの?感謝してもいいくらいだわ。子供からやり直すために死にます?おたんこなす」

慈悲。父になんてことを、と恨みこそすれ、感謝?

「何を言っている!あいつがこの地に追いやったのだぞ!どうやったかは知らぬが、育ててやった父にこのような・・・!」

「お黙り!情けない夫を持ったものだわ!リーアベルを見習いなさいな!長男の必死の訴えがあったにも関わらず、セトアにすら愛情ひとつ見いださなかったあなたの責任よ!いつか気づくかと気づいてほしいと同じ言葉で怒鳴られ続けた私は諦めていたわ!それでもリーアベルは自力で愛情を理解し、セトアに与えていた。リーアベルが幼い頃我が儘だったのは私たちに愛を与えてほしいと言う悲鳴よ!その悲鳴に答えなかったにも関わらず、セトアに与える愛情は本物だった!貴方にはわからないでしょう!?人を愛することがどれほど尊いことか!」

「愛で国は成り立たない」

「愛はお金になりません。愛は災害を止められません。愛はただそこにあるだけです。ですが!愛があるからこそ、頑張れる。愛があるからこそ必死にもがける。愛があるから人は間違いに気づけることを何故貴方はわからないの?」

「シャル・・・?」

そうだ、妻の名はシャルラッテ。幼い頃からシャルとそう呼んでいた。いつから、名すら呼ばなくなっただろうか。

「大人になればなるほど、王に近づけば近づくほど貴方は貴方でなくなって、重責に追いやられていくのを理解していたわ。けど、私だけじゃだめで、子に託すにも、大人の貴方すら重い責任をどうしていいかわからなかった!だって貴方には愛がないのだもの!支えようとしてくれる人たちを見ず、離れていくのにすら気づけない人になってしまったから、王として見放されたのよ!」

「私は・・・」

そうか、見捨てられたから、誰もが私の抵抗の言葉を聞かず、ここへ捨て置いたのか。

リーアベルが言っていた言葉

『まだトアは子供、甘やかせとは言いません。せめて、厳しく接するばかりじゃなく、優しくしてあげてください。愛情を知ってこそ、民を想える王になると思うのです。』

愛情を知らぬお前が言うか。と答えたか。愛情を、愛を知らぬのは私で、リーアベルはセトアを通じてそれを知った。

だというのにセトアの唯一の愛を私は取り上げたわけだ。

「愛がわからぬ私は間違っていたのか」

「ええ、そうです。間違いを正せなかったのです。傍にある愛に気づけぬ者に民を想う気持ちは芽生えません。民を想ってこそ王は真の王となり、よりよい国を築けるのです。王は道具であってはならないのです。人には人の王を。道具が王になれば、機械と同じ。ただ現状を維持するだけで、悪いものは悪くなるばかり、いいものはよくなることなくそのまま、それではいずれ国が滅びます」

「すまない、シャル・・・私は・・・」

「気づけたならいいのです。今のセトアにはリーアベルという優しい兄がいます。あの子はどうも兄に依存しがちですが、それも愛。国のためでなく、兄のために励むでしょう。悪さもするかもしれません。でも、愛を知っているのだから間接的だとしてもきっと貴方よりいい国を作るわ」

「そうだと、いいな」

「息子たちの幸せを祈りながら、私たちはサバイバルを楽しみましょう!」

雰囲気ぶち壊して立ち上がるシャルは、気がつけば全裸ではなく、どこかの原始人かのように布一枚をワンピースのように着ている。

どこにそんな体力があるのか、山の中を走り抜け、木に登り、枝から枝へと跳び移り、ついていくのに必死な私と違い、止まったかと思えば獣を魔法といつの間にか手にしていた木の棒でやっつけ、一言。

「食べようにもナイフがないわ」

「たくましすぎやしないか、シャル?」 

結局見つけた川の近い洞窟の先で、妻がいつの間にか木の実やキノコなどを食料としてかき集めており、焼くなりして食べる。

いつしかナイフを作り上げ、獣すら捌いてみせるだろう血だらけの妻を想像し、つい遠くを見てしまう私が、飢え死にの未来を考えることはもうない。
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