弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~

荷居人(にいと)

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番外編年齢制限なし

番外編~平凡王子(モブ視点)~

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俺の学年には王族が二人もいる。クラスこそ違うが、リトレーン公爵令嬢の事件以来、どこぞのバカップルかのように仲良しだ。そんな雰囲気に俺と同じく取り巻きだったやつらは近づけない。

男同士、兄弟なのに、甘すぎる雰囲気に呑まれかねないからだ。しかし、昨日から王宮教師の出張ということで授業には出ないものの、休憩は同じようにあるはずなのに、クレット王太子は兄殿下の元へは行かないし、兄殿下も現れない。

まああの事件後の翌日から王宮にお二人の仲が良いという噂が行かないようにと珍しく王太子から頼まれたので、何かあるのだろう。沈んでた取り巻きたちは復活し、嬉しげに媚びを売りに、休憩時間王太子の周りをうろついている。

正直媚びたいなら、王太子がイライラしていることくらい気づいてやれよと思うのは俺だけなんだろうか?

「ねぇ、君」

「え、お、私ですか!?」

王太子から三歩、取り巻きから一歩ほど離れた位置にいたはずが、いつの間にか恐れ多くも冷めた王子と言われる王太子が目の前にいた。

相変わらず兄殿下以外の前だと眉ひとつ動かさず冷めた表情で、同一人物に見えない。ってか本当に8歳?

「そう、君。ひとつお願いをしたいんだ」

取り巻きの視線が痛い。どう見ても王太子の機嫌損ねたお前たちに頼みたくないだけだろ。理解しろ。取り巻き同士仲がいいわけじゃないから人間関係は面倒だ。

それに王太子、貴方のお願いは命令にしかなりません。少しくらい笑って頼んでもらえませんか?兄殿下の一割でもいいですから。

そして王太子の“お願い”は兄殿下の様子の報告。兄殿下も王太子にしていた時期があるようで、自分もしてみようと思ったらしい。で、学園では頼めるのが取り巻きしかいないから俺に頼んだとか。これストーカーじゃ・・・と思うけど将来の王がストーカーなんて笑えない。

『君たち、余計な真似したら家、なくなると思ってね?』

吹雪が吹いた。恐らく邪魔や恨み言を言われることはこの瞬間なくなった。さすが次期王、頼もしい。あなたが取り巻きの前で頼んできたせいですけどね。

後もうひとつ

『君、こういうの得意でしょ?』

なんでおわかりに?

俺の家族は昔の忍者という隠れ人の末裔で、ひそかに他ではない訓練に勤しんでいる。ストー……いや、尾行には持ってこいだろう。とはいえ、下級貴族なのにどういう経緯でお調べになったのか物凄く知りたい。

取り巻きから離れた位置で見ていたせいで気にかけられたのだろうか。気配消してたんだけどなぁ。さてさて、もうこれぐらいにして兄殿下のス………尾行報告のために観察をせねば。

確か兄殿下は王太子とは違い平凡王子と呼ばれている。けど、俺はそう思わない。確かに王族の教育を受けているのにできるのは一般と変わらないのだろう。だが、正直あの王太子ができすぎて、余計兄殿下が霞んでしまうだけなんだ。兄殿下は婚約者がいなくなってから王太子についで学年2位の成績。

教師に色付けでもしてるんだろうと言ってた奴等この学園の規則を見直せ。教師に色付けでもしてバレたらその生徒も教師も学園から強制追放だ。たとえ王族でも。ろくな貴族が居やしない。純粋に王太子と兄殿下がすごいなと見る平民を見習え。

それに平凡王子は我が儘ってのもあったけど、幼い頃なんてそんなもんだろ?嫌がらせの噂の件も、婚約者が王太子に浮き足だってるのはわかる。どう見ても婚約者が悪い。何被害者ぶってんだって話だ。王太子に相手にされないアレには笑いを堪えた。初めて王太子に好感が持てたのだから。

それに取り巻きに嫌がらせって普通に王太子が嫌がってた奴等ばかりだし、ある意味牽制だったんじゃ?いくら貴族がいじめられようが、王族に証拠なしに噂だけで文句は言えない。俺からしたらいい気味だったし、少なからず王太子は嫌悪を向けた取り巻きが減り、少し寒い雰囲気が和らいだ気が……しないようでもないし?

それに顔!平凡っていうけどどこが!?王宮が美形集めすぎなだけで、全然平凡顔なんかじゃないし!王子にふさわしく美形じゃん?兄殿下も!そりゃ王太子は絶世すぎるから比べたら平凡なのかもだけど、まず王太子を基準にすべきじゃないし?兄殿下が平凡容姿なら俺や取り巻き、他はただの不細工でしかない。それ以下かもしれない。

王太子もだけど、兄殿下も王太子の前では美形さがパワーアップしている。王族兄弟は二人揃うと秘めたる力でも解放されるとでも言うのか。

まあ、なんだかんだと俺は意外に兄殿下、嫌いじゃない。弟に対して色んな意味で怪しいけど、王太子よりか親しみやすそうだし。

今日はどうやら買い物のようだ。ぶつぶつと言って色んなお店に入っていく。近くまで寄ればなるほど、王太子の誕生日プレゼントらしい。ぶつぶつが聞こえる距離でもバレるなんてことはない。俺、空気だから。王太子マジでなんで気づけたんだ?

ちょっとずつ増えていくプレゼントに、一体ひとり相手にどれだけプレゼントする気なんだろうと苦笑いすら浮かぶ。恋人同士でもあんなに買わないだろう。

お店にも気配を消して入っていたわけだけど、一番驚いたのは結婚指輪。思わず吹き出しそうになった。危ない危ない。あの甘い雰囲気でない方がおかしい気もしたし、まあ、気にしない。

あの兄殿下大好きな王太子ならば喜びすぎて泣いちゃうかもしれない。いや、平凡王子と言われながらも冷めた王太子に対して純情を引き出せる秘めたる力を持つ兄殿下ならば、王太子を顔真っ赤にさせ、固まらせるくらいするかもしれない。誕生日当日忍び込んで見たい気もするが、王太子に絶対バレるのでやめよう。甘い雰囲気に逃げ出せず後悔する可能性もある。

最初が衝撃的すぎて、衣装、香水、テディベアと意外に普通だと肩透かしをくらった。しかし、最後にまさか兄殿下の描かれた絵にするとは。意外に中々勇気がいる物な気はするが、一番王太子が喜びそうである。

これ、報告すべきじゃないよなぁと思いながら王太子に一言。

「今日の出来事はいずれわかるので報告しません。」

「………逆らうの?」

「学園は平等主義。ここは権力を振りかざせる場所ではありません」

「それ聞いたら兄上に嫌われる?」

「それはないですね。ただクレット殿下のために聞かないでほしいです」

「僕のため?兄上のため?」

「どちらもですね」

相変わらず冷めた表情で口しか動かない王太子はひとつため息を吐けば諦めた様子だ。まあ報告するならひとつだけだろう。

「あれは平凡王子じゃなく、ブラコン王子ですね。クレット殿下かなり愛されてます。あれが平凡なら世界は一途な愛で包まれるに違いないです」

「なにそれ」

あんな過剰愛が平凡なわけがない。ひそかに、気のせいかもしれないけど王太子が一瞬笑った気がした。意外に話そうと思えば仲良くなれるかもしれないと思うのは自信過剰だろうか。

後日王太子の誕生日翌日、『言わないでくれてありがとう。でも言ってほしかった……。心の準備………っ』と冷めた表情に疲れが見えつつ、幸せなオーラを感じたので、兄殿下の誕生日プレゼントは大成功を納めたのだろう。

これは後に、セトア・クレット王の影の側近になるそこらのモブの話である。
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