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本編完結(年齢制限無し)
兄上(セトア視点)
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誰もが僕を次期王としてしか見ず、表面的な褒め言葉や自分に従うと言った信じられもしない態度や言葉ばかりで、気持ちが悪い。
そんな中、兄上だけが僕に触れ、まっすぐに褒めてくれる。周りと同じ言葉でも、兄上の言葉だけが僕に幸福な感情を与えてくれる。
兄上に甘える時だけは恥ずかしいけどとても安心するし、兄上が褒めてくれるならなんでも頑張れる。
でも気になるのは時々寂しそうな表情をする兄上。あの日のお茶会で僕が兄上を嫌うことが決まっているような言い方が気になった。僕が兄上を嫌いになるはずがないのに。
あれから毎日兄上が好きだと、愛してるのだと伝えた。兄上は恥ずかしそうにしながらも嬉しそうだから毎日伝える。兄上が照れながら俺もと言う言葉に胸がどきどきするし、崩れる笑みを直せそうにもない。
そんな兄上の誕生日が近く、何をプレゼントしようかと誕生日目前にして悩んでいれば、兄上から一人の令嬢が紹介された。
「クレット殿下、お初お目にかかります。私、アイリス・リトレーンと申します。昨日より、リーアベル・クレット様の婚約者となりました。」
頭が真っ白になった。兄上の婚約者。まるで唯一の宝物をとられたような感覚。僕は真っ白な頭でなんとか返事を返し、名乗りもあげたようだ。兄上が婚約者に笑いかけないのだけがまだ救い。
「あにうえ、きゅうにこんやくしゃなんてなんで………」
落ち着かなくて疑問を口にしながら、兄上の手を握ろうとしてさっと避けられた。兄上に避けられたことなんて初めてでショックだ。人前で手を握ろうなんて不躾に感じられたのだろうか。兄上を怒らせてしまったのだろうか、たくさんの不安が渦巻いて、恐る恐る兄上を見れば、ひそかに笑みを浮かべる兄上にほっとした。
「父上がお決めになさった。これからはあまり構ってやれない。すまないが、父上に呼ばれているんだ。アイリス嬢と待っていてくれ」
兄上との時間が減ると言う宣告にさらにショックを受けた。つまりは婚約者との時間をとると言うことだ。普段厳しいだけの父親にこんなにも恨みたい気持ちを持ったことが果たしてあっただろうか。どれだけ、一体どれだけ兄上との時間がとれなくなる?
「クレット殿下………随分ひどい兄をお持ちなのですね」
「は?」
不安が怒りに変わったように思えた。兄上の婚約者からありえない言葉が聞こえたのだから。
「リーアベル様はいくら愛がないとはいえ、婚約者の私に愛想笑いもなく、戸惑う殿下が手を握ろうとしたのを避けるなんて………最近は聞かないけど、できそこないの割に我が儘ばかりだとか。殿下が王位継承をもつ髪、瞳がなくても、リーアベル様では王には難しいですわね」
「言葉が過ぎます。リトレーン嬢」
「あら?舌足らずなしゃべり方じゃないですのね。さすがは、殿下!リーアベル様じゃあの舌足らずな言葉で十分ですものね。」
兄上を悪く、僕を褒める気持ち悪い言葉。僕に興味を持ってもらおうとする心が見え透いている。舌足らずにしているのは兄上に甘えやすいからだ。決して兄上をバカにしているわけではない。
こんな女に兄上をとられるのか。王になれば兄上の婚約者と言えども、婚約破棄できるのだろうか。兄上を独り占めできるのだろうか。
優しい兄上にこの女は相応しくない。
「アイリス嬢、トア!」
「リーアベル様」
「あにうえ………」
自分よりも先にこの女が呼ばれた。それだけで腸が煮えたぐりそうだ。兄上、その女ばかり見ないで。僕を見て。
「仲良くできたか?」
「ええ、そうだわ!殿下、私にもトア様と呼ばさせていただいてよろしいかしら?」
仲良く?そんなわけない。仲良くする気なんてない。しかもトアと呼んでいいのは兄上だけだ!
「あにうえいがいによばれたくありません」
「そう、残念ですわ………」
あなたには特に。
「………トア?」
「? あにうえ、どうかしましたか」
ついリトレーン嬢を睨んでしまったのを見られたのだろうか。兄上は困惑したような表情だったがすぐ首を横に振った。
「いや、なんでもない。………アイリス嬢、残り少ない時間ですが、城の中を案内しましょう」
「ええ」
「トア、休憩時間にすまなかった」
「いえ、あにうえにあえるのはうれしいです」
「また来る」
「はい!」
しかし、その日以来、婚約者の姿なしに兄上と二人の時間を過ごせることはなく、それすら中々会えず勉強や稽古ばかりの日々になるとは思いもしなかった。
そんな中、兄上だけが僕に触れ、まっすぐに褒めてくれる。周りと同じ言葉でも、兄上の言葉だけが僕に幸福な感情を与えてくれる。
兄上に甘える時だけは恥ずかしいけどとても安心するし、兄上が褒めてくれるならなんでも頑張れる。
でも気になるのは時々寂しそうな表情をする兄上。あの日のお茶会で僕が兄上を嫌うことが決まっているような言い方が気になった。僕が兄上を嫌いになるはずがないのに。
あれから毎日兄上が好きだと、愛してるのだと伝えた。兄上は恥ずかしそうにしながらも嬉しそうだから毎日伝える。兄上が照れながら俺もと言う言葉に胸がどきどきするし、崩れる笑みを直せそうにもない。
そんな兄上の誕生日が近く、何をプレゼントしようかと誕生日目前にして悩んでいれば、兄上から一人の令嬢が紹介された。
「クレット殿下、お初お目にかかります。私、アイリス・リトレーンと申します。昨日より、リーアベル・クレット様の婚約者となりました。」
頭が真っ白になった。兄上の婚約者。まるで唯一の宝物をとられたような感覚。僕は真っ白な頭でなんとか返事を返し、名乗りもあげたようだ。兄上が婚約者に笑いかけないのだけがまだ救い。
「あにうえ、きゅうにこんやくしゃなんてなんで………」
落ち着かなくて疑問を口にしながら、兄上の手を握ろうとしてさっと避けられた。兄上に避けられたことなんて初めてでショックだ。人前で手を握ろうなんて不躾に感じられたのだろうか。兄上を怒らせてしまったのだろうか、たくさんの不安が渦巻いて、恐る恐る兄上を見れば、ひそかに笑みを浮かべる兄上にほっとした。
「父上がお決めになさった。これからはあまり構ってやれない。すまないが、父上に呼ばれているんだ。アイリス嬢と待っていてくれ」
兄上との時間が減ると言う宣告にさらにショックを受けた。つまりは婚約者との時間をとると言うことだ。普段厳しいだけの父親にこんなにも恨みたい気持ちを持ったことが果たしてあっただろうか。どれだけ、一体どれだけ兄上との時間がとれなくなる?
「クレット殿下………随分ひどい兄をお持ちなのですね」
「は?」
不安が怒りに変わったように思えた。兄上の婚約者からありえない言葉が聞こえたのだから。
「リーアベル様はいくら愛がないとはいえ、婚約者の私に愛想笑いもなく、戸惑う殿下が手を握ろうとしたのを避けるなんて………最近は聞かないけど、できそこないの割に我が儘ばかりだとか。殿下が王位継承をもつ髪、瞳がなくても、リーアベル様では王には難しいですわね」
「言葉が過ぎます。リトレーン嬢」
「あら?舌足らずなしゃべり方じゃないですのね。さすがは、殿下!リーアベル様じゃあの舌足らずな言葉で十分ですものね。」
兄上を悪く、僕を褒める気持ち悪い言葉。僕に興味を持ってもらおうとする心が見え透いている。舌足らずにしているのは兄上に甘えやすいからだ。決して兄上をバカにしているわけではない。
こんな女に兄上をとられるのか。王になれば兄上の婚約者と言えども、婚約破棄できるのだろうか。兄上を独り占めできるのだろうか。
優しい兄上にこの女は相応しくない。
「アイリス嬢、トア!」
「リーアベル様」
「あにうえ………」
自分よりも先にこの女が呼ばれた。それだけで腸が煮えたぐりそうだ。兄上、その女ばかり見ないで。僕を見て。
「仲良くできたか?」
「ええ、そうだわ!殿下、私にもトア様と呼ばさせていただいてよろしいかしら?」
仲良く?そんなわけない。仲良くする気なんてない。しかもトアと呼んでいいのは兄上だけだ!
「あにうえいがいによばれたくありません」
「そう、残念ですわ………」
あなたには特に。
「………トア?」
「? あにうえ、どうかしましたか」
ついリトレーン嬢を睨んでしまったのを見られたのだろうか。兄上は困惑したような表情だったがすぐ首を横に振った。
「いや、なんでもない。………アイリス嬢、残り少ない時間ですが、城の中を案内しましょう」
「ええ」
「トア、休憩時間にすまなかった」
「いえ、あにうえにあえるのはうれしいです」
「また来る」
「はい!」
しかし、その日以来、婚約者の姿なしに兄上と二人の時間を過ごせることはなく、それすら中々会えず勉強や稽古ばかりの日々になるとは思いもしなかった。
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