上 下
5 / 55
本編完結(年齢制限無し)

兄上(セトア視点)

しおりを挟む
誰もが僕を次期王としてしか見ず、表面的な褒め言葉や自分に従うと言った信じられもしない態度や言葉ばかりで、気持ちが悪い。

そんな中、兄上だけが僕に触れ、まっすぐに褒めてくれる。周りと同じ言葉でも、兄上の言葉だけが僕に幸福な感情を与えてくれる。

兄上に甘える時だけは恥ずかしいけどとても安心するし、兄上が褒めてくれるならなんでも頑張れる。

でも気になるのは時々寂しそうな表情をする兄上。あの日のお茶会で僕が兄上を嫌うことが決まっているような言い方が気になった。僕が兄上を嫌いになるはずがないのに。

あれから毎日兄上が好きだと、愛してるのだと伝えた。兄上は恥ずかしそうにしながらも嬉しそうだから毎日伝える。兄上が照れながら俺もと言う言葉に胸がどきどきするし、崩れる笑みを直せそうにもない。

そんな兄上の誕生日が近く、何をプレゼントしようかと誕生日目前にして悩んでいれば、兄上から一人の令嬢が紹介された。

「クレット殿下、お初お目にかかります。私、アイリス・リトレーンと申します。昨日より、リーアベル・クレット様の婚約者となりました。」

頭が真っ白になった。兄上の婚約者。まるで唯一の宝物をとられたような感覚。僕は真っ白な頭でなんとか返事を返し、名乗りもあげたようだ。兄上が婚約者に笑いかけないのだけがまだ救い。

「あにうえ、きゅうにこんやくしゃなんてなんで………」

落ち着かなくて疑問を口にしながら、兄上の手を握ろうとしてさっと避けられた。兄上に避けられたことなんて初めてでショックだ。人前で手を握ろうなんて不躾に感じられたのだろうか。兄上を怒らせてしまったのだろうか、たくさんの不安が渦巻いて、恐る恐る兄上を見れば、ひそかに笑みを浮かべる兄上にほっとした。

「父上がお決めになさった。これからはあまり構ってやれない。すまないが、父上に呼ばれているんだ。アイリス嬢と待っていてくれ」

兄上との時間が減ると言う宣告にさらにショックを受けた。つまりは婚約者との時間をとると言うことだ。普段厳しいだけの父親にこんなにも恨みたい気持ちを持ったことが果たしてあっただろうか。どれだけ、一体どれだけ兄上との時間がとれなくなる?

「クレット殿下………随分ひどい兄をお持ちなのですね」

「は?」

不安が怒りに変わったように思えた。兄上の婚約者からありえない言葉が聞こえたのだから。

「リーアベル様はいくら愛がないとはいえ、婚約者の私に愛想笑いもなく、戸惑う殿下が手を握ろうとしたのを避けるなんて………最近は聞かないけど、できそこないの割に我が儘ばかりだとか。殿下が王位継承をもつ髪、瞳がなくても、リーアベル様では王には難しいですわね」

「言葉が過ぎます。リトレーン嬢」

「あら?舌足らずなしゃべり方じゃないですのね。さすがは、殿下!リーアベル様じゃあの舌足らずな言葉で十分ですものね。」

兄上を悪く、僕を褒める気持ち悪い言葉。僕に興味を持ってもらおうとする心が見え透いている。舌足らずにしているのは兄上に甘えやすいからだ。決して兄上をバカにしているわけではない。

こんな女に兄上をとられるのか。王になれば兄上の婚約者と言えども、婚約破棄できるのだろうか。兄上を独り占めできるのだろうか。

優しい兄上にこの女は相応しくない。

「アイリス嬢、トア!」

「リーアベル様」

「あにうえ………」

自分よりも先にこの女が呼ばれた。それだけで腸が煮えたぐりそうだ。兄上、その女ばかり見ないで。僕を見て。

「仲良くできたか?」

「ええ、そうだわ!殿下、私にもトア様と呼ばさせていただいてよろしいかしら?」

仲良く?そんなわけない。仲良くする気なんてない。しかもトアと呼んでいいのは兄上だけだ!

「あにうえいがいによばれたくありません」

「そう、残念ですわ………」

あなたには特に。

「………トア?」

「? あにうえ、どうかしましたか」

ついリトレーン嬢を睨んでしまったのを見られたのだろうか。兄上は困惑したような表情だったがすぐ首を横に振った。

「いや、なんでもない。………アイリス嬢、残り少ない時間ですが、城の中を案内しましょう」

「ええ」

「トア、休憩時間にすまなかった」

「いえ、あにうえにあえるのはうれしいです」

「また来る」

「はい!」

しかし、その日以来、婚約者の姿なしに兄上と二人の時間を過ごせることはなく、それすら中々会えず勉強や稽古ばかりの日々になるとは思いもしなかった。
しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

弟が兄離れしようとしないのですがどうすればいいですか?~本編~

荷居人(にいと)
BL
俺の家族は至って普通だと思う。ただ普通じゃないのは弟というべきか。正しくは普通じゃなくなっていったというべきか。小さい頃はそれはそれは可愛くて俺も可愛がった。実際俺は自覚あるブラコンなわけだが、それがいけなかったのだろう。弟までブラコンになってしまった。 これでは弟の将来が暗く閉ざされてしまう!と危機を感じた俺は覚悟を持って…… 「龍、そろそろ兄離れの時だ」 「………は?」 その日初めて弟が怖いと思いました。

弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。

あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。 だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。 よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。 弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。 そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。 どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。 俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。 そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。 ◎1話完結型になります

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

ある日、人気俳優の弟になりました。

ユヅノキ ユキ
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

ある日、人気俳優の弟になりました。2

ユヅノキ ユキ
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。 平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

処理中です...