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本編完結(年齢制限無し)

今と将来

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前世の記憶を取り戻してから、俺は行動を開始した。生まれたばかりの弟セトア・クレットをそれはそれは可愛がった。親である二人は普段の俺が何か弟にやらかすのではと心配に見ていたが普通に可愛がるだけなので安堵した様子だ。

この時の俺5歳である。この年から我が儘放題で親に見放されるのだからろくでもない子供だ。

悪役はヒロインが現れてからと決意した俺は、話せるまで乳母に世話を任せる親と違い、時間さえあれば積極的にセトアに会いに行き、待女にセトア用のおもちゃを用意させ、遊ぶようになった。王族なので既に勉強を始めているので、その休憩時間くらいしかなかったが。

全くとは言わないが、セトアのための我が儘(お願い)しかを言わなくなったため、周囲の混乱もありつつ早3年。ゲーム通り世話すらしなかった親は既に弟に期待しているようで俺の時よりも厳しく、周囲も弟に媚びへつらい、世話をしていた乳母は媚びないものの一歩引いた距離で、弟は随分冷めた性格になった。俺以外の前では。

「あにうえ!」

「トア、聞いたぞ!もう文字を読むのも書くのもできるなんてすごいな!」

「ふふ………すごい?」

「うん、すごい!」

弟が言葉を覚えてから俺はセトアをトアと愛称で呼ぶ。現在、唯一トアに愛情を注いでいるだろう俺に会えば、トアの冷めた表情もぱぁっと明るくなり、抱きついてくる。最近のトアの勉強状況を聞いた俺が褒めれば笑みを浮かべながらのどや顔。俺の弟が可愛すぎて辛い。

「あにうえ、その、きょうはよていよりべんきょうがすすんだので、きゅうけいがながいんです。だから………その………」

「なら、一緒にお茶にしようか」

「は、はい!」

輝かんばかりの笑顔に釣られて笑ってしまう。弟が話せるようになってから、俺を後回しに弟に多くの家庭教師がついた。親に既に見捨てられているのもあって俺は最低限の教育のため、弟以上に自由時間がある。つまり暇なわけだ。だからこそ弟が俺との時間を使いたいと言うなら喜んで使われよう。

逆に弟は休憩として時間を作ることはできても、俺とお茶をする時間を作るには、予定されている勉強を時間内に終わらせて余った時間も含めなければ長い休憩時間は得られない。

だと言うのに、毎日お茶の時間を作れるトアはやはり天才で、媚びへつらうような者たちもこぞってトアがいればこの時代も安泰だと言っている。

傍にいた待女たちに、お茶の準備をさせ席に着けば、そわそわと落ち着かない様子のトアが席にも着かず、俺を見る。この仕草は俺に甘えたい時の仕草。可愛いなぁと思いながら手招きすれば嬉しそうに近寄って来たので、抱き上げて膝の上に乗せてやれば、照れたように耳を赤くさせながらも喜んでいるのが丸わかりだ。

お茶する度にしてやると言うのに今だ照れた様子のトアはやはり可愛い。俺リーアベルも、親やトアみたいに美形ならこれは絵になっただろうが、残念ながら平凡顔。とはいえ、前世の俺よりは美形なんだけど、この世界じゃ待女や執事すら顔が整っているので、親やトア並みじゃなければ美形とはならない。リーアベル本当は王族じゃないんじゃないかとすら思っているが、本当にそうならこの可愛い弟と離ればなれなので下手に言わない。

俺がいなければヒロインが現れるまでトアに愛情を与えられる人がいなくなる。それはだめだ。トアには将来だけでなく、今も幸せを感じてほしいと思うから。

「あにうえ、ぼくも、あにうえみたいなかみやめがいい」

「うーん、トアの髪や瞳はトアだけにしかない色だからすごくかっこいいんだぞ?」

「かっこいい………ぼく、かっこいい?」

「うん、トア以上にかっこいい人いないんじゃないかな?」

ちなみに俺は金髪で蒼の瞳。黒髪なら前世の世界じゃありふれていたけど、それでもトアの黒髪は綺麗で今でこそ幼く可愛いが、将来誰よりもかっこよくなることを俺は知っている。

「そっか、かっこいい………そっかぁ………ふふふっ」

ああ、嬉しそうにするトアの可愛いこと。悪役になってもトアだけは嫌がらせなんてできそうにない。前世でも弟をこんな風に可愛がってやれば弟の将来を奪うことはなかったんだろう。リーアベルも、処刑のとき後悔したりしたんだろうか?

「トアなら立派な王になれるね。かっこよくて、勉強もできて、まだ筋力作りでもそのうち習う剣も、魔法も、トアなら俺と違って完璧に使いこなすだろう。」

「あにうえ………?」

ああ、俺と比べるのも烏滸がましい。俺は将来トアに処刑される。今はトアと仲良くできていても、そのうち大したこともできない俺に愛想を尽かすだろう。ヒロインと会えばヒロインに目が行き、俺なんてただの邪魔な男になるに違いない。

「こんな兄でごめんな。」

「なんで、あやまるんですか?ぼくはあにうえがあにうえでよかったですよ」

「ありがとう、トア。お前に嫌われても俺はトアを愛しているよ」

「あにうえをきらいになんてなりません!ぼくだってあにうえをあいしてます!」

「そっか」

「ほんとうですよ!」

なんて恥ずかしい会話だろう。必死なトアが可愛くて笑みを隠せない。きっと嫌われてもこの思い出だけで悪役も頑張れそうだ。

トアにはヒロインと仲良く幸せに暮らしてほしいから。トアの幸せに俺はいらない。
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