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1章 覚悟のとき
33話 諦め
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あれから、少し経った。毎日朝、聖也くんがゲーム画面へ向かう時間。僕は料理を終えてから、教科書を開くようになった。
今日も料理を終え、お皿へ盛り付け終えてからリビングへ向かう。しかし。聖也くんは珍しくパソコンの前を離れ、ゴロンと床へ横になって丸まっていた。
最近はずっと早起きして夜更かししての繰り返しだったから、きっと疲れたのだろう。そう思い、彼に布団をかけるべくそばへ寄る。
彼の背後から近づき隣へしゃがみこんだ時、彼はゴロンと転がり僕を見上げた。
起きてたんですね、とは言えなかった。
だって、彼の瞳からは今にも涙が溢れだしそうで。見るに堪えなかった。
これまで、聖也くんは滅多なことでは泣かなかったはずだった。なのに、と思うとなにか深刻なことが起きている気がして、そっと彼の頭へ手を置く。でも。言葉は出なかった。
聖也くんはそんな僕の手に擦り寄って、はあと大きく息をついた。
「大したことじゃないよ。気にしないで」
そういう割に、やっぱり声は震えていた。
また、僕がなにかしてしまったのだろうか。
とにかく、彼の気持ちを落ち着けて上げたくて聖也くんの体をそっと抱き寄せる。その体はやっぱりどこもかしこも薄くって。力を入れたら壊れてしまいそうだと、そう思った。
本当は、僕の体なんかよりもずっと力はあるのに。
「聖也くん、何があったんですか」
部屋に響く、僕の声も震えていた。
「んー……」
彼は、そう唸って言うべきか沈黙を貫くべきかと悩むように押し黙った後に。すっと、息を吸った。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「多分、間に合わないんだよね」
なんの事か、分からなかった。
僕は彼の言葉を復唱して、彼の体を抱いたままに小首を傾げてみせる。
聖也くんはぐでんと力を抜いて僕の肩へ顎を置いて、口を尖らせた。
「ゲーム。完成させて公開するところまでいきたかったのに、全然進まない。橙花なら、俺より早く作り上げられる?」
その声は僕に頼ってくれているというより、拗ねているように感じた。
確かに、これだけ毎日ゲームだの音楽だのと全力で取り組んでいれば、疲れもするだろう。だから。僕は彼の言葉を、ただの一過性のものに過ぎないと決めつけて、ふうと安堵の息を吐いた。
「作れるわけないじゃないですか。僕はゲームなんてやったこないです」
「でも、そう言って音楽は出来るようになったじゃん」
「なってないです。最近だって、教科書みてても全然分からないんですから」
僕がふっと笑って見せると、彼は相変わらずムッと眉をひそめて呟いた。
「俺より頭いいくせに」
そう言う彼は、本当にただ拗ねたような顔で、しかし同時に本当に泣きそうになっていた。
わけが、分からなかった。でも。彼の思考が読めないのはもともとだ。だから、僕はそっと彼の背中を摩ってやった。
「大丈夫ですよ。聖也くんなら出来る」
聖也くんの返事はない。でも。きっと、彼はこういうのを欲していたんだと思う。
そう思うと、彼がまともに頼ってくれたという経験が嬉しくて。僕は彼のその暖かい背を擦りながら微笑みかけた。
「ねえ、夜景見に行くの、今日にしませんか?」
それは、彼がやりたい事として挙げていたものだった。
家でいつものように曲なんかを作っているより、いくらか気も紛れるだろう、と思って。
聖也くんはしばらく黙り込んだ後、僕の肩へ顔を埋めてから小さくコクンと、頷いて返すのだった。
今日も料理を終え、お皿へ盛り付け終えてからリビングへ向かう。しかし。聖也くんは珍しくパソコンの前を離れ、ゴロンと床へ横になって丸まっていた。
最近はずっと早起きして夜更かししての繰り返しだったから、きっと疲れたのだろう。そう思い、彼に布団をかけるべくそばへ寄る。
彼の背後から近づき隣へしゃがみこんだ時、彼はゴロンと転がり僕を見上げた。
起きてたんですね、とは言えなかった。
だって、彼の瞳からは今にも涙が溢れだしそうで。見るに堪えなかった。
これまで、聖也くんは滅多なことでは泣かなかったはずだった。なのに、と思うとなにか深刻なことが起きている気がして、そっと彼の頭へ手を置く。でも。言葉は出なかった。
聖也くんはそんな僕の手に擦り寄って、はあと大きく息をついた。
「大したことじゃないよ。気にしないで」
そういう割に、やっぱり声は震えていた。
また、僕がなにかしてしまったのだろうか。
とにかく、彼の気持ちを落ち着けて上げたくて聖也くんの体をそっと抱き寄せる。その体はやっぱりどこもかしこも薄くって。力を入れたら壊れてしまいそうだと、そう思った。
本当は、僕の体なんかよりもずっと力はあるのに。
「聖也くん、何があったんですか」
部屋に響く、僕の声も震えていた。
「んー……」
彼は、そう唸って言うべきか沈黙を貫くべきかと悩むように押し黙った後に。すっと、息を吸った。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「多分、間に合わないんだよね」
なんの事か、分からなかった。
僕は彼の言葉を復唱して、彼の体を抱いたままに小首を傾げてみせる。
聖也くんはぐでんと力を抜いて僕の肩へ顎を置いて、口を尖らせた。
「ゲーム。完成させて公開するところまでいきたかったのに、全然進まない。橙花なら、俺より早く作り上げられる?」
その声は僕に頼ってくれているというより、拗ねているように感じた。
確かに、これだけ毎日ゲームだの音楽だのと全力で取り組んでいれば、疲れもするだろう。だから。僕は彼の言葉を、ただの一過性のものに過ぎないと決めつけて、ふうと安堵の息を吐いた。
「作れるわけないじゃないですか。僕はゲームなんてやったこないです」
「でも、そう言って音楽は出来るようになったじゃん」
「なってないです。最近だって、教科書みてても全然分からないんですから」
僕がふっと笑って見せると、彼は相変わらずムッと眉をひそめて呟いた。
「俺より頭いいくせに」
そう言う彼は、本当にただ拗ねたような顔で、しかし同時に本当に泣きそうになっていた。
わけが、分からなかった。でも。彼の思考が読めないのはもともとだ。だから、僕はそっと彼の背中を摩ってやった。
「大丈夫ですよ。聖也くんなら出来る」
聖也くんの返事はない。でも。きっと、彼はこういうのを欲していたんだと思う。
そう思うと、彼がまともに頼ってくれたという経験が嬉しくて。僕は彼のその暖かい背を擦りながら微笑みかけた。
「ねえ、夜景見に行くの、今日にしませんか?」
それは、彼がやりたい事として挙げていたものだった。
家でいつものように曲なんかを作っているより、いくらか気も紛れるだろう、と思って。
聖也くんはしばらく黙り込んだ後、僕の肩へ顔を埋めてから小さくコクンと、頷いて返すのだった。
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