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1章 覚悟のとき
21話 車窓の表情
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「聖也くん、どうでした!?」
診察室から出てきた聖也くんにを視界に捉えるや否や立ち上がり、彼に詰め寄って結果を尋ねる。彼はふっと笑い、首を横に振って僕の手を引いた。
人目なんてどうでもいい、今すぐに聞きたい、とはやる気持ちをグッと堪え、彼の後をつける。彼は受付前のソファへ腰を下ろして、僕の肩に寄りかかった。
「ただの風邪だって」
彼の言葉を聞き、ほっ、と肩の力が抜けた。もし、病気のせいだったら、あの場で手術を決めさせなかった自分を一生恨むところだった。しかし。
風邪だと分かってもその熱が籠って潤む彼の瞳がなんだか気がかりで、僕は彼の乾いた目尻へ触れた。
「大丈夫?」と、僕は問う。
「……大丈夫」
と、彼は消え入りそうな声で囁いた。
そんなに苦しいのか、と思う。それとも。何か他に、話したのだろうか。
でも、こんなにキツそうな聖也くんを見るとそんなことを聞く気にもなれなくて。僕はただ彼の背中をさすり続けることしか出来なかった。
そうしてお金の支払いを済ませるとともに処方箋を受け取って薬局へ寄って。薬を受け取るや否や聖也くんには解熱の薬を飲ませて帰路に着く。しかし。それを飲ませる時、僕には気がかりなことがあった。
帰りのタクシーに揺られる中、預かった薬の袋を見つめる。
飲ませる薬を探す際、僕はそれを見てしまっていた。
「聖也くん、この前言ってた薬、もらったんですか」
それは、彼の病気が発覚した時。手術の成功確率の上がる薬としてお医者さんが話していたものに違いなかった。しかし。それは、副作用がひどく、お勧めしないと言われていたものでもあった。
「……うん、一応ね」
聖也くんは顔を背け、車窓を見つめながら答えた。
と、なると。手術のことについても、なんとなく話してきたのだろうか、と思う。しかし。
その窓に反射した彼の表情があまりに無表情なものだから。それがいつものことだとはいえ、なんだか声をかけにくかった。
せめて、不安そうな顔をしてくれればいいのに。又は、手術の成功確率が上がるのだから希望を見た顔でもいい。風邪で体調が悪いのだから、きつそうな顔でも構わない。なんでもいいから、彼の感情を知りたかった。
思わず不安な気持ちが抑えきれなくなり、彼の手を握る。聖也くんはすぐに振り向き柔く僕の手を握り返すと、ふっと柔らかく微笑みを浮かべるのだった。
僕は彼のことが、やっぱり何も分からなかった。
診察室から出てきた聖也くんにを視界に捉えるや否や立ち上がり、彼に詰め寄って結果を尋ねる。彼はふっと笑い、首を横に振って僕の手を引いた。
人目なんてどうでもいい、今すぐに聞きたい、とはやる気持ちをグッと堪え、彼の後をつける。彼は受付前のソファへ腰を下ろして、僕の肩に寄りかかった。
「ただの風邪だって」
彼の言葉を聞き、ほっ、と肩の力が抜けた。もし、病気のせいだったら、あの場で手術を決めさせなかった自分を一生恨むところだった。しかし。
風邪だと分かってもその熱が籠って潤む彼の瞳がなんだか気がかりで、僕は彼の乾いた目尻へ触れた。
「大丈夫?」と、僕は問う。
「……大丈夫」
と、彼は消え入りそうな声で囁いた。
そんなに苦しいのか、と思う。それとも。何か他に、話したのだろうか。
でも、こんなにキツそうな聖也くんを見るとそんなことを聞く気にもなれなくて。僕はただ彼の背中をさすり続けることしか出来なかった。
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飲ませる薬を探す際、僕はそれを見てしまっていた。
「聖也くん、この前言ってた薬、もらったんですか」
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「……うん、一応ね」
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と、なると。手術のことについても、なんとなく話してきたのだろうか、と思う。しかし。
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せめて、不安そうな顔をしてくれればいいのに。又は、手術の成功確率が上がるのだから希望を見た顔でもいい。風邪で体調が悪いのだから、きつそうな顔でも構わない。なんでもいいから、彼の感情を知りたかった。
思わず不安な気持ちが抑えきれなくなり、彼の手を握る。聖也くんはすぐに振り向き柔く僕の手を握り返すと、ふっと柔らかく微笑みを浮かべるのだった。
僕は彼のことが、やっぱり何も分からなかった。
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