12 / 39
1章 覚悟のとき
11話 プレゼント
しおりを挟む
「どー、楽しかった?」
園を出た帰り道、もうすっかり暗くなった空の下で、彼は僕を見ることなく真っ直ぐに歩きながら尋ねた。
「はい、とっても」
彼の背を見つめながら、噛み締めるように彼へ返す。やっぱり、今日のお出かけは僕を元気づけるためのものだったのだろう。支えると言った手前気を遣わせたのはなんだか申し訳ないけれど。でも。
今まで1度もそれらしいデートなんてしてなかったから、思い出として最高なものになったと思う。
「また、連れてきてね」
彼は相変わらず振り向くことも立ち止まることもなく、淡々と僕にそう強請った。それはまるで、本当に忘れないことを約束してくれているようで。
「もちろん」
僕はいつぶりかの満面の笑みを浮かべて大きく頷き、明るい声で返す。
なんとなくだけど。でも、きっと大丈夫な気がする。きっと、叶えられる。と、そう思った。
ふと、彼が立ち止まる。不思議な彼の行動にも慣れた僕は、少し遅れて彼の隣に立ち止まり、彼の視線を追う。
そこには大手メーカーの看板を掲げてる割にこじんまりとした楽器屋さんがあった。
なるほど。どうやら楽器が気になるらしい。
「入ってみますか?」
と彼へ声をかける。
彼は口角こそ上げなかったが、馬を目の前にした時のように目を輝かせてこくんと大きく首を縦に振り、僕の方も見ずに早速扉の取ってへ手をかけた。
店内は見た目に反して小奇麗で、やっぱり大手であることを思わせる。入ってすぐにはカラフルなキーボードやギター。そして、申し訳程度のCDが並んでいた。
その中でも彼の目を引いたのは目の前にあった真っ黒なギター。細部には金色がちりばめられていて、高級感がある。彼は珍しく小走りになって向かうとしゃがみこみ、覗き込むようにして興味津々にそれをじっと見つめた。
「かっこいい」
と、彼は言った。
確かに、彼の今持っている赤色のものとは違い落ち着いた色合いで、大人っぽい気がする。しかし。彼の持っているものと比べるとこのお値段は、寧ろ安価に思えた。
「聖也くんの持ってるやつの方が、いい物じゃないですか?」
と、僕は言う。
「そうなんだよね」
彼はそう言ってよいしょとその場を立ち上がった。
そうして楽譜やらピックやら、色々興味深そうに眺める聖也くんの後をつける。少し前までは僕には縁もゆかりも無いものだったけれど、気がつくと興味を持って手に取る僕がいた。
「買ってやるよ」と彼が言う。
「いいですいいです。まだろくにギターも弾けないんで」と僕は首を振った。
でも。あわよくばいつか弾けるようになって、聖也くんと並んで一緒に作ったあの曲を弾いてみたいとか、そんなことを考えた。
そうして色々なものを見て回って。しばらくして満足してお店を後にする時。聖也くんは名残惜しそうにちらと振り向いて呟いた。
「やっぱりカッコイイ。俺、黒好き」
こっそり買ってプレゼントしたら喜んでくれるだろうかとか、そう考えて1人ふふとほくそ笑むのだった。
園を出た帰り道、もうすっかり暗くなった空の下で、彼は僕を見ることなく真っ直ぐに歩きながら尋ねた。
「はい、とっても」
彼の背を見つめながら、噛み締めるように彼へ返す。やっぱり、今日のお出かけは僕を元気づけるためのものだったのだろう。支えると言った手前気を遣わせたのはなんだか申し訳ないけれど。でも。
今まで1度もそれらしいデートなんてしてなかったから、思い出として最高なものになったと思う。
「また、連れてきてね」
彼は相変わらず振り向くことも立ち止まることもなく、淡々と僕にそう強請った。それはまるで、本当に忘れないことを約束してくれているようで。
「もちろん」
僕はいつぶりかの満面の笑みを浮かべて大きく頷き、明るい声で返す。
なんとなくだけど。でも、きっと大丈夫な気がする。きっと、叶えられる。と、そう思った。
ふと、彼が立ち止まる。不思議な彼の行動にも慣れた僕は、少し遅れて彼の隣に立ち止まり、彼の視線を追う。
そこには大手メーカーの看板を掲げてる割にこじんまりとした楽器屋さんがあった。
なるほど。どうやら楽器が気になるらしい。
「入ってみますか?」
と彼へ声をかける。
彼は口角こそ上げなかったが、馬を目の前にした時のように目を輝かせてこくんと大きく首を縦に振り、僕の方も見ずに早速扉の取ってへ手をかけた。
店内は見た目に反して小奇麗で、やっぱり大手であることを思わせる。入ってすぐにはカラフルなキーボードやギター。そして、申し訳程度のCDが並んでいた。
その中でも彼の目を引いたのは目の前にあった真っ黒なギター。細部には金色がちりばめられていて、高級感がある。彼は珍しく小走りになって向かうとしゃがみこみ、覗き込むようにして興味津々にそれをじっと見つめた。
「かっこいい」
と、彼は言った。
確かに、彼の今持っている赤色のものとは違い落ち着いた色合いで、大人っぽい気がする。しかし。彼の持っているものと比べるとこのお値段は、寧ろ安価に思えた。
「聖也くんの持ってるやつの方が、いい物じゃないですか?」
と、僕は言う。
「そうなんだよね」
彼はそう言ってよいしょとその場を立ち上がった。
そうして楽譜やらピックやら、色々興味深そうに眺める聖也くんの後をつける。少し前までは僕には縁もゆかりも無いものだったけれど、気がつくと興味を持って手に取る僕がいた。
「買ってやるよ」と彼が言う。
「いいですいいです。まだろくにギターも弾けないんで」と僕は首を振った。
でも。あわよくばいつか弾けるようになって、聖也くんと並んで一緒に作ったあの曲を弾いてみたいとか、そんなことを考えた。
そうして色々なものを見て回って。しばらくして満足してお店を後にする時。聖也くんは名残惜しそうにちらと振り向いて呟いた。
「やっぱりカッコイイ。俺、黒好き」
こっそり買ってプレゼントしたら喜んでくれるだろうかとか、そう考えて1人ふふとほくそ笑むのだった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている
堀 和三盆
恋愛
ソレを手に入れたのは偶然だった。バイト帰り、立ち寄ったフリーマーケットで手に入れた魔法陣模様のラグ。この上でゲームをやったら気分が最高に盛り上がるに違いない。そう思った私は曰く付きの商品だと聞いていたのにもかかわらず購入した。
なんでもおやつを供えると、悪魔的な何かが召喚されてくるらしい。もちろん信じてなどいなかった。
実際に『ソレ』が召喚されてくるまでは。
召喚されてきたのは魅了堕ちして幽閉された王子様。
彼は言う。
魅了堕ちしたのは真面目過ぎたからだと。
だから二度と魅了に惑わされることのないように娯楽を極めようとしたのだと。
そのためにこの魔法陣を開発して、幽閉中でも遊べるように娯楽の多いこの世界へ召喚してもらえるようにした――と。
私は思った。彼は努力の方向を間違えている。
※不定期投稿です。
同僚の裏の顔
みつきみつか
BL
【R18】探偵事務所で働く二十五歳サラリーマン調査員のフジは、後輩シマと二人きりになるのを避けていた。尾行調査の待機時間に、暇つぶしと称してシマとしごき合うようになり、最近、行為がエスカレートしつつあったからだ。
ある夜、一週間の張りつき仕事に疲れて車で寝ていたフジのもとに、呼んでいないシマがやってくる。そしてモブ男女の野外セックス現場に出くわして覗き見をするうちに、シマが興奮してきて――。
◆要素◆
イケメン後輩執着S攻×ノンケ先輩流され受。
同じ職場。入社時期が違う同い年。
やや無理矢理です。
性描写等は※をつけます。全体的にR18。
現代BL / 執着攻 / イケメン攻 / 同い年 / 平凡受 / ノンケ受 / 無理矢理 / 言葉責め / 淫語 / フェラ(攻→受、受→攻)/ 快楽堕ち / カーセックス / 一人称 / etc
◆注意事項◆
J庭で頒布予定の同人誌用に書く予定の短編の試し読み版です。
モブ男女の絡みあり(主人公たちには絡みません)
受は童貞ですが攻は経験ありです
◆登場人物◆
フジ(藤) …受、25歳、160cm、平凡
シマ(水嶋) …攻、25歳、180cm、イケメン
今夜、恋人の命令で変態に抱かれる
みつきみつか
BL
【R18】恋人の命令で、年上の既婚者おじさん(自称:明るくて優しい変態)に抱かれることとなった主人公(受)のAくん。待ち合わせ場所に現れた美形Bさんについていき、命令どおり抱かれようとするものの――。
四十代会社経営者美形×大学生無自覚美人受
本番なし(途中まで)
少し流血表現あり
変態プレイはありません
シリアス気味
二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです
矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。
それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。
本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。
しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。
『シャロンと申します、お姉様』
彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。
家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。
自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。
『……今更見つかるなんて……』
ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。
これ以上、傷つくのは嫌だから……。
けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。
――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。
◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです。
※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっております。……本当に申し訳ございませんm(_ _;)m
最愛の人に好かれ続けたい俺の生き様
鳴海
BL
母親の異父弟に幼い頃から想いをよせる雅已。
好きで好きで大好きで、何度も告白するけれども本気にしてもらえない。
高校生になったのを機に本気の告白をしてみた。
そしたら思いきりフラれた。
それまで真面目に生きてきた雅已は、それ以降、人が変わったように非行に走ることになる。
※地雷多(お読みになる場合は自己責任でお願いします)
浮気ではありませんが受けが攻め以外と関係する表現があります。
死ネタがあるので切なさ成分も含みます。
全6話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる