上 下
59 / 71
第二部 砂漠の国と星の魔神偏 第一章:ガラム帝国探訪編

第五十九話:思惑の交錯

しおりを挟む
 辛くも一回戦を勝った俺。

 「うっ! 何だこの感じ?」

 突然吐き気に襲われたので呼気を整える。

 モニター越しに倒した相手の機体から、何か黒いエネルギーが煙のように抜けて行ったのが見えた。

 気になる事は多いが、参加者は悪人ではない者もいるのが辛い。

 前世でも経験したが、ヒーローはヒーローと戦うもんじゃないんよやっぱり。

 運営の悪意を感じるぜ。

 勝ったからには、彼らの大切な人達も助けねば。

 ヒーローも勇者も任侠だ。

 弱きを助け強きを挫く。

 強き力で悪を為さんとする輩は許せない。

 試合が終われば、勝ったこっちは自力で格納庫まで移動。

 負けた相手はスタッフが小型のロボット数台で搬送して行く。

 街の見た目が古代インドっぽい国だけど、ロボ技術がアイゼン帝国よりも進んでいるように見えたのが驚きだった。

 魔王軍との戦いでガラム帝国の加勢が得られていたら、また違った戦いになったのかもしれない。

 その時は俺達は、今ほどパワーアップしてなかったかもしれないな。

 歴史のもしもは、考えるのは止めよう。

 下手に確かめようとすると時空警察軍に怒られる。

 格納庫から降りて控室に戻ると、仲間達に守られたパティ姫が落ち込んでいた。

 「もしかして、対戦相手と面識が?」
 「はい、猿の皇妃様の弟君で義理のおじにあたるヌマン様です」
 「……すまない、辛い思いをさせる事になる」
 「いえ、仕方のない事です! 悪いのは父上と狐の皇妃ですわ!」
 「勝ったら願いの一つは、捕らわれた皇妃全員の無事の開放と復権で良いかな?」
 「勿論です、マッカ様はお優しい人だったのですね♪」

 パティ姫が笑顔になる、クライアントにようやく好印象を持って貰えたよ。

 「ええ、彼は私達の強く優しい素敵な夫ですわ♪」
 「私達の心を掴んだお方でござる♪」
 「誰にでも優しいのが難点じゃ♪」
 「ええ、ホイホイ助けて女心を掴むのが困るのよ」
 「だからこそ他の女に取られないように団結しているのです」
 「いや、お前ら子供に変な事を吹き込むな!」

 嫁であり仲間である彼女達にツッコむ。

 「……うう、父上も昔はマッカ様のように強く優しいお方だったのに!」
 「ああ、姫の情緒を刺激するなよ!」

 再びパティ姫の笑顔が曇る、勘弁して欲しい。

 幼子の悲しむ顔を見るのは辛いぞ。

 しかしあの皇帝、何考えてるんだろう?

 操られている気配は見えない、皇妃達も殺していない。

 裏がありそうだが、俺は調べ物は向いていない。

 「マッカは試合に集中してね♪」

 レオンが俺の肩を叩いて微笑む。

 「きっと、皇帝陛下も何か事情がおありなのですわ」

 フローラがパティ姫をハグして宥める。

 「はい、父上を信じて見ますが優勝したら父上にもお仕置きをします!」

 うわ、何か姫の闘志が目覚めた?

 「そうだな、保護者には説教しないとな」

 俺も前世では子供の学校の先生からお小言を受けた。

 そんな身だからこそ言える。

 「何と言うか、あの皇帝殿は我らが夫と同じ匂いを感じるのう?」

 アデーレさん、勘弁して下さい。

 「はい、マッカ様は父上にそっくりですから心配です」
 「がふっ! 試合前に依頼人から心を抉られた!」

 幼子の無垢な言葉は、俺の心の防御力を無視してクリティカルヒットするから止めてくれ!

 「大丈夫ですよ、我が家は妻達が議会を結成して夫を管理してますから♪」
 「何ですのその制度、わが国にも採用すべきですわ♪」

 クラウ~! 子供に吹き込むな!

 パティ姫は目を輝かせないで!

 パティ姫は、俺達のぐだぐだな空気に染まらず清く可愛くいて欲しい。

 けど、ぐだぐだなやり取りが俺の心を癒してくれるのも事実なんだよな。

 「おや、そろそろ次の試合でござるよ♪」

 アオイが気楽に告げる。

 うん、ムードメーカー的な人材は大事だ。

 俺は試合の場に向かうと、相手は紫色の蛇人間の女性だった。

 パーマのかかった黒のカーリーヘアーで、茶色の革鎧を着て槍で武装してる。

 美人の類なんだろうが、海外の悪の怪人みたいで怖さしかない。

 「ヒャッハ~~♪ 我が名はガラジャ、テイル様こそ皇太后に相応し~♪」

 何か、目がグルグルしてるよあの蛇の人!

 あれは、洗脳とかされてるアカン奴だ!

 彼女の背後の下半身が蛇の紫色の女性型ロボも何かヤバい。

 色々気になるが、機体に乗り込み試合開始だ。

 双方、戦いの舞を奉げてから勝負。

 『リトラは辺境部族の機体、ガラジャは出世欲の強い狐の一派だ』
 「うわ、面倒な事情だな!」

 コーチであり相棒であるハッティから聞かされた話はうへえとなった。

 だが、こちらと似た立ち位置の善人を相手にするよりは気が楽になったよ。

 バックステップで相手の槍による突きを避けた時、空間が伸縮した気がした。

 今更気付いたが闘技場内は、俺達が動くと変形する仕組みのようだ。

 『客席は守られている、全力で戦え!』
 「了解、お返しだ!」

 ハッティヨーダ―の巨体にステップ踏ませつつ、間合いを詰めてジャブ。

 すると相手は上半身も蛇の如く捻り回避する。

 意外と伸縮性と柔軟性のあるタイプだった。

 双方、間合いを取っての飛び道具の打ち合いになる。

 相手は口からマスタード色の毒液弾の連射。

 こちらは象の鼻から火炎弾の連射で対抗。

 相殺されるも、飛び散った毒液がこちらの装甲に当たれば焦げ目を付ける。

 相手はこちらに語り掛けてくるタイプじゃないようで、攻めの手は緩まない。

 象牙っぽい刀の二刀流で、相手の槍や尻尾攻撃を耐え凌ぐ。

 「武器が刀とはありがてえ♪」
 『そなたが剣術が得意と知った、我が牙を存分に震え!』

 相手には悪いが、俺が刀を持てば鬼に金棒だ♪

 相手は、槍の穂先に毒液を吹き付けて燃やして振りかざして来る。

 「何の! 熱血二刀流、火炎竜巻っ!」

 こっちも刀に炎を灯して上段から振り下ろせば火災旋風が吹き荒れる!

 炎の竜巻は、相手の武器を腕ごと吹き飛ばした。

 「おっしゃ、これはヘビーウーンズに行ったか?」
 『まだだ、ガードしろ!』

 手ごたえは感じた俺、だがハッティは違うようだった。

 相手の傷口から、ナノマシンみたいに無数の蛇が出て来て腕を拾い繋げる。

 相手も再生持ちか、手間だな。

 すると今度は、人型から蛇型に変形して牙を剥き突撃してきた!

 俺は刀を十字に構えて振るい、相手の牙を斬り飛ばして噛みつきを無効化。

 そのまま機体をバク転させて、突っ込んで来た相手の勢いを受け流す。

 相手もまた人型と言うか蛇人間型に機体を戻して、仕切り直し。

 「こっちも変形して体当たりとかして見るか?」
 『出来なくはないが、微妙な戦術だ?』
 「了解、じゃあこのまま行くぜ♪」

 コックピット内でも象牙風の刀をそれぞれの手に握り構える。

 『我が牙も鼻も伸縮自在、思うように振るえ!』
 「わかった、試して見るぜ!」

 手に持った刀を繋げて、弓の様なツインブレード形態に変形させる。

 その上で八相に構えた所で、相手は攻め込む隙ができたと感じたのか再びの突進。

 「伸びろツインファングセイバー! 熱血一刀流、縦回転斬りだ!」

 俺が叫べば刀が伸びる!

 相手の機体がジャンプして、尻尾を槍の如く突き立て落ちて来る。

 こちらも跳躍、尻尾を切り下ろしてから刃を回して返す刀で逆袈裟に切り上げる!

 相手の機体が銅と下半身が斜めに物別れし所で着地し残心を決める。

 上空では、大爆発が起き破片が落下。

 なにやら巨大な球体が無傷で転がったが、コックピットだろう。

 『乗り手の安全は確保されておる、案ずるな』
 「良かった、うっかり相手のパイロットを殺してなくて」

 ほっと一息ついた所でまたうっと吐き気に襲われて、体から何かが抜けて行く。

 何かが出た後は、気分がすっきりするのはどういう理屈だ?

 ともかく、俺は二回戦もどうにか勝ち上がれたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

処理中です...