29 / 69
ロジータ、街を出る
<『黄金の獅子』>
しおりを挟む
シジャークダンジョンからアーカンスの街に向かう乗合馬車が、ガタガタと音をたてながら街道を走っていく。
その乗合馬車の中には、多くの冒険者たちと同様に、やけにボロボロな格好の『黄金の獅子』の面々が頭を項垂れて乗っていた。
「ったく、なんでチビのバッグくらい奪えなかったんだよ」
パーティリーダーの剣士が、隣に座っている斥候役の女性にボソリと呟く。
他にも乗客がいるせいもあって、声は抑えめだが、その声は酷く冷たい。
「ちゃんと手に入れたって、何度も言ったわよね」
「じゃあ、なんでないんだよ」
「わかんないわよ。いきなり消えたんだものっ。それも何度も言ってるじゃないっ」
「本当よ、本当なの、リーダー」
リーダーの向かいに座っていた、魔法使いの女がより声をひそめていう。斥候役の女と一緒にロジータを竪穴に突き落とした女だ。
「それなら、お前が盗んだってことだよな。これも何度も言ってるか」
「酷いっ」
シーフの男が忌々しそうに言うと、魔法使いの女が泣きそうな顔になる。
「煩いぞ」
「……」
同乗していた他の冒険者から注意されて、皆が口をつぐんだ。同時に、それぞれにダンジョンの中での出来事を思い返していた。
新人のロジータを連れてダンジョンに入り、とんとん拍子で階層を重ねていく。
それはいつもよりも早いペースで、たった3日で14階まで行くこと自体が奇跡に近かった(本来は1週間はかかる)。
そのことに調子づいて、アマンダからの裏の依頼である『マジックバックの奪取』も簡単に出来ると思っていたのだ。
しかし、実際には魔法使いと斥候役が失敗した。本人たちはちゃんと手に入れたというが、手ぶらで戻ってきたのだ。
それからは、最短の帰還の転移陣の間がある10階に戻るのにも一苦労で、なんとかダンジョンから戻れたのは新人ロジータを突き落としてから5日目の朝だった。
アーカンスの街に着くとすぐに、冒険者ギルドへと向かった『黄金の獅子』の面々。カウンターにはアマンダの姿はなく、シルビアの所以外の窓口では待っている者がいる。
早く宿をとって休みたい彼らだったので、シルビアの元へと向かう。
「『黄金の獅子』だ。アマンダは?」
「アマンダ? ああ、元ギルマスの愛人のアマンダのこと?」
「はっ!?」
パーティリーダーの剣士は、アマンダとギルマスの関係を知らなかったものだから、驚きの声をあげる。
「え、あ、愛人って、どういうことだよ」
「あら、知らなかったの? まさか……あなたもアマンダに騙されてたクチかしら」
わざとらしく言うシルビアに、呆然となるリーダー。
パーティメンバーたち、特に女たちは知っていたのか、苦い顔になる。
「ちょ、ちょっと、それよりも、元ギルマスってどういうことだよ」
シーフの男がシルビアに問いかける。
「ああ、一昨日、王都のギルド本部から査察官が来てね。元ギルマスとアマンダの不正が見つかって、二人とも捕まったのよ」
「えっ」
「そうそう……あなたたちにも、新人冒険者に対する規約違反と殺人容疑がかかってるのよ」
「なっ」
「どういうことっ」
彼らが慌てていると、奥から黒いスーツ姿の男たちがぞろぞろと出てきた。
「はいはいはい、大人しくしろよ~」
「まったく、真面目にやってれば、もっと上のランクに上がれただろうに」
『黄金の獅子』は、逃げる間もなく、あっけなく捕まってしまった。
「ほんと、馬鹿よねぇ」
シルビアは黒いスーツの男たちに連れていかれる『黄金の獅子』の背中を、冷ややかに見つめるのであった。
その乗合馬車の中には、多くの冒険者たちと同様に、やけにボロボロな格好の『黄金の獅子』の面々が頭を項垂れて乗っていた。
「ったく、なんでチビのバッグくらい奪えなかったんだよ」
パーティリーダーの剣士が、隣に座っている斥候役の女性にボソリと呟く。
他にも乗客がいるせいもあって、声は抑えめだが、その声は酷く冷たい。
「ちゃんと手に入れたって、何度も言ったわよね」
「じゃあ、なんでないんだよ」
「わかんないわよ。いきなり消えたんだものっ。それも何度も言ってるじゃないっ」
「本当よ、本当なの、リーダー」
リーダーの向かいに座っていた、魔法使いの女がより声をひそめていう。斥候役の女と一緒にロジータを竪穴に突き落とした女だ。
「それなら、お前が盗んだってことだよな。これも何度も言ってるか」
「酷いっ」
シーフの男が忌々しそうに言うと、魔法使いの女が泣きそうな顔になる。
「煩いぞ」
「……」
同乗していた他の冒険者から注意されて、皆が口をつぐんだ。同時に、それぞれにダンジョンの中での出来事を思い返していた。
新人のロジータを連れてダンジョンに入り、とんとん拍子で階層を重ねていく。
それはいつもよりも早いペースで、たった3日で14階まで行くこと自体が奇跡に近かった(本来は1週間はかかる)。
そのことに調子づいて、アマンダからの裏の依頼である『マジックバックの奪取』も簡単に出来ると思っていたのだ。
しかし、実際には魔法使いと斥候役が失敗した。本人たちはちゃんと手に入れたというが、手ぶらで戻ってきたのだ。
それからは、最短の帰還の転移陣の間がある10階に戻るのにも一苦労で、なんとかダンジョンから戻れたのは新人ロジータを突き落としてから5日目の朝だった。
アーカンスの街に着くとすぐに、冒険者ギルドへと向かった『黄金の獅子』の面々。カウンターにはアマンダの姿はなく、シルビアの所以外の窓口では待っている者がいる。
早く宿をとって休みたい彼らだったので、シルビアの元へと向かう。
「『黄金の獅子』だ。アマンダは?」
「アマンダ? ああ、元ギルマスの愛人のアマンダのこと?」
「はっ!?」
パーティリーダーの剣士は、アマンダとギルマスの関係を知らなかったものだから、驚きの声をあげる。
「え、あ、愛人って、どういうことだよ」
「あら、知らなかったの? まさか……あなたもアマンダに騙されてたクチかしら」
わざとらしく言うシルビアに、呆然となるリーダー。
パーティメンバーたち、特に女たちは知っていたのか、苦い顔になる。
「ちょ、ちょっと、それよりも、元ギルマスってどういうことだよ」
シーフの男がシルビアに問いかける。
「ああ、一昨日、王都のギルド本部から査察官が来てね。元ギルマスとアマンダの不正が見つかって、二人とも捕まったのよ」
「えっ」
「そうそう……あなたたちにも、新人冒険者に対する規約違反と殺人容疑がかかってるのよ」
「なっ」
「どういうことっ」
彼らが慌てていると、奥から黒いスーツ姿の男たちがぞろぞろと出てきた。
「はいはいはい、大人しくしろよ~」
「まったく、真面目にやってれば、もっと上のランクに上がれただろうに」
『黄金の獅子』は、逃げる間もなく、あっけなく捕まってしまった。
「ほんと、馬鹿よねぇ」
シルビアは黒いスーツの男たちに連れていかれる『黄金の獅子』の背中を、冷ややかに見つめるのであった。
4
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。
異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)
ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。
流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定!
剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。
せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!?
オマケに最後の最後にまたもや神様がミス!
世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に
なっちゃって!?
規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。
……路上生活、そろそろやめたいと思います。
異世界転生わくわくしてたけど
ちょっとだけ神様恨みそう。
脱路上生活!がしたかっただけなのに
なんで無双してるんだ私???
女神の代わりに異世界漫遊 ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~
大福にゃここ
ファンタジー
目の前に、女神を名乗る女性が立っていた。
麗しい彼女の願いは「自分の代わりに世界を見て欲しい」それだけ。
使命も何もなく、ただ、その世界で楽しく生きていくだけでいいらしい。
厳しい異世界で生き抜く為のスキルも色々と貰い、食いしん坊だけど優しくて可愛い従魔も一緒!
忙しくて自由のない女神の代わりに、異世界を楽しんでこよう♪
13話目くらいから話が動きますので、気長にお付き合いください!
最初はとっつきにくいかもしれませんが、どうか続きを読んでみてくださいね^^
※お気に入り登録や感想がとても励みになっています。 ありがとうございます!
(なかなかお返事書けなくてごめんなさい)
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる