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ロジータ、街に帰る
第13話 衛兵のホーマックさん
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翌朝、気分よく目覚めた私は、女将さんのスープとパンを食べて、まだ日が昇る前にさっさとアーカンスの街に向かうことにしました。
夜空の面影を残す青さから、朝日がゆっくり昇って空が赤く染まっていきます。
今日は一日、天気が良さそうです。
澄んだ朝の気配が消えた荒野を、しっかり『隠蔽』と『身体強化』で走り続けていると、途中、街道のほうを走る馬車や徒歩の旅人の姿がポツリポツリと見えてきました。
そんな彼らとすれ違い、しばらくすると、石壁で囲まれた街が見えてきました。
――アーカンスの街が見えてきた!
住んでいる時には気にしたこともありませんでしたが、けっこう大きな街のようです。
午前中のせいか、まだ街に入るための列はできあがっていないようです。
私は『隠蔽』と『身体強化』をやめると、街道に戻って、ゆっくりと大きな門の方へと向かいます。
「おや? ロジータじゃねぇか」
「おはようございますっ!」
私は運がいいようです。今日の門の衛兵は、顔見知りのホーマックさんでした。
以前、彼女の奥さんの妊婦時代に、街中でしゃがみこんで動けなくなっていた彼女をお世話したことがあって、その時から何かと気にかけてくれるおじさんです(おじさんと呼ぶと怒りますが)。
「どうした。お前さん一人かい?」
10歳の子供である私が、こんな時間に外から戻ってくるのですから、不審に思われても仕方がないかもしれません。
「はい、ダンジョンから戻ってきたところで……同行してたパーティから置いてけぼりくらっちゃって……」
「ダンジョン? そういやぁ、今度、冒険者ギルドに登録したんでポーターの初仕事があるって言ってたな。もしかして、それか」
私はコクリと頷きます。
「よく戻ってこれたな……だいたい、こんな小さい子を置いてけぼりにするなんて! そいつらは、なんていうパーティだ」
ホーマックさんの剣幕に、他の衛兵たちも集まってきました。
「えーと、パーティ名は……『黄金の……』なんとかっていう」
正直、覚えてません。どんだけ記憶力がなかったのでしょう。お恥ずかしい限りです。
ちょっとお馬鹿な私のことを知っているのでしょう。ホーマックさんは一緒に真剣に考えてくれます。すると、別の衛兵のお兄さん(たぶん、ホーマックさんよりも若いです)が、思いついたという顔をして教えてくれました。
「『黄金』といやぁ、ゲイリックのいる『黄金の獅子』じゃないかい?」
「えーと、今はDランクで、今度Cにあがるって言ってました」
「じゃあ、やっぱり、『黄金の獅子』だろ」
「あいつらかっ!」
おやおや、衛兵たちが渋い顔をしています。ギルドの中では有望株という話でしたが、衛兵たちから見ると、また違う一面があるのでしょうか。
「まったく、なんだってロジータがアイツらのポーターなんだ。ポーター初仕事だろ?」
「うーん、わかりません。ギルドから指名だって言われて」
「はぁ!?」
衛兵たちが一斉に凄い顔になります。
そうこうするうちに、街に入ろうとしている馬車がやってきたようで、対応しに何人かの衛兵が離れていきます。
「なぁ、誰かしばらく代わってくれないか」
ホーマックさんが怖い顔で、仲間の衛兵に声をかけます。
「いいっすよ、俺、代わります」
「すまねぇな。よし、ロジータ、俺が一緒にギルドまで行ってやる。その指名だって言った奴の顔は覚えてるか?」
「え、はい。あの、綺麗なお姉さんでした」
「綺麗かぁ、受付やってる子たちは、綺麗どころが多いんだが……ロジータのいう綺麗ってのは、どんな女だった?」
「うーん」
ぼんやりと頭に浮かんでいるのは、ギルドの制服と、真っ赤な口紅、それに薄い水色の瞳。
「それに、なんか香水の臭いがきつかったです」
「それだけわかれば、誰だか俺でもわかったぞ」
ホーマックさんの顔が一層怖い顔になりました。
その受付の女性は、過去に何をやらかしたのでしょうか。
夜空の面影を残す青さから、朝日がゆっくり昇って空が赤く染まっていきます。
今日は一日、天気が良さそうです。
澄んだ朝の気配が消えた荒野を、しっかり『隠蔽』と『身体強化』で走り続けていると、途中、街道のほうを走る馬車や徒歩の旅人の姿がポツリポツリと見えてきました。
そんな彼らとすれ違い、しばらくすると、石壁で囲まれた街が見えてきました。
――アーカンスの街が見えてきた!
住んでいる時には気にしたこともありませんでしたが、けっこう大きな街のようです。
午前中のせいか、まだ街に入るための列はできあがっていないようです。
私は『隠蔽』と『身体強化』をやめると、街道に戻って、ゆっくりと大きな門の方へと向かいます。
「おや? ロジータじゃねぇか」
「おはようございますっ!」
私は運がいいようです。今日の門の衛兵は、顔見知りのホーマックさんでした。
以前、彼女の奥さんの妊婦時代に、街中でしゃがみこんで動けなくなっていた彼女をお世話したことがあって、その時から何かと気にかけてくれるおじさんです(おじさんと呼ぶと怒りますが)。
「どうした。お前さん一人かい?」
10歳の子供である私が、こんな時間に外から戻ってくるのですから、不審に思われても仕方がないかもしれません。
「はい、ダンジョンから戻ってきたところで……同行してたパーティから置いてけぼりくらっちゃって……」
「ダンジョン? そういやぁ、今度、冒険者ギルドに登録したんでポーターの初仕事があるって言ってたな。もしかして、それか」
私はコクリと頷きます。
「よく戻ってこれたな……だいたい、こんな小さい子を置いてけぼりにするなんて! そいつらは、なんていうパーティだ」
ホーマックさんの剣幕に、他の衛兵たちも集まってきました。
「えーと、パーティ名は……『黄金の……』なんとかっていう」
正直、覚えてません。どんだけ記憶力がなかったのでしょう。お恥ずかしい限りです。
ちょっとお馬鹿な私のことを知っているのでしょう。ホーマックさんは一緒に真剣に考えてくれます。すると、別の衛兵のお兄さん(たぶん、ホーマックさんよりも若いです)が、思いついたという顔をして教えてくれました。
「『黄金』といやぁ、ゲイリックのいる『黄金の獅子』じゃないかい?」
「えーと、今はDランクで、今度Cにあがるって言ってました」
「じゃあ、やっぱり、『黄金の獅子』だろ」
「あいつらかっ!」
おやおや、衛兵たちが渋い顔をしています。ギルドの中では有望株という話でしたが、衛兵たちから見ると、また違う一面があるのでしょうか。
「まったく、なんだってロジータがアイツらのポーターなんだ。ポーター初仕事だろ?」
「うーん、わかりません。ギルドから指名だって言われて」
「はぁ!?」
衛兵たちが一斉に凄い顔になります。
そうこうするうちに、街に入ろうとしている馬車がやってきたようで、対応しに何人かの衛兵が離れていきます。
「なぁ、誰かしばらく代わってくれないか」
ホーマックさんが怖い顔で、仲間の衛兵に声をかけます。
「いいっすよ、俺、代わります」
「すまねぇな。よし、ロジータ、俺が一緒にギルドまで行ってやる。その指名だって言った奴の顔は覚えてるか?」
「え、はい。あの、綺麗なお姉さんでした」
「綺麗かぁ、受付やってる子たちは、綺麗どころが多いんだが……ロジータのいう綺麗ってのは、どんな女だった?」
「うーん」
ぼんやりと頭に浮かんでいるのは、ギルドの制服と、真っ赤な口紅、それに薄い水色の瞳。
「それに、なんか香水の臭いがきつかったです」
「それだけわかれば、誰だか俺でもわかったぞ」
ホーマックさんの顔が一層怖い顔になりました。
その受付の女性は、過去に何をやらかしたのでしょうか。
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