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第10章 負けない私と人気俳優の彼

72 side遼

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 あんなに怒った美輪を見たのは、初めてだった。

 いつだって、『しょうがないなぁ』と、どこか諦めた顔をしてたのに。諦めても、優しい笑顔で見てくれてたのに。
 美輪は自分を『日陰の女』みたいに思ってる節がある。
 だから、僕のスキャンダルですら、仕事だからと受け入れてる気がする。
 僕にとっては、彼女がいるから、あんなことでもがんばれるのに。

 それにしても。今回はやられた。兵頭さんが、美輪に『宣戦布告』するとは、思いもしなかった。だって、阿川さんがいるんだぜ?
 男の僕から見たって、あんないい男、そうそういない。
 何をとち狂って、僕なんだ?
 確かに、彼女は美輪と同い年だから、年齢も近いし、よく仕事でも一緒になってたけど。

 嫌がらせに疲れたのか。それとも、この前の事故の……つり橋効果?
 ただでさえ、美輪との時間が少なくて、まいっているのに、余計なことをしてくれる。
 干からびてしまうのではないかっていうくらい泣いてた美輪を抱きしめて、ちゃんと僕に縛りつけないと、僕の方がおかしくなりそう。

「僕が愛してるのは、美輪だけだよ」

 美輪に言い聞かせた言葉。
 ガラスに映る、女の姿。肩が震えたように見えたから、ちゃんと彼女にも伝わっただろう。僕の美輪を傷つけるやつは、誰であっても許さない。
 
 ――それがたとえ、先輩の彼女であっても。

 寺沢さんの脅し(?)が効いているのか、美輪は僕たちの関係を誰にも話していないらしい。一馬や吾郎兄さん以外には。
 いじらしいくらい自分の中にため込んでしまっているようで、かわいそうになる。
 まぁ、僕のため、って思ってくれてるからなんだけど(エヘッ)。
 久しぶりに病院で抱きしめた時、前よりも痩せてた気がした。
 僕は、少しぽっちゃりしてるくらいが好きなのに。このままじゃ、僕の好きな美輪じゃなくなっちゃう。

 僕はちょっとした行動を起こした。それは、ちょっとした賭けでもあった。
 寺沢さんに怒られたけど。

 退院直後、僕は寺沢さんに美輪の会社まで車で連れて行ってもらった。
 目的は、美輪の先輩の本城さん。
 そこはやっぱり女の先輩のほうがいいだろうと思ったのだ。美輪もすごく尊敬している先輩みたいだし。
 僕は寺沢さんに、本城さんを近くのカフェに呼び出してもらった。

「本城さん、ですか?」

 美輪曰く『ドラキュラ伯爵みたい』な寺沢さんを見ても動じずに、軽く頷いた本城さん。

「はい。神崎のことでお話があるとか?」
「私ではなく、彼が、なんですけどね。」
「どーも」

 サングラスをはずして、挨拶をした僕を見て、少しだけ目を見開いた彼女。
 なかなか、肝が据わってる。

「相模 遼さん?」
「はい」
「……神崎とは?」
「付き合ってますよ。僕の彼女です」
「!? じゃあ、ケガしたっていうのは……それですか」

 僕の包帯をした右手に視線を向けた。

「まぁ、そういうことです」
「遼くん、私は車に戻ってるから、早めにね」

 寺沢さんが出て行くと、本城さんは席に座った。

「なんとまぁ。神崎も面倒な相手と付き合ってるもんですね」
「面倒って……ずいぶんな言われようですね。」
「だってそうでしょうが。色々気を使わなきゃいけないだろうし……って、私にばらしちゃってよかったんですか」
「寺沢さんには反対されましたけどね。ちょっと美輪が、限界っぽいので。申し訳ないんですけど、本城さんにお願いしようかと」
「……何を?」
「美輪の愚痴のはけ口?」
「あの子は、絶対言いませんよ?」
「だったら、少しでもフォローしてもらえれば。どんな形でもいいんで」
「……かわいい後輩ですから、言われなくてもしますけど」
「でも、僕との関係を知ってるだけでも、フォローの仕方って変わってくるでしょ?」
「……」
「そういえば、美輪に言い寄ってきてたヤツって」

 一馬が言ってた僕のライバル(?)は、その後、どうなったんだ?

「!? そんなことも知ってるの?」
「ああ、彼女からは聞いてませんけどね」
「……私の同期の笠原から聞いたけど、神崎のお兄さん経由で相談されて、なんとか落ち着いてるはず。だから、心配いらないと思うけど」

 よかった。これで、心配事は一つ減った。

「ためこんじゃう人なんで、よろしくお願いします」
「神崎、愛されてるのね」
「本人は、僕の大きな愛なんて気づいてませんけどね」

 クスクス笑っている僕をみて、呆れた顔をした本城さん。

「とりあえず、このことは本城さんだけってことで」
「わかりました。代わりに、ここ、奢ってくださいね」

 これくらい、美輪のためだったら、安いものだ。
 ……さぁ、次はどうしようか。
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