上 下
42 / 95
第6章 信じたい私と人気俳優の彼

42

しおりを挟む
 遼ちゃんが、私の部屋にきたのは、もう少しで日付が変わる頃。いつものラフな格好で、神妙な面持ちで、部屋に入ってきた。

「……とりあえず、座って」
「……ん」

 小さなテーブルの前に、正座する遼ちゃんは、まるで、親にでも説教されるのを待っているような、そんな感じ。

「何か、飲む?」

 なんとか、自分の感情を抑えようと、目も合わせずに、淡々と話をはじめた。

「……いや」
「そう……私、ホットミルク飲むけど」
「……美輪さんが飲むなら」

 遼ちゃんは、テーブルの上に視線を集中しているようで、顔をあげない。そんな彼をほうっておいて、私は冷蔵庫から、牛乳にハチミツを取り出した。
 何気なく入った雑貨屋さんで見つけた二匹の猫が自転車をいっしょにこいでるマグカップ。いつか、二人で一緒にコーヒーでも飲めたらいいなって、ちょっと期待して買ったマグカップ。キッチンに二つ並べて、ホットミルクを注ぐ。
 その間、私たちの間には、なんの会話もない。
 ちゃんと、遼ちゃんに向き合えるか、自信がなくて、牛乳が温まるまで、ずっと背を向けてたけど、もう、時間切れ。

「……はい。」
「ん」

 両手でマグカップを抱え込む遼ちゃん。

「まだ、ちょっと熱いね」
「ん」

 さっきから「ん」しか言わない。ふっと、遼ちゃんの顔を見ると、青白い顔してる。なんか、私の方が悪いことしているみたい。

「フフッ」

 思わず、笑ってしまった。
 ハッと、顔を見上げた遼ちゃんは、あまりにも悲痛な顔で、その表情を見たら、ああ、負けたなぁ、って思ってしまった。
 これが迫真の演技だったとしても、もう騙されてあげようかって思うくらい。

「み、美輪さんっ」
「うん」

 じっと、遼ちゃんの目を見つめた。
 遼ちゃんも、目をそらさなかった。

「誤解させるようなことして、ごめん」
「……誤解」
「僕、キスなんてしてないからっ」
「それは、もういいよ」
「……」
「私にはそう見えたってだけだし」

 下唇をかむ遼ちゃん。

「ちょっと見間違えたのかもしれない」
「でも、それを見て、ショックだったんでしょ?」

 いつになく必死な遼ちゃんが、可愛く思える。

「なんか、今日はよわよわモードだね。遼ちゃん」
「……余裕だね、美輪さん」

 悔しそうな遼ちゃんの言葉に、私も本音が零れる。

「全然、余裕なんかないよ」

 ふっと、マグカップに目をおとす。

「自分に自信ないから、ちょっとしたことで、不安になる」

 そう、きっとあの時も、角度によってはキスには見えなかったのかもしれない。

「私、遼ちゃんの作品、怖くて見られないんだ。……お芝居だってわかってても、嫉妬してる自分が嫌なの」

 ああ、何言ってるんだろ。でも、言葉は止まらない。

「仕事って、わかってる。頭ではね」

 遼ちゃんの右手が、マグカップを持つ私の手をつかんだ。
 大きな手。本当に、男の子って、いつの間にかに大きくなっちゃうんだな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

隠れ御曹司の愛に絡めとられて

海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた―― 彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。 古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。 仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!? チャラい男はお断り! けれども彼の作る料理はどれも絶品で…… 超大手商社 秘書課勤務 野村 亜矢(のむら あや) 29歳 特技:迷子   × 飲食店勤務(ホスト?) 名も知らぬ男 24歳 特技:家事? 「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて もう逃げられない――

冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています

朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。 颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。 結婚してみると超一方的な溺愛が始まり…… 「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」 冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。 別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)

処理中です...