上 下
24 / 95
第3章 夏休みの私と人気俳優の彼

24

しおりを挟む
 部屋の外が騒がしくなった。

「美輪~、お兄ちゃん帰ってきたわよ~」

 母の暢気な声が響く。

「一馬っ!」
「おうっ!」

 二人そろって部屋を飛び出すと、長い廊下を走った。
 玄関先には、小さな鞄だけ持った兄、吾郎がいた。

「兄ちゃん!」
「吾郎兄!」

 二人同時に飛びついた。

「おいおいっ、二人は無理だろっ!」

 そう言いながら、百九十センチ近い巨体で抱き留めてくれる兄。

「お帰りなさ~い!」
「お正月以来だね!」
「一馬、もうでかいんだから、やめろや~。重いってーの」
「吾郎兄なら大丈夫だっ!」

 兄にじゃれつきながらついていく一馬。
 ちょっと、私のお兄ちゃんなんですけどっ!
 普段は大阪のIT企業にお勤めの一回り年上の兄・吾郎。アメフトで鍛えた巨体のわりに、システムエンジニアをやってる。
 ふふ。身体の大きい笠原さんとの共通点かもしれない。

「美輪、仕事はどうだ?」
「うん、大変だけどがんばってるよ」
「一馬は、大学何年になったんだっけ?」
「もう、今年入学したばっかりだよ。」
「そうか~。お前もでかくなったよなぁ。」
「兄ちゃん、お嫁さんは? まだ結婚しないの?」
「お前なぁ……相手がいなきゃ、無理だっつーの」

 身内贔屓かもしれないけど、兄はそこそこのイケメンだとは思うんだけどな。

「お前は、どうなんだよ。彼氏、できたか?」

 一瞬凍りつく私。自分で墓穴掘ってどうするんだ。無言のままの私に、勝手に判断する兄。

「……はっはっは。まぁ、いいさ。もし、できたら親父より先に俺に紹介しろ。俺がちゃんと見てやる」
「……はははは」

 白い眼で一馬に見られている気がする。でも、まだ、つ、つっきあってるわけじゃないし。

 一番広い和室に大きな低いテーブルを出して、そこに大皿に盛った料理が並べられていく。実家でみんなで夕飯を食べるのは久しぶり。
 兄も忙しくしているようで、なかなか実家に戻ってこない。システムエンジニアのくせに、L〇NEもやらず、連絡手段はメールだけ。そのメールだって、ほとんどくれない。まぁ、私じゃなくて、かわいい誰かがいればいいんですけど。
 久しぶりに息子を見る両親の嬉しそうな顔。でも、兄もそろそろいい年。孫とか早く見たいとか、思うのかなぁ。

「美輪、これ食わないなら、ちょうだい」

 油断した好きに、から揚げを一馬に盗まれた。

「あっ! 最後に残してたのにっ!」

 モグモグしながら、ニヤっとする一馬。

「……ふ。隙があるほうが悪いんだよ。あー、やっぱ、おばちゃんのから揚げ、うめぇぇっ!」

 さりげにおべっか使う一馬がムカツク。

「ご馳走様!」

 そういって、すぐにテレビの前を陣取る一馬。

「へっへっへ、今日、俺がエキストラで出てたドラマの放送あるんだよねぇ。」

 スマホを片手にテレビのチャンネルを変えつつ、呟く。

「今度は何に出てるんだ?」

 和室から、兄の声が飛ぶ。

「サスペンスドラマ! 死体役じゃないよっ」

 言いながら、スマホをいじりだす。

「見つけるのが楽しみだな。見つかる大きさで映ってれば。」

 母に茶碗を渡しながら、ニヤニヤする兄。

「吾郎兄、ひどいっ」

 スマホの画面から目をあげず、こいつもニヤニヤ。ふっと目をあげたと思ったら、

「美輪、美輪のスマホどうした?」
「鞄の中だよ。」
「早く、見たほうがいいと思うぜ」

 悪魔の微笑みを浮かべた一馬に、絶対見ない方がいい、と私は本能的に思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

愛するオトコと愛されないオンナ~面食いだってイイじゃない!?

ルカ(聖夜月ルカ)
恋愛
並外れた面食いの芹香に舞い込んだ訳ありの見合い話… 女性に興味がないなんて、そんな人絶対無理!と思ったけれど、その相手は超イケメンで…

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

処理中です...