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第8章

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 道から少し離れたところを、忍び足で歩く。これはホビット族の村で狩りをする時に教えられた。まさか、こんな所で使うことになるとは思わなかった。
 その道は、時折、馬やら馬車が通り過ぎていくが、さすがに助けを求める気にはならない。あいつらの仲間ではない、と、判断がつかないから。
 俺はただ黙々と歩いていく。
 たまに、精霊の玉が、ふよふよと離れていったかと思ったら、食べられる木の実を取ってきてくれる。お腹いっぱいになっていても、止まらないので、それらはローブのポケットに入れている。今では、溜まりすぎて、ポッコリと膨れている。

 あの屋敷から離れて、何時間経っただろう。そろそろ日が暮れてきた。
 野営をしなくちゃならない、と思った時、こんな森の中じゃ、獣が出てもおかしくないことをも思い出した。下手をすれば、魔物だっている可能性だってある。今まではへリウスが守ってくれていたから、気にならなかっただけだ。

「まずいな……どうしよう……」
『どうかしたか?』

 思わず出た呟きに、エアーが反応した。

「もう日が落ちるだろ? どこかで野営しなきゃと思ったんだけど、俺、何も持ってないからさ」
『ヤエイ? ああ、野営か!』
「今までは運よく、獣や魔物とかには出会わなかったけどさ、夜になったら、わからないだろ?」
『大丈夫だと思うぞ?』
「へ?」

 なんと、精霊たちのおかげで、魔物たちは避けてくれてるらしいのだ。一つ、二つくらいじゃ、効き目はないのだけれど、これだけ大量にいると近寄ってこないのだとか。

「すげぇ……」
『もっとも、こんなに集まることは滅多にないがね』
「それでも、凄いよ」

 これが人の目には見えないっていうのは、残念なところだけれど、今の俺にはありがたい。精霊たち自身の光のおかげで、すでに暗くなっている森の中でも歩けている。

『……♪』
『なるほど、ハル』
「うん?」
『少し左奥に行ったところに、大きな木があるんだが、そこにハルが入れそうなくらいのうろがあるらしい。コイツが見つけてきたんだ』

 そう言って、エアーの隣に浮かぶ青い光の玉がぽよぽよ動いた。なんか自慢気に見えるのは気のせいだろうか。

「うろ? ああ、穴が開いてるってこと?」
『ああ。そこで今日は休むのはどうだ』
「そうだね……俺もいい加減、疲れたしな」

 実際、歩くペースも落ちてきている。青い光の玉が先行して目的の木へ行くのを、足を引きずるような感じでついていくと、本当に大きな木があった。

「おおお……」

 見上げたところで、夜空すら見えない。

『あそこだな』

 エアーに言われて目を向けると、光の玉たちが中に入って明滅している。なんか楽しそうだ。

「あれだけ大きいと、蜂とか虫がいたりしない?」
『大丈夫だ。あそこに先住するものはない』

 そう言われてホッとする。中をのぞくと枯れ草が敷き詰められていて、俺が横になっても十分な広さがありそうだ。

「はぁ……少し休もう。さすがに……俺も……疲れた」

 腰かけた瞬間、俺の疲れは限界だったみたいで、簡単に意識がとんでしまった。

            *  *  *  *  *

「お、やっと見つけたぜ……おい、おい、起きろ」
「う、う~ん……えっ!?」

 知らない男の声ととも、身体を揺らせて、無理やり起こされた。おかげで眠気もぶっとんだ。まさか、精霊たちがいなくなったのか、と思って、周りを見るが、少なくない数の光の玉は浮かんでいる。

「おい、大丈夫か?」

 そう優しく言われて、改めて男へと目を向ける。長い金髪のくせ毛を一つに結んでいて、その金髪からは大きな白い耳が出ている。

「あ……獣人……」

 すげぇ、イケメン。へリウスもイケメンだったけど、アレはワイルド系で、こっちのはもうちょっと細マッチョな王子様系って感じ。獣人って、みんなイケメンなのか?

 ……って、そんなことを考えている場合じゃない!
 まさか、あいつらの仲間か!?
 ヤバいっ!

 だけど、俺はびっくりし過ぎてて、反応が遅れてしまい、しっかり捕まえられてしまったのであった。
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