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第9章

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 エリザベス様主催のお茶会は和やかに進み、いらしたお客様たちは満足して帰られた。主に、父様の話題のおかげで。
 自分としては大した内容でもないと思ってはいても、貴族のご令嬢たちからしてみれば、恋愛小説を地でいったような話なわけで、本人たちがすでにいなかろうと、興味はつきない、といったところであろう。
 しかし、そのおかげで、他のご令嬢たちとも、友人と言ってもいいお付き合いをさせてもらえるようになったのだから、ありがたいと思うべきなのだろう。

 その一方で、私が王家の、特にカインとも交流があるというのに反感を持つ家も出てくるわけで。

「まぁ、元平民風情が、なぜ、ここにいるのかしら」

 私の向かいの席に座り、扇子で口元を隠して文句を言ってくるご令嬢。明らかに、私よりもずっと年上で、お茶会に着てくるには、ちょっと派手目なドレス。正直、どこのどなた? という感じ。
 今は、学校で知り合った伯爵令嬢の家が主催のお茶会に来ている。
 彼女とはクラスは違っても、エリザベス様経由で知り合った。たまに、エリザベス様とご一緒していることもあるので、てっきりエリザベス様もご招待されているのかなと思って、素直に参加させていただいたのだけれど。
 案内されたテーブルに同席されている方たちは、見るからに年上で、知っている顔がまったくない。周囲を見回すけれど、学校の知り合いもいない。

 ――あー、もしかして、嵌められた?

 単純に、仲良くなったかな、と思ったのは私の勘違いだったようだ。残念だ。
 しかし、ここでいきなり席を立って出ていくのもしゃくにさわる。私は、彼女の言葉を完全に無視をし、目の前のティーカップに口をつける。

 ――苦い。

 これ、本当にお茶会に出すようなお茶?
 思わず、眉を顰めそうになったけれど、なんとかこらえて、そのままテーブルへとティーカップを戻す。

「まぁ。さすが、元平民だけあって、下々が飲むような野草茶を飲んでも平気なのね」

 コロコロと笑うのは向かいに座る、先ほど私に文句を言ってきたご令嬢。ほんと、めんどくさい。

「エリカ様、あのような者にお声などおかけにならなくても」
「そうですわ。所詮、元平民なんですし」

 その元平民は王妃様の親戚なんですけどね。
 それを分かってて、貶めるというのは、王妃殿下に対する不敬なんじゃないのかなぁ、と思いながら、テーブルにいるご令嬢の顔をジッと見る。
 彼女たちの名前はわからないものの、顔だけは覚えておこう。後で、バーンズ伯爵夫人に報告してやる。

「なんでも、カイル殿下にまで、馴れ馴れしく振舞っているとか」
「まぁ、それこそ不敬ではなくて?」
「カイル殿下がお優しいからといって」
「きっと、カイル殿下も、平民が物珍しいのでしょう」

 大人しくしている私を目の敵のように、散々、平民、平民と、悪口を言ってスッキリしたのか、しばらくすると完全に無視して私のわからないような話をしだすご令嬢たち。
 目の前のデザートも、他のご令嬢たちと差をつけられているのは歴然。
 これでも、高級宿屋で貴族相手のスルースキルを学んできた私。身分をかさに着て文句を言ってくる貴族を見てきている。しかし、いい加減、我慢の限界だった。
 私はその場を立ち上がり、化粧室に向かうふりをして、そのまま伯爵家を後にした。
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