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第8章

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 居心地の悪い学校での生活も、あっという間に終わってしまった。
 できるだけ目立たないでいようと思って入学したのに、卒業する時には、ここまで目立つことになるなんて、誰が予想しただろうか。

「ファルネーゼ子爵令嬢は、アストリアの上級学校に行かれるんですって?」

 どこから情報が漏れたのか、卒業式のために登校した私に、教室にいた数人の貴族のご令嬢たちが群がってきた。
 はっきり言って、今までまともに会話をしてきたこともない、高位貴族のご令嬢たちだ。その取り巻きの下位貴族のご令嬢ですら、たまにしか話したことなどなかったのに。

「貴女みたいな平民上がりに、あちらの学校でやっていけるのかしらぁ?」
「確か、ヴェリーニ侯爵令嬢が、同じ学校に行かれるのではなかったかしら」
「まぁ、それはお気の毒に」

 あー、はいはい。
 大丈夫です。そのヴぇなんとか令嬢には、接近しませんから。
 アストリアの学校に行けるのは、好成績の者か、上位貴族くらいのものなので、私みたいな『平民あがり』でそこそこの成績でしかない私が行くのが、気に入らないのだろう。

 ――行かないで済むなら、私だって行きたくはないですよ。

 しかし、一応相手は私よりも上位の貴族のご令嬢たち。言い返すわけにもいかず、笑みを貼りつけるだけで、聞き流す。
 私が反応しないのが面白くないのか、しばらく、グダグダ言われてたけれど、式の開始の案内で、やっと離れて行ってくれた。

 卒業式の式典には、子爵夫人だけではなく、サカエラのおじさんも来てくれた。
 前の方の席に二人が並んで座っていて、穏やかな笑みを浮かべている。私も、笑みを浮かべながら、席に向かおうとしたのだけれど。

「……え゛」

 なんか見覚えのある人が2人いる気がするのは、気のせいだろうか。
 たぶん、平民のふりをしようとしたんだろうけど、全然、平民に見えませんから。

「エルドおじさんに……おう、じゃなくて、イレーナ様……!?」
 
 思わず、呟いたタイミングで、目が合ってしまった。
 二人とも、嬉しそうに手を小さく振っている。平民がいるような学校に、隣国の、それも国王と王妃がいるとか! 駄目でしょ!?
 え、護衛の人とか、どこかにいるのかしら、ときょろきょろ見ていると。

「早く行って」

 後ろにいたクラスメイトの子が、こっそり言う。

「あ、ごめん」

 私は慌てて、自分の席に座る。
 サカエラのおじさんたちは知ってるんだろうか。

 ――知ってても、教えないところ、あるもんなぁ。

 まだ母が生きていた頃、サカエラのおじさんとエルドおじさんから、理由もなくいきなりプレゼントをもらったりして、びっくりさせられたことを思い出した。

 ……でも、国王陛下と王妃殿下が国離れていいのか。それも、たかが子爵令嬢の卒業式に。

 思わず、大きくため息をついた私は、これ以上考えることを放棄することにした。
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