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第7章

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 颯爽とサロンに入ってきたカイルは、見事に『王太子』然とした感じで登場した。
 前にオルドンに来たときは、平民の、それも冒険者みたいな格好だったのに、今は上等な黒い生地の礼装で現れた。キラキラである。

「ダルン侯爵、いきなりで失礼する」

 にこやかな笑みに、ファルネーゼ子爵夫人も頬を染めている。さすがアストリアでも人気の王太子殿下だ。知らなければ、これで一児の父親とは、誰も思わないだろう。
 一方で侯爵は、若干強張った顔をしながらソファから立ち上がると、カイルの前へと進んでいく。

「ご無沙汰しております。カイル王太子殿下」
「まさか、貴公とこのような形で会うとは思ってもみなかったよ」
「それは、こちらの方こそですよ」

 このやりとりからも、二人は面識はあるということなのだろう。

「さて、サカエラ、とりあえずは無事にレイを守り切った、というところかな」

 さすがにおじさんの家ではないから、いつもの気楽さはなく、王族としての対応をしているのだろう。見慣れないせいか、違和感を感じて笑いそうになる。ちょっと口元がムニュムニュっとなってしまうのは、ご愛敬だろう。
 侯爵と同じように立ち上がり、カイルの方へと向かうサカエラのおじさん。

「そうですね……しかし、貴方様がわざわざオルドンまでいらっしゃることはなかったでしょうに」
「陛下が心配されててね……ご自身が出向きそうだったから」

 その言葉にギョッとする私たち。
 侯爵たちは、なぜアストリア国王が私みたいな平民のことを、と思ったのだろうし、私たちにしてみれば、帰ったばっかなのに、と。もしかして、仕事が溜まっててそれが嫌で、とかないよね、なんて思っていたら。

「フフフ、きちんとご自身の仕事はしてもらわないとね」

 意味深な笑みに、引きつった笑みを浮かべる私。
 そんなカイルの背後にいるのは、見覚えのある護衛の二人。リシャールさんとチャールズさんだ。二人ともに疲れた顔をしているのは、カイルの強行軍にでも付き合わされたのだろう。お気の毒さま、である。

「レイ、久しぶりだね……本当に前髪を切ってしまったんだね」
「お久しぶりでございます」

 満面の笑みを浮かべたカイルに、私は学校の礼法で学んだカーテシーを思い出しながらやってみる。ちゃんと出来ただろうか。
 そんな私の不安な気持ちをよそに、カイルは私の元に来て、私の手を取る。

「すっかり貴族のご令嬢のようだね」
「いや、あの、全然です、全然!」
「フフフ」

 眩い笑みに、私がくらっと来ているうちに、私の手の甲にキスをした。

「えっ」
「えっ」
「ひえぇぇぇぇ!?」

 思わず叫んでしまった私は、悪くない……と思う。
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