ご落胤じゃありませんから!

実川えむ

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第6章

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 私の苛立ちなど気にすることもなく、マイア―ル男爵は話を続ける。

「で、今回、こうして君に会いに来たのは……祖母が、君にとっては曾祖母にあたるんだが、君に会いたがってね」
「は?」
「祖母も、もう80歳を越えてね。まぁ、いつお迎えが来てもおかしくはないんだが、最後の願いとでもいうのかね。息子の血筋に連なる者に会いたいのだそうだよ」

 80歳を越えているっていうのが凄い。周りでそんな高齢の人なんて、見たことがない。しかし、そんなのもっと早く言えばよかったのに、と、私は思うんだけど。
 男爵は淡々と言っているようだけど、その瞳は何か思惑があるのか、嫌な目つきをしている。まるで値踏みでもしているような感じで、不快だ。
 チラリと、エルドおじさんの言っていた『男爵たちとは関係ない第三者』という言葉が頭をよぎる。

「ちょうど、メリンダが亡くなった頃、うちのほうでは母が倒れてね。それで、君のほうまで手が回らなかったんだが、ようやく落ち着いてきてね……祖母の願いを叶える余裕もできたというわけだ」
「でしたら、何も、こんな学校でする話ではないのでは」

 隣にいた先生が、不思議そうに横から話し始めた。

「彼女となかなか接触できる環境になかったのでな」

 そう言われて首をかしげたくなる。
 だって、街にはよく買い出しの手伝いで出かけているし、声をかけるだけであれば、いくらでも機会はあったはず。そうでなくても、サカエラのおじさんに接触することだって可能だったんじゃないか? と、私は思ってしまう。

「……私の保護者はサカエラ商会のサカエラさんなので。私個人に話をされても困ります」
「しかし、君がどうするか決めればいい話だろう……というか、私はそれに関係なく、祖母のもとに連れていくつもりだがね」

 ジロリと睨みつけられて、ビクッと身体が震える。
 なんとなく、この人の思惑には裏がありそうで、素直に「行きます」だなんて言えない。

「とにかく、サカエラさんと相談してからにします」
「フンッ……なるべく早めに屋敷の方に連絡をしろ。」

 先生と一緒に、応接室を出て行くマイア―ル男爵の後ろ姿を見送る。
 彼が立ち上がって気が付いた。唯一親戚と思えたのは、あの人もそれほど背の大きな人じゃないということ。私も母も小柄な部類に入るから。
 あれで大柄な人だったら、先生がいてくれたとしても、もっと怖く感じたかもしれない。

「サカエラ氏がいるから大丈夫だとは思うが……マイア―ル、気を付けろよ」

 先生も何かしら感じるものがあったのだろうか。心配そうにそう言ってくれた。私はなんとか笑みを浮かべて小さく頷いた。
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