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第2章

10 sideカイル

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  絵姿を見ていた優しい表情とは裏腹に、私に向ける表情は冷たい。

『で、あなたは誰ですか』

 両手を胸で組んで、見下ろしてくるレイ。
 学園の二年生というと、年齢としては十六才。確か、この国では成人のはずだ。
 しかし、見た目が十三、四才くらいの、多少子供っぽい容貌で、可愛らしくて思わず微笑みそうになる。

『何が楽しいんですか』

 余計に彼女の怒りを煽ってしまったようで、ますます顔をしかめられてしまう。

『そんな不機嫌な顔をするものじゃないよ。レイ。私は、君が言う『エルドおじさん』の息子のカイルだ』

 私の言葉に、レイが面白いほどに驚いた顔をした。
 義父は私の存在を話していなかったのだろうか?

『おじさんの息子?』
『ああ。義理の親子だけどね。正確には年の離れた異母兄弟なんだ。』
『え? なんで?』
『ん~、義母が子供が生めない人でね。でも、跡取りが必要で、義父の血縁関係の中で、一番近かったのが私なんだ。』

 そう説明しても、どこか信用してない顔をしている。
 実際、かなり事実を端折っているのは確かなので、彼女が簡単には納得しないのも仕方がない。

『じゃあ、これを見るかい?』

 そう言って、私は普段から持ち歩いている絵姿を胸元のポケットから取り出す。掌のサイズにおさまった持ち運び用のそれは、つい最近増えた、私の大事な宝物の一つ。義父と私と息子のテオドアが描かれているものだ。テオドアの三才の祝いにと、王室の絵師に描かせ、錬金術師に劣化防止の加工をさせたものだ。

 気がつくと、隣に座って私の持つ絵姿を覗きこんでいるレイ。
 前髪で隠れてしまっている目は見えないけれど、体を乗り出して見てくる姿は、少し子供っぽいかもしれない。

『ほら、これだよ』
『あ! おじさんだ!』

 嬉しそうな声で絵姿を食い入るようにみつめている。

『この子は?』
『私の息子のテオドアだよ』
『へぇ、エルドおじさんは、おじいさんだったんだね!』
『ああ、そうだ』
『おじさんは、元気? 私、最近会ってないから、心配だったんだ。時々、青い鳥で手紙はくれるけど、短い文章だし』

 義父が彼女とこまめに連絡をとっていた様子に、少し驚く。
 一方で、心なしか、沈んだ声で話をしているのを見ると、本当に義父が大好きなんだというのがわかる。そんな彼女を見ていると、自分でも不思議と、口元に微笑みが浮かんでしまう。

『……実は、最近、体調を崩しているんだよ』
『!?』

 驚いたように私の顔を見上げてきた。
 やっぱり、この前髪は邪魔だな。あの素敵な金色の瞳が見えないのは、もったいない。私がじっと見つめたせいか、レイは顔を真っ赤にして顔をそらそうとしたので、小さな顎をとらえて、私のほうに顔を向けた。

『なぜ、前髪を伸ばしているんだい?』

 その言葉は、彼女には聞いてはいけなかったのか。
 急に不機嫌な顔をして、私のそばを離れた。それと同時に、廊下を誰かが慌ただしく走る足音がした。

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