上 下
77 / 81
第10章 やっぱり、ケダモノよりもケモミミが好き

68

しおりを挟む
 パティの登場に、それほど動揺を見せないへリウス。そして私も、フーカの『臭い』から、新たな獣人が来た可能性は考えてた。
 ただ、それがパティだったのは意外だったけど。
 それも、王太子と一緒とか。私のことを王家にチクったのは、コイツなのは確定だな。
 私たちの反応が不服なのか、パティは不機嫌そうな顔に変わる。

「パティ、なぜ番になってないとわかるのだ」

 そんなパティの様子に気付かずに、私の顔を見つめながら期待をこめた声で問いかける王太子。うわぁ~、気持ち悪い。

「……獣人はね、相手が本当に番っていれば、嫌っていうくらいにお互いの匂いをまとっているもんなんです。当然、その匂いは他の獣人にはまるわかり」
 
 その言葉にちょっとゾッとする。どんだけ執着心あるのよ、獣人は。

「でも……ヘリウス様にも、メイリン……様にも、その匂いはまったくございません」
「であれば」
「はい、まだ」
「問題ないっ! メイリン! 婚約者殿! どうか、王都へ」
「行くわけないでしょ」
「ぐはっ」

 話しながらずんずんと私の方へと進んできたので、脇腹に回し蹴り、入れました。
 なかなかのクリティカルヒット! 
 やだー、鍛えた甲斐があるわ~。

「殿下!?」
「メ、メイリン様っ?! 何をなさいますかっ!」

 護衛の騎士たちが慌てて、床に転がった王太子を抱きかかえる。
 所詮、女子の蹴りなんだから、大したことないでしょうに、大袈裟な(鍛えてたけど)。

「あら、失礼」

 手で口元を隠しながら、私なりに最大限蔑んだ目で見下ろす。

「まるで変質者のようだったので、自然と身体が動いてしまいましたわ」
「う、ううう、へ、変質者……だなんて……」

 脇腹を抑えながら、うめき声をあげる王太子。

「あらぁ~、だって、そうでしょう? 婚約者候補が見ているのも構わずに、他の女と営んでいるところを見せつけるなんて~、変質者以外の何者でもないでしょうに」
「あ、あれは、ち、違うと」

 私の言葉に、赤くなったり青くなったりと忙しい王太子。護衛の者たちも知っている話なのか、彼らも何も言えなくなっている。

「はんっ、それが何だっていうのさ」

 どうでもいい、とでも言うように声をあげたのはパティだった。

「獣人だったら、そんなの、大した話じゃないわよ、ねぇ、へリウス様」
「……」
「私たちだってぇ~、散々、楽しんできたじゃないですかぁ~」

 するするとへリウスの傍に近寄ろうとして、手を伸ばそうとしたパティだったけれど。

「うっ」

 へリウスの冷ややかな視線を向けられただけなのに、顔を真っ青に変わっている。

「な、何、するん、ですかっ」

 段々と呼吸が苦しそうになっていく。何が起こっているのだろう?

「へ、へリウスさ、様っ」
「近寄るな」
「へッ、へ、リ」
「死にたいのか」

 その言葉でへリウスの本気が伝わったのか、ずるずると後ずさっていく。

「……お前とのことは、親が子供の面倒を見るようなものだった。それは獣人であれば、当然理解しているものだと思ったんだがな。お前が理解できていなかったのは、私の不徳の致すところではある」
「……」

 ギリリと歯を食いしばる音が聞こえるが、相変わらず、パティの顔は青ざめている。

「これ以上、番であるメイを苦しめるようなことをしないと誓ったのだ」

 ギュッと抱きしめながら、私の頭にまたキスを落とす。

 ――まったく。

 何をやっても絵になるへリウスに、ちょっとイラっとするのは仕方がないと思う。

「次に私に触れようとしたら、その腕、たたっ切るからな」

 おっと。いきなり、悪人モード。

「な、なんでっ」
「お前の両親にも、連絡済みだ」
「えっ」
「国に戻るならよし、そのまま冒険者を続けてもよし、ただし、私の前に二度と顔を出すな。次に顔を出したときは、命の保証はないと思え」
「そ、そんな」
「それくらい、運命の番は絶対なのだよ……今のお前にはわからんだろうがな、パティ」

 最後のその言葉を言うへリウスは、一瞬、少し寂しそうな顔をしたように見えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

君は僕の番じゃないから

椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。 「君は僕の番じゃないから」 エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。 すると 「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる イケメンが登場してーーー!? ___________________________ 動機。 暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります なので明るい話になります← 深く考えて読む話ではありません ※マーク編:3話+エピローグ ※超絶短編です ※さくっと読めるはず ※番の設定はゆるゆるです ※世界観としては割と近代チック ※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい ※マーク編は明るいです

拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。

香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー 私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。 治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。 隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。 ※複数サイトにて掲載中です

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

『番』という存在

恋愛
義母とその娘に虐げられているリアリーと狼獣人のカインが番として結ばれる物語。 *基本的に1日1話ずつの投稿です。  (カイン視点だけ2話投稿となります。)  書き終えているお話なのでブクマやしおりなどつけていただければ幸いです。 ***2022.7.9 HOTランキング11位!!はじめての投稿でこんなにたくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです!ありがとうございます!

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」  行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。  相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。  でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!  それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。  え、「何もしなくていい」?!  じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!    こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?  どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。  二人が歩み寄る日は、来るのか。  得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?  意外とお似合いなのかもしれません。笑

離縁してください旦那様

ルー
恋愛
近年稀にみる恋愛結婚で結ばれたシェリー・ランスとルイス・ヤウリアは幸せの絶頂にいた。 ランス伯爵家とヤウリア伯爵家の婚姻は身分も釣り合っていて家族同士の付き合いもあったからかすんなりと結婚まで行った。 しかしここで問題だったのはシェリーは人間族でルイスは獣人族であるということだった。 獣人族や龍族には番と言う存在がいる。 ルイスに番が現れたら離婚は絶対であるしシェリーもそれを認識していた。 2人は結婚後1年は幸せに生活していた。 ただ、2人には子供がいなかった。 社交界ではシェリーは不妊と噂され、その噂にシェリーは傷つき、ルイスは激怒していた。 そんなある日、ルイスは執務の息抜きにと王都の商店街に行った。 そしてそこで番と会ってしまった。 すぐに連れ帰ったルイスはシェリーにこう言った。 「番を見つけた。でも彼女は平民だから正妻に迎えることはできない。だから離婚はなしで、正妻のまま正妻として仕事をして欲しい。」 当然シェリーは怒った。 「旦那様、約束は約束です。離縁してください。」 離縁届を投げつけ家を出たシェリーはその先で自分を本当に愛してくれる人と出会う

処理中です...