上 下
59 / 81
第8章 狼は実は大型犬だったようですわ

52

しおりを挟む
 獣人がスキンシップが多いのは理解した。獣人同士だけではなく、人に対しても、頭をなでたり、ハグしたり、好意の表れなのは、わかっているつもりだ。
 ただ、その中でも、私が言いたかったのは……獣人特有の、所謂、発情期の発散させる行為のことだ。
 それを身近な年長者が行うというのは、彼らにしてみれば、オムツを変えるような行為と一緒なのだと、聞かされた時には、唖然とした。

 ――

 そう、人として、ありえない感覚なのだ。
 だけど、彼らにしてみれば、それが常識であり、一般的に行われているのだというのだ。その延長で、そのまま恋人になったり、婚姻につながる場合も、稀にあるらしい。
 パティの場合、そうなりたいと思ってしまったのかもしれないけれど、元々、へリウスにはその気はなかったのだろう。

 しかし。
 その獣人にとって普通なことであっても、私には、許せないのだ。
 私は、ゴクリと唾をのみこみ、どう言うべきか、言葉を選びながら話し始める。

「えと、その……貴方がパティにしたようなこと、これからも他の誰かにもするんだったら、絶対、無理」
「……パティにしたこと?」

 首を傾げているあたり、全然、まったく、思い当たっていないことが容易に想像できた。
 女の私から、こんなこと言わせるなんて。恥ずかしくて、頬が赤くなる。

「はぁ……」

 思いっきり溜息をつくと、ビクンッと肩を揺らして、一気に不安そうな顔になった。

「わ、悪い、どうにも、思い浮かばなくて……ど、どの行為のことを言ってるんだ?」
「……貴方、ミーシャが言ってたこと、覚えてないんではなくて?」

 こっちは恥を忍んで、言っていたのにっ!

「え、あいつ、なんか言ってたっけ……」

 まったく理解していないへリウスに、堪忍袋の緒が切れた。

「まぁっ! あんな破廉恥な行為をしておいて、覚えていないなんてっ! 獣人には当たり前であっても、私たち人族には不貞行為にあたるのよ! それを理解していないなら、絶対、無理! 嫌! さっさと城から出てって!」

 立ち上がって叫ぶ、私の猛烈な怒りに、へリウスの顔色が真っ青になる。

「ふ、不貞行為!? え? あ、もしかして、発情期のアレかっ!」

 アレか! じゃないわよっ!
 これ以上叫ぶのははしたない、と思って我慢するんだけど、体がブルブルと震えるのは抑えられない。

「あ、いや、アレは、しない、大丈夫だ!」
「何が大丈夫なのよっ!」
「アレは、番がいない者しかできないんだ」
「貴方には、私がいたじゃないっ!」

 そう、番がいたらできないなんて、言い訳に過ぎない。

「ちゃ、ちゃんと、番っていないとダメなんだよ!」

 ……はい?

「だから、その、ちゃんと番になっていると、アレはできなくなるんだ」
「なによ、それじゃ……私と番っていないから、ああいう行為をしたっていうの?」
「あ、う、うん、まぁ、それが、普通のことだったし……」

 私の顔から表情が抜け落ちた。

「じゃぁ、何。へリウス。その理屈だと、貴方は、私が他の男性と、そういうことをしても、理解できる、ということよね?」
「なんだと! そんなこと許さないっ!」

 そう叫んで立ち上がったと同時に、自分がしたことを思い返したのか「あっ」と声を漏らして、固まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

君は僕の番じゃないから

椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。 「君は僕の番じゃないから」 エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。 すると 「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる イケメンが登場してーーー!? ___________________________ 動機。 暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります なので明るい話になります← 深く考えて読む話ではありません ※マーク編:3話+エピローグ ※超絶短編です ※さくっと読めるはず ※番の設定はゆるゆるです ※世界観としては割と近代チック ※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい ※マーク編は明るいです

『番』という存在

恋愛
義母とその娘に虐げられているリアリーと狼獣人のカインが番として結ばれる物語。 *基本的に1日1話ずつの投稿です。  (カイン視点だけ2話投稿となります。)  書き終えているお話なのでブクマやしおりなどつけていただければ幸いです。 ***2022.7.9 HOTランキング11位!!はじめての投稿でこんなにたくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです!ありがとうございます!

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

離縁してください旦那様

ルー
恋愛
近年稀にみる恋愛結婚で結ばれたシェリー・ランスとルイス・ヤウリアは幸せの絶頂にいた。 ランス伯爵家とヤウリア伯爵家の婚姻は身分も釣り合っていて家族同士の付き合いもあったからかすんなりと結婚まで行った。 しかしここで問題だったのはシェリーは人間族でルイスは獣人族であるということだった。 獣人族や龍族には番と言う存在がいる。 ルイスに番が現れたら離婚は絶対であるしシェリーもそれを認識していた。 2人は結婚後1年は幸せに生活していた。 ただ、2人には子供がいなかった。 社交界ではシェリーは不妊と噂され、その噂にシェリーは傷つき、ルイスは激怒していた。 そんなある日、ルイスは執務の息抜きにと王都の商店街に行った。 そしてそこで番と会ってしまった。 すぐに連れ帰ったルイスはシェリーにこう言った。 「番を見つけた。でも彼女は平民だから正妻に迎えることはできない。だから離婚はなしで、正妻のまま正妻として仕事をして欲しい。」 当然シェリーは怒った。 「旦那様、約束は約束です。離縁してください。」 離縁届を投げつけ家を出たシェリーはその先で自分を本当に愛してくれる人と出会う

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

処理中です...